ノブドウ4  (虫こぶの話題3) 昆虫が植物に寄生した結果,植物体の一部が,こぶ状に発育した「虫こぶ」(虫えい.ゴール).寄生する虫が植物組織上に作る「住まい」兼「食糧」です.昆虫により植物に注入される化学物質が,虫こぶ形成のきっかけとなると考えられています.「シバヤナギハウラタマフシ」の場合,ハバチが植物ホルモンであるオーキシンやサイトカイニンを作り,高濃度に保有していること,また,それらのホルモン類が虫こぶ形成とその後の発達・維持に関わっている可能性が高いことを,茨城大学のグループが発見しています.

送ってもらったノブドウの写真から始めたシリーズ.

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第一回〜第三回のノブドウには虫こぶができるという話から---

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ノブドウミフクレフシ - Google 検索

 

今日は,ノブドウから離れて,虫こぶの話のみになってしまいます----

 

かなり無理して,専門的な研究論文や解説にある話題を取り上げて,私の疑問点に対する答えを集めてみました.

やや堅い話.しかも,素人が専門に足を踏み入れた,やや無責任なブログに---

 

虫こぶとは

ネット上で沢山の画像を見ることができますから,改めて言葉で定義するまでもないと言われれば,その通りかもしれませんが---

 

ネット上の定義で,わかりやすかったのは,“世界大百科事典第2版”

虫こぶ(むしこぶ)とは - コトバンク

虫こぶ

「動物が植物に寄生,共生し産卵した結果,植物体の一部が,こぶ状に発育したもの。虫癭(ちゆうえい)ともいう。虫こぶを作る動物は99%が昆虫で,ほかにダニ,クモ,糸状虫がある」

 

正確には,虫こぶ/虫えいは,昆虫が作る癭(えい:こぶ,ゴール,gall)のみを指しているようで,他に「線虫えい」「菌えい」「細菌えい」など.

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010852417.pdf

 

どのような昆虫がつくる?

これも上記の論文の前書きから

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010852417.pdf

▽タマバエ(ハエ目:タマバエ科)の仲間:国内でもっとも虫えい形成性の種が多い.シダ植物から単子葉植物まで,様々な植物に虫えいを形成する種が知られている.

▽その他

・タマバチ(ハチ目:タマバチ科),

・アブラムシ

・タマワタムシ(カメムシ目:アブラムシ上科)

・キジラミ(カメムシ目:キジラミ上科)

▽昆虫以外の節足動物

・フシダニ(ダニ目:フシダニ科)

 

 

虫こぶを作る利点は?

形成者である昆虫側に一方的な利益がある:虫えい形成は,昆虫側の適応的な産物

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010852417.pdf

▽虫こぶ(虫えい,ゴール)は,植物に寄生する虫が植物組織上に作る「住まい」兼「食糧」.

http://chemicalecology.agr.ibaraki.ac.jp/gall.html

 

▽えいが形成された植物には,生産性の低下などの不利益が生じる.

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010852417.pdf

 

樹木・果樹に被害をもたらす虫こぶをつくる昆虫

・クリタマバチ 中国から侵入した害虫で昭和16年岡山県で初めて発見された。長野県では、昭和25年に発生が確認され、昭和35年には全県下で発生を認めるようになった。当時、栽培種の抵抗性品種以外は被害程度が高く、特に野生種は甚だしく結実不能、枯死するものも現れた。その後、抵抗性品種が栽培されるようになるとともに、平成4年に放虫した天敵(チュウゴクオナガコバチ)により被害は激減した。

 https://www.agries-nagano.jp/pest/228.html

 

・リンゴワタムシカメムシ目 アブラムシ科) 5月から10月まで継続して発生する.越冬態は幼虫。秋に発生した幼虫が枝幹の隙間や根部などで集合して越冬する。幼虫も成虫も白い綿状物質で覆われてコロニー全体は白く見える。越冬幼虫は、5月から新梢の基部、選定後の切り口、  根など硬化中の部分に移動して定着する。6月に成虫になるが、この時期に有翅成虫が大量に発生して移動分散する。

寄生部は徐々に膨らんで虫えいになり、多発生すると樹勢は衰える。

 http://www.fmc-japan.com/Portals/FMCJapan/library%20PDF/fruittrees_pests.pdf

 

・マツバノタマバエ 年1回発生、成虫は5月上旬~7月下旬にあらわれ、伸長初期の短い針葉に産卵する。孵化幼虫は針葉基部の葉梢に包まれた部分に寄生し、虫えいを作る。幼虫は11月ころまで虫えい内で生活し、以降12月下旬までに、虫えいから脱出し、落葉下などで越冬する。翌春3月中旬ごろからマユを作り、4月上旬から5月下旬に蛹化する。

被害木は葉量の減少とともに生育減退が起こり、激害が続けば枯死することがある。

 https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk09/documents/000041335.pdf

 

・ブドウミタマバエ 

和名:ブドウミタマバエ(仮称)(ハエ目:タマバエ科)

病害虫名:ブドウミタマバエ(仮称)(ハエ目:タマバエ科)

寄生植物名: ブドウ

平成24年7月、平成26年6月に伊達市の露地栽培ブドウ「瀬戸ジャイアンツ」、「ベニバラード」、「紅環(べにたまき)」の3品種において、奇形果粒中にハエ目幼虫を確認した。幼虫を羽化させ、幼虫と成虫を湯川淳一博士(九州大学名誉教授)に送付したところ、未記載のブドウミタマバエAsphondylia sp.であることが判明した。

瀬戸ジャイアンツ、ベニバラード ,瀬戸ジャイアンツ、紅環,シャインマスカット、スチューベン等への寄生を確認.

