森喜朗会長のせいである.発言の全文を読めば,その蔑視感の深さと認識の愚劣さ,浅薄さが嵐の勢いで読み手の感性に襲いかかる.窒息死しそうだ.そもそも,女性が意思決定の場に入ってくることを嫌がっている.「あれ」は謎だが,およその察しはつく.さしずめ嫉妬心が強いとでも言いたいのだろう.こういうところでエヘラエヘラと同調する輩(やから)がいるから,森氏はますます森氏的になる.「私どもの組織委員会」の女性たちは「みんなわきまえておられる」とのたまった.浜矩子 東京新聞 

書くことが変わってしまった 浜矩子

東京新聞 時代を読む 2021年2月7日

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 今回,書かせていただこうと考えていたテーマが,頭の中でぶっ飛んだ.

東京五輪パラリンピック組織委員会森喜朗会長(このコラムが掲載される時点では前会長になってもらいたい)のせいである.

 

 大々的に報じられている通り,二月三日,森氏は日本オリンピック委員会JOC)の臨時評議員会の場で,とてつもない女性蔑視発言に及んだ.

蔑視感が集約的に現れた「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」のくだりが,もっぱらクローズアップされた.だが,発言の全文を読めば,その蔑視感の深さと認識の愚劣さ,浅薄さが嵐の勢いで読み手の感性に襲いかかる.窒息死しそうだ.

 

 冒頭からヒドイ.

「テレビがあるからやりにくいが,女性理事四割は,これは文科省がうるさくいうんでね」.スポーツ庁への指針への言及だ.

そもそも,女性が意思決定の場に入ってくることを嫌がっている.

 

 女性多数の理事会は長引くと愚痴った上で,次のようにも言っている.

「女性っていうのはやっぱり優れたあれがありまして,競争意識が強い.誰か一人が手をあげて言われると,自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね」.

この部分の「やっぱり優れたあれがありまして」の「あれ」は謎だが,およその察しはつく.さしずめ嫉妬心が強いとでも言いたいのだろう.

 

 この後に次の一節が続く.

「結局,女性っていうのはそういう,あまりいうとまあ新聞にもれると俺がまた悪口言ったってことになりますけど」.

ここでも,「女性っていうのはそういう」が何とも悍(おぞ)ましい.「そういう」の部分が悪口に相当すると自覚して,発言しているわけである.

 

 ちなみに,この箇所では,会場から笑いが出たと報じられている.

こういうところでエヘラエヘラと同調する輩(やから)がいるから,森氏はますます森氏的になる.怒りを炸裂(さくれつ)させ,彼を失跡(しっせき)する人が一人もいない.彼に笑いを取らせて増長させる.何たる組織か.

 

 この次に来るのが,「女性の数を増やしていく場合は,発言の時間をある程度,規制を促しておかないとなかなか終わらないんで困っているって,誰が言ったか言いませんけど,そんなこともあります」だ.

この部分は翌四日の「謝罪・撤回」会見との関わりでも見逃せない.後述する.

 

 この続きがすごい.

 「私どもの組織委員会」の女性たちは「みんなわきまえておられる」とのたまった.

自分のところの女性たちは,女の分をわきまえていて出しゃばらないというわけだ.

 

 翌日の記者会見は,あまりの稚拙さと珍奇さに少々哀れささえ覚えてしまった.

はぐらかすにしても,聞かれていないことをしゃべりたてる姿はみじめなものだ.質問者も可哀(かわい)そうになって追究を止めたように思える場面があった.単に,あきれてばかばかしくなったのかもしれないが.

 

 この記者会見では,思わせぶりな「誰が言ったか言いませんけど」の箇所について,その誰だか言わない人が「どういう根拠でおっしゃったかは分からない」と発言している.「伝聞形」での逃げ切りと責任転嫁を試みている.この種の対応の見苦しさを感じ取ることが出来ないのである.

この人の心の闇は深い.この人の魂の救済のために祈るべきだ.この人と同じ闇の持ち主たちのためにも,然(しか)りだ.だが,これほど難しいことはない.

同志社大学教授)

 2021・2・7

 

 

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東京新聞 2021年2月7日

 

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毎日新聞 2021年2月7日 

誰かが一線を越えたら、声を上げよう 「#男女平等」ツイート、呼びかけたのは? - 毎日新聞

 

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Tokyo Olympics Chief's Comments Draw Social Media Backlash - The New York Times


 

 

山口香理事は森会長「わきまえている」発言に違和感

日刊スポーツ[2021年2月4日20時51分]

山口香理事は森会長「わきまえている」発言に違和感 - 東京オリンピック2020 : 日刊スポーツ

日本オリンピック委員会JOC)の山口香理事(56)が4日,取材に応じ,森会長を巡る今回の事態について,問題点を突いた.

 

五輪・パラリンピックをめぐる国民の方々の反感は大きいですが,この国民感情は,コロナのためだけではないと感じてます.その1つに今回のような発言があるのかなと感じざるを得ません.気になったのは,昨日の発言の「わきまえている」です.国民も「わきまえろ」と言われているように感じるのでは.いまの政治スタイルにも重なります.議論もせずに「わきまえて行動して」と上から言われている印象があるのだと思います.

 

3日の発言の場はJOCの臨時評議員会でした.国の指針で進めているガバナンスコードが念頭にあったと思います.現在20%の女性理事の割合を40%以上にすることが目標で,それに対して「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」と発言されたと受け止めています.であるならば,もしJOCが異議を唱えなかったとしたら,発言を是認したことになる.容認できませんという公式なコメント,立場を明確にすべきで,それが日本のスポーツ,五輪パラリンピック,ひいてはアスリートを守ることになる.

 

そもそもガバナンスコードができたのは,今回に透ける構造を打破するためです.上に対して物が言えない,悪いことを悪いと言えない,先輩後輩,年功序列….この現状を打破する気概をスポーツ界も持たないと,ガバナンスコードは絵に描いた餅になります.声の大きい人,怖い人には物が言えません,と.それが不祥事の温床ですよね.

 

どんなにスポーツの力や価値などもっともらしいことを言っても,国民にそれが響かなくなる.私は価値はあると思う.私自身は柔道で培ったのは,相手がたとえどんなに強いと思っても立ち向かっていく,その精神です.アスリートがそれを実現してくれているわけだから,それを私たちもなんとか支え,信用,信頼を回復できるようにやっていきたいと思います.

 

 

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