日本の洋食(2) “ 器が誘(いざな)う異国の情景 ” スパゲティナポリタン:アメリカへの憧れが詰まった,ステンレスの器.豊吉さんの言葉通り,70年以上たった今も現役です. 欧風カレー:グレービーボードのカレーをそのまま全部かける,一杯とってご飯にかけてもいい.もちろんごはん---ここに直接ご飯つけても構わない.「そんな人います?」

NHKBSプレミアム美の壺「みんな大好き 日本の洋食」(1)

日本の洋食(1)「このハンバーグの素晴らしいところは,やっぱり肉のそのもののおいしさを,後から押し上げるような,いろんなうまみがギュッと凝縮---.で,そこにごはんを追いかけさせる.西洋のものと日本が誇るお米を,さも当たり前のように合流させ,さらにそこに味噌汁もつく」(小山薫堂さん / NHKBS美の壺) +日本の「洋食」の成立 - yachikusakusaki's blog

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美の壺 - NHK

西洋料理のエッセンスを和の美意識で見事に変身.今日は誰もが大好きな洋食をご紹介します.

 今日一つ目の壺は,“器が誘(いざな)う異国の情景”

 

憧れ

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https://www.hotel-newgrand.co.jp/photos/

神奈川県横浜市

横浜の老舗ホテルの人気メニュー.スパゲッティナポリタン.

もっちり太麺にたっぷりの具材.

ナポリではなく,横浜生まれの洋食です.

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美の壺 - NHK

 

きっかけは,第2次世界大戦後すぐのこと.このホテルは進駐軍に接収されました.アメリカ兵は,よく,軍の保存食のパスタをケチャップであえて食べていました.

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https://www.hotel-newgrand.co.jp/history/

これにヒントを得たホテルの料理長がトマトソースに具材を加えて,一品料理に仕上げたのが始まりでした.

 

ホテルのナポリタンを受け継ぎ,広めたのが同じ横浜にあるこちらのお店.

オープンは戦後すぐ.「安く」「おいしく」「腹いっぱい」を目指しました

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ナポリタン発祥店!横浜野毛の昔懐かしい洋食屋さん!センターグリル | B級グルメランチ紀行

創業者の石橋豊吉さん.戦前はフランス料理を学びましたが,戦後はアメリカ風に方向転換.その代表がケチャップ味のナポリタン.日本では珍しかったステンレスのお皿で出しました.

進駐軍の暮らしを通してかいま見た,豊かで強いアメリカ.石橋さんにとってピカピカに輝くステンレスの食器は,その象徴でした.

石橋秀樹さん「戦争に負けて日本が落ち込んでいるとき,アメリカの文化は素晴らしく見えた.戦争に勝つ国はすばらしい文化だ.食生活もすばらしいんだ.これからはじゃあそのすばらしい文化になるためには,アメリカの料理を皆さんに食べてもらうのが一番じゃないか.そんな思いだったんじゃないかな〜と」

「ステンレスは陶器の10倍の値段だけど,10倍長持ちするんだ」と,家族を説得.特注の皿には「米国風洋食」の文字を刻みました.

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ナポリタン発祥店!横浜野毛の昔懐かしい洋食屋さん!センターグリル | B級グルメランチ紀行 https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140102/14000440/dtlrvwlst/B106668910/

アメリカへの憧れが詰まった,ステンレスの器.豊吉さんの言葉通り,70年以上たった今も現役です.

 

 

神田神保町は,言わずと知れた本の街.実はカレーの激戦区としても有名です.

本をあさるのに忙しい人たちが,さっと食べられるからという説も.

古本屋の前に,何故かカレー屋の看板.

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http://blog.livedoor.jp/go_backdrop/archives/51043368.html

本棚の向こうには何やら人だかりが.神保町でも一二を争う人気の老舗.

こちらがそのカレーです.

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欧風カレー ボンディ 神保町本店 (Bondy) (神保町/カレー) - Retty

フランス料理のブラウンソースを応用.赤ワインや乳製品もふんだんに使った,まろやかでコクのあるカレーです.

そしてカレーといえばこの器.

この不思議な形は一体どこから?

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http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1410

もともとは,イギリスの上流社会等で使われている,グレービーボードと呼ばれる洋食器.

ソースやドレッシングを入れる器です.明治時代,洋食と共に日本に持ち込まれ,いつしかカレーに使われるようになりました.

 

昭和四十年代にはカレールーのパッケージにも登場し,認知度は全国へ.

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ゴールデンカレー | S&Bカレー史 | S&Bカレー.com

魔法のランプのような形が異国情緒を誘います.

イギリス流ならレードルと呼ばれているオタマですくいますが,---.

そこは日本の洋食.豪快な一気がけも.

店長 村田信輔さ

「ご飯にかける場合は,まあ,全部かける場合は,こうやってこのままこう流すような感じになりますね.

後はお肉だったらお肉をとってもいいですし,ソースとお肉だったりを一杯とって,こう,ご飯にかけてもいいですし.

この二点が大体主流にはなるんでけど,その,まあ,好きなように,お客さんの好きなように食べてもらえれば---.

もちろんごはん---ここに直接ご飯つけても構わないですし」

「そんな人います?」

「います.ちょっとそれは僕も驚きでしたけど」

 

洋食と器が誘(いざな)う異国への旅.

自由な発想が洋食の世界を広げてきました.

 

壺 一.“器が誘う異国の情景” 了