新型コロナウイルス 出口戦略は(4)
5月10日(日) 午後9:00~午後10:00
5月16日(土) 午前10:00~午前11:10
WHOシニアアドバイザー 進藤奈那子
国際部デスク 虫明英樹,アナウンサー 合原明子
「世界では,都市封鎖など,日本よりはるかに厳しい制限をしいてきたわけですが,今,それを緩和する動きが進んでいます.
どのような根拠や判断に基づいて,出口戦略を行おうとしているんでしょうか
(要約)中国では,個人の権利を制限する,国家の強い権限で,第二波を食い止める取り組みを続けています.
(要約)アメリカでは,出口戦略の判断は州によって大きく異なります.
西海岸のワシントン州では,PCR検査を広げ,感染率を把握することで解除の判断をしようとしています.
ニューヨークでは抗体検査の結果を基に.感染率が少ない州から解除.高い州では“抗体証明書”(抗体パスポート)を持った人を復帰させることを検討.
虫明「進藤さん.新型コロナウイルスの抗体については,まだまだ分かっていないことも多いと思うんですが,この抗体検査の広がり,どうお思いになりますか?」
進藤「抗体検査に関しましては,まず二つの重要な事実が分かっていないことが,私たちとしてはまだ“抗体パスポート”まで到らないのではないかと思っている理由なんですが.
一つは,一体どれだけ抗体があれば感染を防ぐことができるのか,これが分かっていないこと.
もう一つは,獲得した免疫がどれほど長持ちしてくれるのかが分かっていない事なんですね.
一応,抗体ができることは観察できていまして,重症ならば重症なほどどうやら高い抗体を作っていると,中等症の方でも,ある程度抗体はできているんですね.あとは,人間以外の霊長類の中のチャレンジテスト,再感染のテストをした場合には,(「期間」についての文言;聞き取りできず)感染を起こさないということが分かっていますので,ある程度は感染を防ぐことが分かっています.
(さらに)感染を測定する測定系も,これから先,十分に精度を調べていく必要がある.
こういった点で,まだ,私たちとしては,抗体パスポートまではいっていないと考えています.
ただ,この考え方に対しては,まだオープンでいます.例えばWHOでは,黄熱病に対して,黄熱病ワクチンを打たれた方には,イエローカードをお渡しして,これが抗体パスポートの役割を果たしていますので,この考えに関しては将来的に可能性はあると考えています」
虫明「牧原さんにもうかがいます.抗体検査一つとっても分かるように,まだ,これが正解だという答えは得られていないようです.しかし,医療経済の両面で,今の状況を打開するために,様々な決断が必要だという難しい局面なんですが,どういう仕組みで進めていくべきなのか,また,日本に欠けていることなんでしょうか」
牧原「いろいろな専門分野が関わる,そういう会議隊がなければいけないし,それぞれの会議隊が感染症についてのかなりちゃんとした知識を持つような,その会議体と横につなぐような調整の枠が必要だと思います.
そしてやはり必要なのは透明性です.国民が自粛へと協力する最大の前提は政府内の意思決定を透明化するということ,ですから例えば基本的対処方針が出されていますけど,誰がどのようにつくったのか,不透明な調整ではまずいので,いろいろな専門家が関わって,段階を踏んで決まっていくような,そういうような透明な手続きが必要になってくると思います」
合原「今一度世界の状況に目を向けてみますと,今,一旦制限を緩めた後,例えば,韓国のように,再び感染が起きている所もあります.出口戦略に科学的な最適解が無い中,段階的な制限緩和に踏み出す国もあります」
(要約)オーストリア ヨーロッパでいち早く制限緩和に踏み切りました.
3月下旬をピークに4月に入って減少.ICUの使用率が30%以下.
