アプロディーテー11  「起きよ,ダルダノスの後裔(すえ)よ」「この眼で御姿を拝しましたときに,女神であられると,すぐさまわかったのでありました.あなた様の方が本当のことをおっしゃらなかったのでございます」「このわたしからも,他の神々からも災いを蒙ることはありませぬ.そなたにはトロイア人の王となる大切な息子が生まれ,その子にはアイネイアースとの名がつけられうでしょう」アフロディーテー讃歌(讃歌第五歌) 4

アフロディーテー讃歌(讃歌第五歌) 4

 ホメーロスの諸神賛歌(沓掛良彦訳 筑摩書房)より

 

アフロディーテー讃歌5歌では,他の神々にその力を発揮してきたこの女神が,みずから人間の男であるアンキーセースを恋するはめに陥り,彼の子供を宿すこと,そしてこの子こそ,ヘクトールの一統がたえたあと,トロイア王家の血を伝えるアイネイアースであることが歌われます.(四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より 逸見喜一郎・片山英男訳 岩波文庫

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Anchises - Wikipedia

アフロディーテー讃歌(讃歌第五歌) 1

アプロディーテー(ウェヌス / ヴィーナス)7 アンキーセースとの恋1 ムーサよ語れ,キュプリス女神,黄金ゆたかなアフロディーテーの御業(みわざ)を, 女神は神々の心に甘い恋への憧れをかきたて, 死すべき身の人間の族(うから)も,空を飛びかう鳥をも, また陸と海とが育むあらゆる獣の類をも,その御心に従える. 生きとし生けるものはなべて,うるわしい花冠戴くキュテーラ女神の御業に心よせる. 

アフロディーテー讃歌(讃歌第五歌) 2

アプロディーテー(ウェヌス / ヴィーナス)9 ゼウスは女神の心に,アンキーセースへの甘い憧れをかきたてた.

微笑を喜ぶアフロディーテーは,その姿を一目眼にすると,たちまち恋心を抱き,甘い憧れが狂おしくその胸をとらえた.カリス女神がアフロディーテーに浴(あ)みさせ,女神の肌に 永遠にいます神々の肌に匂う不死の香油,甘く香る神油(アムブロシア)を塗った.アンキーセースのみは牛舎に居残り,ただ一人離れて,朗々と竪琴を奏でながら,かなたこなたと歩きまわっていた.

アフロディーテー讃歌(讃歌第五歌) 3

アプロディーテー(ウェヌス / ヴィーナス)10 「ようこそ,尊い御方.浄福なる神々のどなたがこの家へおいでなされたのか」「わたしは神ではありません.ヘルメースはわたしをここへ連れておいでになりました.わたしはアンキーセース様の臥所に入り,正妻と呼ばれて その方のために立派な子を産むことになっている,とのこと」「今ここであなたと愛の交わりを遂げるまでは, 神々であれ人間であれ,誰一人としてわたしの邪魔はさせますまい」

 

さて牧人たち牛や丸々肥えた羊たちを追って,花咲き乱れる牧場から牧舎へ連れ戻す頃になると,

女神はアンキーセースには心地よい熟睡(うまい)をそそぎかけ,

みずからはその肌に美しい衣をまとった.

いともとお解き女神はその肌にすっかり衣裳をまとうと

小屋の中にそっと立ったが,その頭は見事な造りの天上の梁にまで届き,

うるわしい花冠戴くキュテーラ女神のものである

神々しい美しさがその両の頬には耀いていた.

 

そこでアンキーセースを眠りから覚めさせ,その名を呼んでこう言った.

「起きよ,ダルダノスの後裔(すえ)よ,なぜ熟睡にひたっているのです.

さあ,このわたしがそなたが最初に眼にとめた時と,

同じ姿に見えるかどうか,とくと考えてみるがよい」

アンキーセースはただちに目覚め,女神の言葉に従った.

しかし,アプローディーテーのうなじと美しい瞳をみるなり,

畏怖(おそれ)にはっと胸をつかれて,眼を脇にそらせた.

そして床の覆いをかかげて美しい顔を隠すと,

女神に向かって歎願しつつ,翼ある言葉を放った.

「女神さま,この眼で御姿を拝しましたときに,

女神であられると,すぐさまわかったのでありました.

あなた様の方が本当のことをおっしゃらなかったのでございます.

ですが神威楯(アイギス)もつゼウス様にかけ,御膝にすがってお願い申します.

どうかこのわたしが,人間たちの間にあって,精気の失せた者として生きてゆくことのないようになしたまえ.憐れみをかけたまえ.

不死なる女神と臥所(ふしど)を頒(わか)った男は精気を失う,と申しますから」

かれに答えて,ゼウスの御娘アフロディーテーは言った.

「アンキーセースよ,死すべき身の人間のうち最も誉れ高い者よ,

元気を出すがよい.心にむやみに怖れを抱いたりせずともよい.

そなたは神々の寵愛を受けている身ですから,

このわたしからも,他の神々からも災いを蒙ることはありませぬ.

そなたにはトロイア人の王となる大切な息子が生まれ,

その子孫は次々と絶えることなく続くでありましょう.

その子にはアイネイアースとの名がつけられうでしょう,

私は人間の男と臥所を共にしたために,ひどい悲嘆(アイノン・アコス)におそわれましたから.

ですが,そなたの血統の者たちはいつの世も,その容姿といい背丈といい,

死すべき身の人間たちの中で最も神に近い人たちです」

 

続く

 

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