牡丹が咲きました.
小さな花々の方が好きだったし,今でもその傾向は変わりません.自然の優しさと摂理のようなものを感じる---.
でも,友人が咲かせた大輪の見事なバラを見て感嘆したことがあります.同じようにふと何の気なしに買い求めた芍薬が初めて開花したときには驚きを禁じえませんでした.そして,次に牡丹を購入し今年で3年目.今では毎年楽しみに開花を待っている自分に気づきます.
中国では百花の王
日本でも豪華な花の代表とみなされてきました.
「気品と豪華さを併せ持つ牡丹はその怪しいまでの美しさで,昔から多くの人を魅了してきた」とは,青木宏一郎氏の言葉(「江戸のガーデニング」).
花を楽しむだけではなく,
権威ある紋所(裏牡丹,津軽牡丹,近衛牡丹等)や,
着物の文様にも取り入れられています.
着物の文様-牡丹唐草文/ぼたんからくさもん|京都きもの工房 西陣袋帯『Drape』(牡丹) 西陣 | いち利セレクト | 呉服 徳佐 成人式 国産手描き京友禅振袖 牡丹 薄紫色
「百花の王とされ、幸福、富貴、高貴、豪華さをあらわします。特に、牡丹と唐草を組み合わせた牡丹唐草文様は室町時代から近世まで、唐草を代表する文様として人気でした」とは,着物の柄を解説したサイトhttp://www.kimono-katsura.co.jp/qa/pattern.html の紹介文です.
文学や絵画にも,当然のことながら
狩野山楽 大覚寺宸殿・牡丹の間襖絵 狩野山楽の代表作品・経歴・解説
www.shuminoengei.jpによれば,
ボタンは美しさを象徴する植物であり,古くから,さまざまな工芸品や絵画の意匠としても用いられています.また,美しい女性の容姿や立ち居振る舞いが,「立てば芍薬,座れば牡丹…」と形容されてきました.
ボタンは8世紀に,中国から薬用植物として渡来したといわれていますが,その後,観賞用にも栽培されるようになり,
江戸時代には数多くの観賞用の園芸品種が生み出されました(1).しかしながら,江戸時代のボタンの品種は,わずかにその名をとどめるばかりで,現在栽培される品種の多くは,明治以降に作出されたものです.
ボタンの野生種は,5種(*2:現在は更に増えている)ほどが中国に自生します.このうち,ボタン(Paeonia suffruticosa)は日本や中国で改良され,黄花の野生種ルテア(P. lutea)は主にフランスで,また暗紅紫色の花をもつデラバイ(P. delavayi)は,アメリカで交配親として用いられ,独自の品種群がつくられました.これらのボタンは,昭和初期に日本へ輸入されています.
なお,ボタンとシャクヤクはともにボタン科ボタン属(3)に含まれますが,ボタンは木本植物,シャクヤクは,冬期に地上部が枯れる多年生の草本植物です.
とあります.
この記載内容を少し詳しく---
( 1)江戸時代の園芸品種
江戸時代に様々な花を対象にした園芸ブームが起こったことは,このブログで以前にも何度か触れました(もう一種類のツバキが咲きました. - yachikusakusaki's blog マンリョウでもなくセンリョウでもなく別名は「10両」 yachikusakusaki's blog )
牡丹もその一つ.はじめ上方でブームが起こり,元禄年間に書かれた本には481種の品種が出てくるそうです(江戸のガーデニング).
しかし,上記,“みんなの趣味の園芸NHK”によれば「江戸時代のボタンの品種は,わずかにその名をとどめるばかりで,現在栽培される品種の多くは,明治以降に作出されたものです」というのはとても残念ですね.
(*2)中国での牡丹と原種
日本ぼたん協会 - ぼたんとは (2022年4月別のURLへ.https://nippon-botan.com/この記述は見当たらなくなっていました)によると
「中国で2世紀には既に薬用として使用された」
薬用としては,現在でも「牡丹皮」として使用されています.「血中の熱をさまして活かす作用」「消炎、止血、鎮痛などに効果があり」「頭通,ニキビ,腹痛,痔疾,更年期障害,不眠症など幅広い疾病に用いられているそうです(ボタンピ(牡丹皮) タケダの生薬・漢方薬事典 | タケダ健康サイト ).
「5世紀に入ると画材として描かれ,隋の時代には黄3,桃1及び紅色8の12品種が観賞品種として記録されています」
観賞用の花としては最も古い部類に入るのでしょう.
「結実もするが根からも生える,故に牡(無性繁殖が可能).古代品種は赤が多かったためと解釈され,故に赤色を表す「丹」.従って牡丹と称されるようになった」
明の李時珍著「本草綱目」という書物の記載だそうです.
「現在調査で明らかにされている原種は8種,1亜種,2変種,1変型」
みんなの趣味の園芸NHKより3つ増えていますね.現在では更に増えているかも知れません.
(*3)ボタン(牡丹)とシャクヤク(芍薬)は同じボタン科ボタン属.
Wikipedia(英語版,日本語版)によれば,ボタン属は以前はキンポウゲ科に分類されていたようですが(キンポウゲ目キンポウゲ科ボタン属),その後ビワモドキ目に編入されてボタン科とされた(ビワモドキ目ボタン科ボタン属).
そして現在は
ユキノシタ目ボタン科ボタン属
ややこしいですね.
そのような植物学の難しい話より,
ボタンとシャクヤクが同じ属!木本と草本で見た目かなり違うのに!
という方が気になりますよね.
英語ではどちらも同じ「Peony」.特にボタンを特定するときには「Tree Peony」.
ボタン属には現在33種あるとされているそうですが,牡丹と芍薬合わせた数という事になります.(園芸品種は更にずっと多いのでしょうが,その内の多くは変種扱いされているんでしょう)
しかし
最近の遺伝子解析の結果から,ボタン属の中を三つの「節section」に分けることが提案されています.
シャクヤクは「section Paeoniae」
ボタンは「section Moutan」
(もう一つの節にはアメリカに多い種が属します).
素人考えですが,現在のボタンの英語での呼び方「Tree Peony」は,もしかすると「Moutan」に変わるかもしれませんね.
和歌歳時記
というサイトにボタンを詠んだ歌がまとめられています.丹念にたくさんの歌をまとめた素晴らしいサイトです.牡丹 和歌歳時記
このサイトの運営者の方は,私と同じように「私はこの豪奢さに馴染めず、好きな花ではなかつたが、先年、園藝好きの中学生の姪つ子が庭の空きに苗を植ゑてくれた。我が家のむさ苦しい庭にはやはり不釣合だなと恥ぢる一方、毎年咲くのが楽しみになつてゐる」と記しています.私だけではないのですね.
二首ほどコピペさせてもらいます.
『舞姫』与謝野晶子
くれなゐの牡丹おちたる
『白き山』斎藤茂吉
近よりてわれは
例によって最後の我が家の花たちを
チューリップとわすれな草