NHKBSプレミアム美の壺「みんな大好き 日本の洋食」(1)
西洋料理のエッセンスを和の美意識で見事に変身.今日は誰もが大好きな洋食をご紹介します.
今日一つ目の壺は,“器が誘(いざな)う異国の情景”
憧れ
https://www.hotel-newgrand.co.jp/photos/
神奈川県横浜市
横浜の老舗ホテルの人気メニュー.スパゲッティナポリタン.
もっちり太麺にたっぷりの具材.
ナポリではなく,横浜生まれの洋食です.
きっかけは,第2次世界大戦後すぐのこと.このホテルは進駐軍に接収されました.アメリカ兵は,よく,軍の保存食のパスタをケチャップであえて食べていました.
https://www.hotel-newgrand.co.jp/history/
これにヒントを得たホテルの料理長がトマトソースに具材を加えて,一品料理に仕上げたのが始まりでした.
ホテルのナポリタンを受け継ぎ,広めたのが同じ横浜にあるこちらのお店.
オープンは戦後すぐ.「安く」「おいしく」「腹いっぱい」を目指しました.
ナポリタン発祥店!横浜野毛の昔懐かしい洋食屋さん!センターグリル | B級グルメランチ紀行
創業者の石橋豊吉さん.戦前はフランス料理を学びましたが,戦後はアメリカ風に方向転換.その代表がケチャップ味のナポリタン.日本では珍しかったステンレスのお皿で出しました.
進駐軍の暮らしを通してかいま見た,豊かで強いアメリカ.石橋さんにとってピカピカに輝くステンレスの食器は,その象徴でした.
石橋秀樹さん「戦争に負けて日本が落ち込んでいるとき,アメリカの文化は素晴らしく見えた.戦争に勝つ国はすばらしい文化だ.食生活もすばらしいんだ.これからはじゃあそのすばらしい文化になるためには,アメリカの料理を皆さんに食べてもらうのが一番じゃないか.そんな思いだったんじゃないかな〜と」
「ステンレスは陶器の10倍の値段だけど,10倍長持ちするんだ」と,家族を説得.特注の皿には「米国風洋食」の文字を刻みました.
ナポリタン発祥店!横浜野毛の昔懐かしい洋食屋さん!センターグリル | B級グルメランチ紀行 https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140102/14000440/dtlrvwlst/B106668910/
アメリカへの憧れが詰まった,ステンレスの器.豊吉さんの言葉通り,70年以上たった今も現役です.
神田神保町は,言わずと知れた本の街.実はカレーの激戦区としても有名です.
本をあさるのに忙しい人たちが,さっと食べられるからという説も.
古本屋の前に,何故かカレー屋の看板.
http://blog.livedoor.jp/go_backdrop/archives/51043368.html
本棚の向こうには何やら人だかりが.神保町でも一二を争う人気の老舗.
こちらがそのカレーです.
欧風カレー ボンディ 神保町本店 (Bondy) (神保町/カレー) - Retty
フランス料理のブラウンソースを応用.赤ワインや乳製品もふんだんに使った,まろやかでコクのあるカレーです.
そしてカレーといえばこの器.
この不思議な形は一体どこから?
http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1410
もともとは,イギリスの上流社会等で使われている,グレービーボードと呼ばれる洋食器.
ソースやドレッシングを入れる器です.明治時代,洋食と共に日本に持ち込まれ,いつしかカレーに使われるようになりました.
昭和四十年代にはカレールーのパッケージにも登場し,認知度は全国へ.
ゴールデンカレー | S&Bカレー史 | S&Bカレー.com
魔法のランプのような形が異国情緒を誘います.
イギリス流ならレードルと呼ばれているオタマですくいますが,---.
そこは日本の洋食.豪快な一気がけも.
店長 村田信輔さん
「ご飯にかける場合は,まあ,全部かける場合は,こうやってこのままこう流すような感じになりますね.
後はお肉だったらお肉をとってもいいですし,ソースとお肉だったりを一杯とって,こう,ご飯にかけてもいいですし.
この二点が大体主流にはなるんでけど,その,まあ,好きなように,お客さんの好きなように食べてもらえれば---.
もちろんごはん---ここに直接ご飯つけても構わないですし」
「そんな人います?」
「います.ちょっとそれは僕も驚きでしたけど」
洋食と器が誘(いざな)う異国への旅.
自由な発想が洋食の世界を広げてきました.
壺 一.“器が誘う異国の情景” 了