西浦博さんのシミュレーションが再び注目を集めている.対策や行動の変化が中途半端だと東京の感染者は十分に減らず,医療も経済もダメージが長びくということだ.飲食店の時短営業などに限定した弱い対策だと,実効再生産数が1をわずかに割る程度で,新規感染者はほとんど減らない.西浦さんの分析も考え合わせると,かなり頑張っても1カ月で達成できるのはステージ3.ここは延長を覚悟した上で,強い対策ほど早期の収束につながるという基本に立ち返った方がいい.土記 8割おじさん再び 青野由利

土記

8割おじさん再び  青野由利

毎日新聞2021年1月9日 東京朝刊

https://mainichi.jp/articles/20210109/ddm/002/070/127000c

 

 「8割おじさん」こと,理論疫学者の西浦博さんのシミュレーションが再び注目を集めている.

そのことが事の深刻さを象徴しているように感じる.

 

 ここから浮かぶのは,対策や人々の行動の変化が中途半端だと東京の感染者は一定期間で十分に減らず,医療も経済もダメージが長びくということだ.

 

 昨年12月中旬以降,東京で1人が平均何人の人に感染させるかを示す実効再生産数は 1.1 ぐらい.

飲食店の時短営業などに限定した弱い対策だと,これが1をわずかに割る程度で,東京の新規感染者はほとんど減らない.

 

 一方,実効再生産数を 0.7 程度まで下げると1日当たりの感染者数が2月末に100人を下回る.

これには昨年4月の緊急事態宣言と同程度の接触削減が必要で,今回の宣言前に比べると3・5割の削減.

対策がこれらの中間程度だと減少も緩やかで,3月末で200人台にとどまる.

 

 以上が,西浦さんが昨年のデータを基に計算した予測シナリオ分析の概略だ.

 

 では,どこまで下げることを今回のゴールとすべきなのか.

政府の基本的対処方針では,解除の条件は感染状況が現在の「ステージ4(感染爆発)」から「ステージ3(急増)」相当に下がること.

解除後も「ステージ2(漸増)」に下がるまで必要な対策は続ける,という一文が入っているが,これは専門家たちの強い声を受けて最後に追加されたものだ.

 

 東京にステージ3を当てはめると1日当たりの感染者は300人程度.

専門家の多くはせめて2桁まで下げたいと思っている.そうしないで対策を緩和してしまえば,元のもくあみ.高止まりしたところから,再び第4波が立ち上がってしまうからだ.

 

 西浦さんの分析も考え合わせると,かなり頑張っても1カ月で達成できるのはステージ3.

ここは延長を覚悟した上で,強い対策ほど早期の収束につながるという基本に立ち返った方がいい.

 

 ところで,宣言とは別に私が気になっていたのは「8割削減」以降,こうした予測シナリオ分析を目にする機会がほとんどなかったこと.

何か理由が?

 

 「政府の分科会メンバーではないので常時政府に報告されているわけではないが,専門家有志の会では定期的に報告しています.

国がそういう仕組みを作ってくれれば公表できます」

と西浦さん.

 

 グーグルさえ公表しているのだから,ぜひ.感染状況の見通しを知って行動を見直すきっかけにもなるはずだ.

(専門編集委員

 

 

東京の感染者数シミュレーション 十分に減少させるには

NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210105/k10012798521000.html

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東京の感染者数シミュレーション 十分に減少させるには

NHK

2021年1月5日 19時25分

 

感染拡大が続く新型コロナウイルス対策として,政府は緊急事態宣言を出すことを検討しています.

これについて京都大学の西浦博教授が,新たにシミュレーションを行った結果,東京都の感染者数を十分に減少させるには,昨年の緊急事態宣言と同等のレベルの効果を想定しても2月末までかかるとみられることが分かりました.

 

去年4月に初めて緊急事態宣言が出された際には,数理モデルを使った感染症の分析が専門で京都大学の西浦博教授のシミュレーション結果を根拠に,人と人との接触を極力8割減らすことが呼びかけられました.

 

今回,再び緊急事態宣言が検討されていることについて,西浦教授が改めて東京都の今後の感染者数の推移をシミュレーションしました.

 

シミュレーションは,感染者1人が何人に感染させるかを示す「実効再生産数」と呼ばれる数値を使って行われました.

それによりますと現在の感染状況から,東京都の実効再生産数はおよそ1.1となり,仮に新たな対策をせずにこの状態が続くとすると2月末時点での新たな感染者数は1日およそ3500人,3月末にはおよそ7000人まで増えるとみられるということです.

そのうえで,去年,経験した流行の第1波や第2波の際のデータを参考に新たな対策をとることでどれだけ感染者数が減るかを数理モデルを使って計算しました.

 

その結果,飲食店に限定して時短営業などの対策をとった場合,実効再生産数は10%下がって0.99になると想定されるということで,この状態だと新たな感染者数はほとんど減らず,2月末時点で1日およそ1300人となりました.

 

一方,実効再生産数を今よりも35%少ないおよそ0.72まで下げることができたとすると1か月半後の2月25日に新たな感染者数が1日100人を下回ったということです.

実効再生産数を35%減少させるのは前回,去年4月の緊急事態宣言の際の効果と同等のレベルだということで,これよりも効果が弱いと感染者数が減るまでさらに長い期間がかかるということです.

 

西浦教授によりますと,前回の緊急事態宣言と同等レベルの効果を得るためには飲食店の対策を中心としながらも不要不急の外出自粛や県境をまたぐ移動の自粛,それにリモートワークの徹底や会社でのミーティングを避けるなど,感染のリスクを下げる対策を徹底することが必要だということです.

シミュレーションを行った西浦教授は

「社会全体が一律に自粛するのではなく,さまざまな対策を組み合わせることで,メリハリのついた接触削減を達成できると思う.緊急事態宣言を出すからには実効性がとても重要で,失敗すると,心理的なダメージだけでなく社会,経済的なダメージも甚大になるだろう.国は,感染者数を思い切って下げられる対策を責任を持って,とっていく必要がある」

と話しています.

 

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