ケイトウとヘクソカズラ 街の中を歩き,また霊園で,今日見た花たち.その中で万葉集に詠まれている花はこの二種でした. 熱烈な恋や若い美しい女性を表す:からあゐ(韓藍)/ 万葉集 恋(こ)ふる日の,日(け)長くしあれば,我が園の,韓藍(からあゐ)の花の,色に出でにけり / 悪臭で知られかわいそうな名前をつけられた くそかずら / 万葉集 さう莢(けふ)に,延(は)ひおほとれる屎葛(くそかずら),絶ゆることなく宮仕へせむ

真夏の季節というのに,雨模様の空が続いています.

だからといって,春や秋の花が咲くわけではありません.街を飾っている花々は,夏の花.ニチニチソウマリーゴールドクレマチスコリウス----

街を歩いて見かける花は,ほとんどが最近海を渡ってきた花たちばかりですね.

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花屋さんを覗いてみると----.

鉢植えで売られているものの中にも,以前から見られた花は数少ない.

ひときわ目立つのはハイビスカス.大きさも手頃なこともあって,同じ仲間のフヨウやムクゲより多く見られます.

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ここに写っているものの中では,奥に見えるケイトウぐらいでしょうか.以前よりなじみの花は.

ただし,園芸品種で色鮮やか.以前のものとは見違えてしまいますが.

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午後3時過ぎ,霊園を訪れました.

お盆に飾られた花たちは,まだ何とかしおれないでがんばっていましたが,園内に植えられた樹木には花はほとんど見られません.

1本だけ,目立っていたのは白いサルスベリ

霊園にふさわしいということで植えられたのでしょうか.

町中ではまだ赤い花が多いと思いますが,これからだんだん増えていくのでは.とても美しく咲いていました.

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墓を隔てる低木に花はありませんが,よく見るとところどころに可愛らしい小さな花が.

ヘクソカズラでした.

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屁糞葛とは本当にかわいそうな名前を付けられたものです.

ヤイトバナ,オトメバナの名前もいただいているのに,この名前で呼ばれることはほとんどなし.ヘクソカズラ - Wikipedia ヘクソカズラ

咲いている花には匂いはほとんど無いのに,手折ったときに---.最も強い悪臭物質の一つジメチルスルホキシドの匂いとのこと.Paederia foetida - Wikipedia

「どんな名前を付けられようと結構,可愛いからと言って採取しないで下さい」という古来からの自己主張でしょうか?

でも青い実は,シモヤケやアカギレに良く効くとか.http://www.e-yakusou.com/sou/sou327.htm

人間は,簡単には諦めません.

 

今日見てきた花たちの中で,万葉集に詠まれている花は二種.

ケイトウ(鶏頭)とヘクソカズラ(屁糞葛).

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万葉の時代には,ケイトウは「からあゐ(韓藍)」,ヘクソカズラは,「へ」がない,「くそかずら」と呼ばれていたそうです.

 

からあゐ(韓藍)/ 万葉集

恋(こ)ふる日の,日(け)長くしあれば,我が園の,韓藍(からあゐ)の花の,色に出でにけり   作者不詳(巻10 2282)

恋ふる日の,日長くしあれば,我が園の,韓藍(からあゐ)の花の,色に出でにけり

▽楽しい万葉集  m2278

恋する日々が長く続いたものだから,私の庭の韓藍(からあゐ)の花のように,顔色にでてしまいました.

▽山田卓三「万葉植物つれづれ(大悠社)」

 恋しく思い続ける気持ちを庭の鮮やかなケイトウの花に重ねています.

ケイトウは熱帯アジア原産で,日本には古く染料(韓藍)として移入され,写し染めの原料として,また,観賞用としても早くから栽培されていたようです.

ケイトウは鶏頭で,花軸が帯化(石化)し,鶏のとさかのような形になるためにつけられた名前です.花色は「韓藍の色に出にけり」とあるように,目にしみるような目立つ鮮やかな濃い紅色をしています.このため,熱烈な恋や若い美しい女性を表すものとして詠まれています.黄色の品種もありますが,赤が基本です.

 

くそかずら / 万葉集

さう莢(けふ)に,延(は)ひおほとれる屎葛(くそかずら),絶ゆることなく宮仕へせむ  高宮王(たかみやのおおきみ)  (巻16,3855)

さう莢に,延ひおほとれる屎葛,絶ゆることなく宮仕へせむ

▽楽しい万葉集 たのしい万葉集(3855): さう莢に延ひおほとれる屎葛

さう莢(けふ)にまとわりついている生い茂っている屎葛(くそかずら)のように,強くたくましく,いつまでも宮仕えをしたいものです.

▽山田卓三「万葉植物つれづれ(大悠社)」

サイカチ(さう莢)とヘクソカズラは,ともに悪臭で知られます.サイカチ(皁莢:マメ科ジャケツイバラ亜科サイカチ属)は河原や山野などに生える落葉高木で,トゲがあり,大きな豆果には悪臭があります.ヘクソカズラも悪臭で知られる植物です.

この歌は「おほとれる」(まとわりつく)とか「絶ゆることなく」など,何度引き抜いても絶やすことが困難な害草としてのヘクソカズラの性状を戯笑歌としてうまく詠み込んでいます.花はヤイトバナの別名がありますが,これは,花冠の内部の中央が紅紫色でお灸の跡によく似ているためとか,子どもが花冠をなめて手や顔につけてお灸遊びをしていたことによるなどと言われています.

しかし,花は近くで見ると美しいと思います.