幼虫は果粒中心の隙間に生息しており、その付近の果肉表面が褐色に変色しているが、果肉の食害は認められない。

産卵は開花期に果粒(子房)中にされると考えられる。幼虫は果粒中に1頭ずつ寄生し、寄生された果粒は異常肥大し奇形化するが、その後肥大が止まるため、正常果粒の肥大に伴って目立たなくなる

この奇形果粒形成時期はブドウ開花後の6月中旬以降である。

 http://fppa.sakura.ne.jp/pdf/20170915_GrapevineFruit%27sFly.pdf

 

どのようにして虫こぶを作る?

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010852417.pdf

前書きから

 えいの形成は,多くの場合形成者の摂食刺激,一部の場合産卵刺激により開始されることから,

 

“摂食時,あるいは産卵時に植物体内に注入される何らかの化学物質が,虫えい形成のきっかけとなる”

 

と考えられている.

近年の研究から,少なくとも一部の虫えい形成昆虫は,自身で植物ホルモンを合成する能力を有していることが明らかになっている.

 

 

シバヤナギハウラタマフシの場合

茨城大学農学部・資源生物科学科化学生態学研究室(鈴木義人教授)の研究結果から

http://chemicalecology.agr.ibaraki.ac.jp/gall.html

https://katosei.jsbba.or.jp/download_pdf.php?aid=8

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1.寄生昆虫であるハバチ (Pontania sp.)が春先に成虫がシバヤナギの葉の主脈に正確に産卵

2.卵と一緒に分泌される物質に よって初期のゴール(虫こぶ/虫えい)が形成

3.孵化した幼虫は初期ゴールの内側を摂食し始める.

4.刺激によって更にゴールが大きく発達.

5.ゴールがある程度のサイズまで発達すると,それ以降は大きくならないが,幼虫が ゴールの内側を食べるとそれを補うように組織が分裂し続ける.

(=食べても食べても食料が無くならない!)

 

:植物側の反応は,すべて虫が植物に与える刺激によるもの

=虫は,自らが作り出す物質によって自分の都合の良い状態に 植物を操作している

 

鈴木先生のグループ

 ハバチが植物ホルモンであるオーキシンやサイトカイニンを自分で作り,高濃度に保有していること,

また,それらのホルモン類が初期のゴール形成とその後の発達・維持に関わっている可能性が高いことを見出しました.

 

 

オーキシン

ENCYCLOPÆDIA BRITANNICA https://www.britannica.com/science/auxin  の拙訳

オーキシンは,植物の生長を制御しいている植物ホルモンの一グループのいずれか.特に茎での細胞の伸長を刺激したり,根においては伸長を阻害することで生長制御する.

例えば,オーキシンは光に向かった茎が伸長(屈光性)や,重力に逆らった伸長(重力屈性)に影響を与える.

オーキシンはまた,細胞の分裂や分化,果実の成熟,切断面からの根の形成,横方向への枝分かれの阻害(頂部優勢),落葉(abscission:花,実,葉が自然に落ちる)にも役割を果たす.最も重要な天然のオーキシンは,β-インドール酢酸(インドール-3-酢酸)である.

Auxin, any of a group of hormones that regulate plant growth, particularly by stimulating cell elongation in stems and inhibiting it in roots. For example, auxins influence the growth of stems toward light (phototropism) and against the force of gravity (geotropism). Auxins also play a role in cell division and differentiation, in fruit development, in the formation of roots from cuttings, in the inhibition of lateral branching (apical dominance), and in leaf fall (abscission). The most important naturally occurring auxin is beta-indolylacetic acid. https://www.britannica.com/science/auxin

 

サイトカイニン

ENCYCLOPÆDIA BRITANNICA   https://www.britannica.com/science/cytokinin  の拙訳

サイトカイニンは,いくつかある植物の生長因子のいずれかで,一般的には,アデニンに由来する.根で合成された後,ザイレム;木部(木のような組織)へと移動し,葉や果実へも入っていく.これらの部位では,正常な成長や細胞分化,細胞分裂オーキシンと一緒になって)のために,必要とされる.

Cytokinin, any of a number of plant growth substances that are usually derived from adenine. Synthesized in roots, cytokinins move upward in the xylem (woody tissue) and pass into the leaves and fruits, where they are required for normal growth, for cell differentiation, and, in conjunction with auxin (another plant hormone), to promote cell division.   https://www.britannica.com/science/cytokinin  

 

サイトカイニンは根で作られます.

ではオーキシンは?

オーキシンは植物のさまざまな器官でつくられる

笠原博幸 化学と生物 Vol. 55, No. 7, 2017 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/55/7/55_477/_pdf

オーキシンは植物の成長や発達を調節する非常に重要な植物ホルモンとして高校の生物に登場します.

これまで,オーキシンは植物の茎頂周辺の若い組織で合成され,葉や根などの器官へ活発に輸送されると考えられていました.

最近,70年近く謎だった植物のオーキシン生合成経路が解明されました.そして,オーキシン生合成遺伝子の発現する部位が詳しく調べられた結果,実際には茎頂だけでなく,葉や根などさまざまな器官でもオーキシンが作られて,重要な役割を果たしていることがわかってきました.