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「蝶と風と,壁と」朝日新聞''耕論'': モハメド・アリの死去,ボブ・ディランのノーベル賞,ドナルド・トランプの勝利 そこから見えてくるものは?

新聞・雑誌・本 ドキュメンタリー,情報番組,ニュース等 音楽 詩歌(万葉以外)

2016年の報道スペシャル番組/記事の主役は?

芸能ニュースであればSMAPでしょう.オリンピック金メダリストも沢山取りあげられていました.私をいつも元気づけてくれてきたIchiroのメジャー3000本安打も忘れられません.社会/政治ニュースでは大隅良典博士.加えて,ボブ・ディランドナルド・トランプ.そして,この二人ほど沢山は取りあげられなかったものの.私個人のヒーローであったモハメド・アリボブ・ディランもSの思い出と分かち難い存在という点では大きいのですが---).

この3人をひとまとめにして論ずるという,ちょっとした荒技を3人の論者,アーサー・ビナード(詩人),藤永康政(日本女子大学准教授),高橋良朗(音楽ジャーナリスト)の3名に依頼した記事が朝日新聞「耕論 蝶と風と,壁と」(2016年12月23日朝刊).

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digital.asahi.com

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http://digital.asahi.com/articles/photo/AS20161223000142.html

以下に藤永・高橋お二人の言葉のほんの一部を抜粋します.

他にあまりみない見方をされているアーサー・ビナードさんの論「迎合せず突き刺さる言葉」は全文です.三人の共通点を見事に捉えた論といえるのでは.そして,アリ,ディランの凄さ/偉さとトランプの怖さを改めて感じさせてくれるのでは.

 

米国の変化 象徴的な年に 藤永康政さん(一部抜粋)

「黒人であるアリには''どちらでもない''生き方が許されない,ゆえに反体制の英雄として語られることが多い」

「白人のディランは''答は風の中''と謎めかして,''どちらでもない''生き方を貫けるのです」

多文化主義を誇った米国は2016年に選ばれた大統領のもと,女性や外国人差別との共存を迫られることになるかもしれません.そんな年にアリが去ったことは,本人が望かどうかは別にして後年,象徴的に語られることになると思います」

 

「平等」求める魂どこへ 高橋良朗さん(一部抜粋)

twitter.com「代表作の''風に吹かれて''は,奴隷売買を歌った19世紀の黒人霊歌を下敷きに,黒人が権利を求めて立ち上がった公民権運動の議論から生まれました.その衝撃から黒人歌手のサム・クックは64年''A Change Is Gonna Come''を発表します.このフレーズは公民権運動の象徴となり.08年大統領選でのオバマのキャンペーン''Change''につながったのです」「なぜ,ノーベル賞授賞が16年だったのか.アメリカが闘いの中で築いてきた価値観が崩れかけている.しかしディランは,黒人にとって魂の源流にいた.それが答だ,と私には思えました」

「黒人音楽にとって,モハメド・アリも重要な存在です.''I 'm the greatest''など,リズムを刻んだ挑発的な物言いから''ラッパーの元祖''と称されます.その表現スタイルと抵抗の精神はヒップホップに受け継がれた.目の前の不条理を即興で訴えかける音楽」「90年代以降,米音楽界のメインストリームになりました.ブラックパワーは社会に広がり,政治の世界でも黒人のトップが生まれたのです」

「ところが,マイノリティーの権利拡大で割を食ったと感じた白人貧困層は反発し,黒人への弾圧も強まった.黒人の大統領を生んだ反動が,差別的な発言を繰り返す実業家を大統領に押し上げる一因になったとも言えます

「ディランやアリに連なって''平等''を求めてきた黒人の歩みはいま,曲がり角を迎えています」

 

迎合せず突き刺さる言葉 アーサー・ビナードさん

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プロフィール

 「詩人」が目指す表現は,50年後,100年後の人々が読んで,「なるほどそこに本質があったのか」と納得するものです.さらにその言葉が万人に届くのが理想です.現代の万人にも未来の万人も.

 けわしい目標です.古くならない言葉を生むには,はやりすたりを超える価値観が必要.自分に確たる基準を持つしかない.裏切り者といわれても,嫌われ者にされてもかまわない.そこが,万人に受け入れられたいという思いとは,一見矛盾します.

 ディランは,アメリカ音楽の先人たちと向き合ってきました.フォークを足場にして喜ばれる歌を察して供給しながらも,「裏切り者といわれてもかまわない.みんなが聴いてくれなくてもいいんだ」という歌い方に徹している.そこも重要な基本姿勢.

 ノーベル文学賞への態度にもそれが出ていました.多分,うれしいとは思う.と同時に,警戒もしているに違いない.賞を受けるということは,その価値観に取り込まれるということだから.距離を取ったのは当然に思えます.

 世に迎合せず,同時に万人に向けて大事なことを発する.そんな綱渡りが,ディランの詩人らしさ.

 アリは,ディランと同じ時代を生きて,スポーツの世界で活躍しながら,詩人よりももっと鋭く,本質をつかむ言葉を発した.蝶(ちょう)のように舞う肉体の詩人が,世界王者に上り詰めてから,世間のマヤカシに突き刺さる発言をした.「ベトコンとは争いはない」.当時,ベトナム戦争PRキャンペーン実施中の米政府を敵に回す言葉で,嫌われ者にされること請け合いです.

 でも,ベトナム戦争の本質を突いていました.アリの鋭い,きわどい言葉に,多くの人が刺激され,戦争のからくりに気づかされました.

トランプという人物も,刺激的な言葉を生む技術をもっています.なぜ「メキシコ国境に壁を!」という檄が,話題を呼んだのか.人種差別が受けたからじゃないですよ.

ゆるい国境警備で得をするのは,安い労働力をむさぼる大企業.普通の市民は低賃金のまま,不法移民も都合が悪くなれば排除される.その構造がバレているので,人々はトランプの言葉に刺激された僕の故郷,ミシガンなど中西部にいると,よく分かる.

これまでなら黙殺されていたはずです.大手メディアの論理で維持されてきた言論空間の中では,そのスポンサーに都合のいい言葉しか通用してこなかったからです.

「詩人」は,そんな言論空間と距離を測りつつ言葉を紡ぐ.トランプはそのまっただ中で,いかに注目を集めるかを考える.いずれにしても主流からは決して出てこない表現で,時代を刺激している.そこに共通点が潜んでいます.

 

この3人の中では,私にとってはなんと言ってもモハメド・アリ.若き日の華麗なステップ/ベトナム徴兵拒否/キンシャサの軌跡.彼の死は時代の流れを最も感じさせる出来事でした.

BS世界のドキュメンタリーモハメド・アリの時代」(2016年7月1日(金)午後7時00分.原題:IN THEIR OWN WORDS : MUHAMMAD ALI制作:Dalaklis Media Enterprises アメリカ 2015年)で,彼がアメリカの社会で果たした役割についても良く理解できました.NHK総合クローズアップ現代+「モハメド・アリ ''史上最強伝説''の真実」2016年6月13日(月)も新しい証言も加えた好番組でした.このブログでもまた取りあげてみたいと思います.

 

麋角解(さわしかのつのおつる)鹿の角が落ちる頃.「麋」は大鹿のこと.