校閲に定評のある新潮社さん,どうして?(エッセイスト・小島慶子)性的少数者に関する知識と人権感覚の欠如/ 同性愛を「性的嗜好(しこう)」と表現していますが,正しくは「性的指向」です. 「生産性がない」など真の保守は言わない(漫画家・小林よしのり) 資本主義の「生産性」を基準に人を見たら,障害者の「生産性」にもつながってしまう.それは「ナチスの優生思想」と同じ/ LGBTが趣味ではなく,少数派の「宿命」であることが分かった今,それは認めるべきで,保守としての新たな常識です. サンデー毎日

サンデー毎日10月14日号 サンデーオピニオン

 LGBT差別と「言論」 『新潮45』休刊騒動 私はこう考える! 

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LGBT差別と「言論」 『新潮45』休刊騒動 私はこう考える! 

性的少数者(LGBTなど)への差別的な表現が批判された月刊誌『新潮45』.偏向商法と揶揄された発行元の新潮社は9月25日,休刊を発表したが,その“余震”はいまも続いている.騒動の核心とは一体何なのか.5人の論者が「差別と言論」に斬り込んだ.

 

“休刊”は最悪の選択. 『新潮46』で出直せ  ジャーナリスト・江川紹子

内部検証し,そのルポの公表を  評論家・荻上チキ

暗澹たる思いだが,絶望はしていない  漫画家・倉田真由美

校閲に定評のある新潮社さん,どうして?  エッセイスト・小島慶子

「生産性がない」など真の保守は言わない 漫画家・小林よしのり

 

校閲に定評のある新潮社さん,どうして?  エッセイスト・小島慶子

サンデーオピニオン:LGBT差別と「言論」 『新潮45』休刊騒動 私はこう考える! エッセイスト・小島慶子 - 毎日新聞

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新潮45』8月号の杉田論文を一読して感じたのは,性的少数者に関する知識と人権感覚の欠如です.誰しも,どのように生まれてくるかを選ぶことはできません.同性・異性どちらを好きになるかも自分では選べない.憲法で「基本的人権」が定められているのは,どのように生まれてこようとも,誰しも等しく生きる権利があるから.他人に価値を測られることなく,生き方を選ぶ権利があるんです.

 

 異性間なら生殖が可能だけど同性間では子供ができない(=生産性がない).したがってゲイであれレズビアンカップルであれ,税金を投じる必要はない,というのが彼女の主張です.国家にとって役に立つかどうかを生産性という言葉で表し,人間の価値を測る発想に,強い違和感を抱きました.あるべきカップル像にそぐわない人々は切って捨てるという発想は非常に差別的です.

 

 同誌10月号の再特集には,さらに驚きました.杉田論文の見解を擁護し,差別を助長するヘイト記事が掲載されたからです.

 

 内容に関しても,基礎的な知識すら欠くものでした.たとえば「新しい歴史教科書をつくる会」副会長の藤岡信勝氏は同性愛を「性的嗜好(しこう)」と表現していますが,正しくは「性的指向」です.「性的嗜好」はフェティシズムなどの性的な好みのことであり,どの性別が恋愛対象であるかという「性的指向」とは異なるのです.

 

 新潮社の校閲部は作業の緻密さに定評があるのに,どうしたことでしょう.私自身,同社から本を出版した際には,的確な赤字に何度も感謝しました.それだけに基本的な表記ミスがなぜそのままになっているのか,不思議でなりません.社としての謝罪も必要ですし,出版までの過程を明らかにしてもらいたい.

 

 今,気になっているのが報道のあり方です.この数年間,LGBTをめぐる報道が増え,言葉が広く認識されるようになりましたが,そうなると今度は「LGBT」が一括(くく)りの存在になる.私にも性的少数者の友人がいますが,彼らは当然ながら一人ひとり,別個の名前と人格を持った存在です.異性愛でも同性愛でも,性的指向性自認は人間を形作るものの一部であり,尊厳そのものでもあります.

 

 LGBTの人々もまた多様であるということを伝える報道がこれからは必要ではないでしょうか.

(エッセイスト・小島慶子

(構成/本誌・松岡瑛理)

 

 

 

「生産性がない」など真の保守は言わない 漫画家・小林よしのり

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 子供を産まないから「生産性」がないという発言は弱肉強食そのもの.LGBTを無意識に価値のない人間と捉えています.資本主義の「生産性」を基準に人を見たら,障害者の「生産性」にもつながってしまう.それは「ナチスの優生思想」と同じですよ.

 

 生産性で人を排除すると人間社会が成り立たなくなり,非常にいびつな世の中ができることになります.そうした世の中を認める態度は,保守とは言えません.「生産性がない」発言とそれを擁護する人は根本的に知識不足.知性の劣化がひどすぎて話になりません.発言の根拠として,税金の問題を大義にしているでしょ.LGBTに投入している税金は微々たるもので,根拠そのものに大義がない.差別したいだけですよ.

 

 保守とは良き習慣と伝統を守りながら,時代の変化に合わせて少しずつ改革していく態度のこと.その立場から言うなら,LGBTの人たちが社会の何パーセントか存在することは常識として捉えるべきです.時代が進むにつれ,性は男と女だけで二分されて固定されているものではないと生物学的に分かってきたんですよ.LGBTが趣味ではなく,少数派の「宿命」であることが分かった今,それは認めるべきで,保守としての新たな常識です.

 

 それなのに変態扱いして差別する人たちは,いまだに男と女で完全に二分化されていると思い込んでいる.基礎的な知識が間違っているならば,編集者や校閲の人たちが執筆者に教えてあげないといけません.『新潮45』編集部には,その知識もなかったのでしょう.

 

 わしは嫌なんですよ.非寛容な人間も人から保守だと見られて一括りにされるのが.だから少数派に非寛容な自称保守の人たちが書く右派論壇誌では,書かないことにしたんです.

 

 ただ,休刊は残念無念です.雑誌が一つ休刊すると,その分,この国の言論や表現の領域が狭くなってしまう.やがて北朝鮮のような国になるということですよ.「万歳安倍政権」の特集しかカネもうけの方法がない,言論の方法がないとなったら日本の民主主義は終わりです.休刊賛成だとか,差別するような雑誌は消滅すればいい,というふうに言っている人もおかしい.少数派を許容することも大事だけれど,言論の幅を持ち続けることも大事です.

(漫画家・小林よしのり

(構成/本誌・山本浩資)