感染状況を調査し,拡大の兆しが見えれば再び制限を強化することを前提に,
行程表をつくって段階的(二週間毎)に緩和
第一段階 小規模店舗,ホー目センターなど 4月14日〜
(人数制限,ソーシャルディスタンシングを守る 等)
新規感染者少ないまま推移,店員の感染者1/333人
⇒ 第二段階 全ての小売店,理容室など 5月1日〜
第三段階 レストランと小中学校 5月15日〜
第四段階 ホテルや観光施設 5月29日
虫明「手探りの中で進む各国の出口戦略を,どうご覧になりますか」
進藤「まず,今拝見したオーストリアの例ですけれど,小さい国ですし,政府と国民との間のコミュニケーションがうまくいっている.
日本も,--大きな国なんですけど--,コミュニティー単位,小さな単位でやっていくっていうことが大事で,全国一律にスタートするのは大変難しいと思います.
それから,業種毎に工夫を凝らして対応していく.こういったことが参考になるのではないかと思います」
合原「牧原さん,出口戦略,地域の実情に即して行う必要がありそうですけれども,日本の自治体も知恵を絞る必要がありそうですね」
牧原「緊急事態宣言が二度に分けて出され,最終的に全国に広がってますから,出口戦略も何度かに分けるような進め方になると思います.
そして,その時大きな役割を果たすことになるのが都道府県の知事ですけど,そもそも,都道府県は人口規模であるとか,感染者が出やすい都市部をどの程度抱えているのかでずいぶん違いますので,その都道府県の性格の違いによって,決め方が異なってくるだろう.
小規模の県は,行政と県内の諸団体,市町村の人的ネットワークを動員して決めることがあるでしょうし,大規模な都道府県となればマスメディアを通じてリーダーが発言していくということになると思います.
そして,今後,長期的な出口戦略を考える際には,現在の仕組みの中で,市町村の役割がやや曖昧なので,市町村がどのように関わるか,さきほど進藤さんもおっしゃたような,コミュニティーから積み上げて,出口戦略を考えることにつながっていくと思います.
虫明「市町村レベルでも考える必要があるということですね.
矢島さんにうかがいます.アメリカは失業率が14.7%まで上昇した結果,州によっては外出制限の延長を決めたにもかかわらず,経済活動の再開を求める住民のデモまで起きていますけれども,このバランス,どう考えたら良いんでしょう」
矢島「各国で,この二ヶ月ぐらい感染が爆発して,感染防止を最優先した,その反対側で経済が完全に止まって,アメリカの場合は,労働者の5人から6人に一人が失業するという状態になったということだと思うんですよね.
これもはっきりしてることなんですが,失業率が高いと自殺者が多くなるということが各国ではっきりしてますので,そうすると感染防止で命を救うっていう話から,経済の命を救うっていう問題に,だんだんシフトしてきて,経済の再開というのをせざるを得ないということになってきてると思います.
各国のニュースを見ていると,国毎,地方毎で条件はかなり違うんですけど,再開を始めたアメリカを見ると,日本との対比では,そんなに状況がいいとは思えないんですね.こうなってみると,隣の芝生は青いじゃないですけど,なんであそこの国は再開してるのに,日本はできないのかとか,日本の中でも,例えば,ここの県はできているのに,なんでここはできないんだっていう話になってくるんだと思います.
長期的にコロナとつきあうという意味においては,自治体と国民で共有するビジョンを持つことが非常に重要ですし,ビジョンを持った上で,分かりやすい数値目標で,ツールを持つ必要があると思います.
首長はこれから,いろんな事に対して説明責任がかかってきますから,分かりやすい数値目標を持つということは説明責任を果たすという意味でも非常に良いと思いますし,どういう風にして再開するのかというルールが分かっていれば,民間とすると,その枠内で一生懸命生き残りを賭けて動くっていうことが自動的に起こるんだという風に思います.
虫明「尾身さん,いかがでしょうか.もっと明確な数値目標を示して,見通しを示して欲しいという声だと思うんですが」
尾身「そうですね.各自治体は状況が違いますので,国の方は,考え方の筋をお見せして,最終的には,地域が.
今.知事の話が出ましたけど,緊急事態宣言が出ますと知事の役割がものすごく重要なんですよね,国が示した大きな方針の中で,具体的な実行については各地域がリーダーシップを発揮して,それぞれの実情に合ったいろいろな対策を練っていただければと思います」