「戦争に対する最大の防波堤:自由貿易」
経済の事はほとんど何も分かりません.
テレビ・新聞でも経済の話は避けてしまいます.カタカナ・横文字が入ると特に.IMF?WTO----.
そして,経済ニュースは何となく世間の風潮に従った解釈でやり過ごすのが通例.
例えば,なぜ経済のグローバル化が必要なのか?:世界経済の発展にはグローバル化が必須---らしい.
でも反対する人がいます:グローバル化は多国籍企業のみを栄えさせて,各国の地場産業を衰退させ,また先進国の雇用を奪ってしまう----らしい.
しかし,いつも歯切れの良い浜矩子先生が,毎日新聞2017年4月15日 東京朝刊で
「なぜグローバル通商が必要なのか?」に明快な答を出してくれています.
半分以上は理解できないのですが---
でも主題は明快.最も大切なのは
「戦争に対する最大の防波堤だから」なのですね.
そして,TPPがダメな理由もはっきりしました.全方位的に開かれていないからなのですね.
危機の真相
通貨と通商の三銃士に求められるもの 平和のための防波堤,自覚を
浜矩子
毎日新聞2017年4月15日 東京朝刊
4月10日,国際通貨基金(IMF),世界銀行,そして世界貿易機関(WTO)がグローバルな貿易動向に関する共同報告書を発表した.この発表に当たっては,3機関の首脳たちがベルリンで一堂に会した.珍しいことだ.IMF・世銀は,通貨すなわちカネの流れ担当.WTOは通商すなわちモノの取引担当.3者がタッグを組むことは,もっとあってもいい.だが,あまりない.
あまりないことが起こったのは,それだけ彼らの危機意識が強いからだろう.トランプ米大統領の出現で,アメリカがすっかり保護主義モードになっている.何しろ,この大統領は就任演説で「保護は大いなる富と力をもたらす」と言い放った人である.中国や日本やドイツに対して,対米貿易黒字を何とかしろとむやみに迫る.手当たり次第に,「為替操作国」のレッテル貼りをやりたがる.
こんな調子でグローバル通商を攪乱(かくらん)しまくられてはたまらない.この切迫した思いが,久方ぶりに,国境を超えた経済秩序の番人たちに,その役割と責任を思い出させた.そんなところだろう.そうであるとすれば,それは誠に結構なことである.
軟弱化した番兵さんたちをこんな具合に奮い立たせる.そういうことなら,ならず者の出現にも,瓢箪(ひょうたん)から駒の効用あり.そんなふうにいえるかもしれない.
だが,本当に良き駒をこの瓢箪から振り出したいのであれば,通貨と通商の守り手三銃士は,もっとしっかり気合を入れなければいけない.何のために何を守っているのか.そのことを改めて自覚し直す必要がある.
通貨と通商三銃士の一人,IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は,ベルリンで次のように言った.
「貿易がもたらす統合は,経済を成長させ,生活水準の向上をもたらすパワフルな手段だ.このエンジンのおかげで,グローバルな成長と繁栄がもたらされてきた」.
ごもっともではある.
だが,これだけでは不十分だ.これだけでは,認識があまりにも甘い.
貿易を通じて国々の経済がつながっていくことは,なぜ,重要なのか.なぜ,このつながりを断ち切ってはいけないのか.
それは,経済的絆の分断が国々の間における平和を脅かすからである.
貿易理論の世界的第一人者,ジャグディシュ・バグワティがかつていわく,「自由貿易は戦争に対する最大の防波堤である」.至高の名言だ.
通貨と通商三銃士の心の中には,この認識が力強く,揺るぎなく,鮮明に刻み込まれていなければいけない.
国々の間における自由な交易を守ることは,おのずと,国々の間の平和を守ることにつながる.通貨と通商の三銃士に託された本源的ミッションは,平和の番人として働き続けることにある.
交易とは,相互依存だ.自由な交易の輪が広がれば広がるほど,国々はお互いにお互いを頼りにするようになる.お互いに相手にとって不可欠な存在となっていく.誰もが誰とも絆をもって,みんながみんなを必要とする.誰も一人では生きていけない.この関係のネットワークが完成した時,そこに恒久平和の安全網が広がる.
WTOの三原則「自由・無差別・互恵」は,平和のための通商理念だ.無差別,すなわちえり好みや分け隔てなく,全方位的に貿易の自由化を進めることによって,互恵,すなわちお互いに恩恵を施し合う.これこそ,戦争に対する防波堤たりうる貿易の姿だ.
この姿でなければいけない.トランプ大統領がお好みの2国間協定型通商は,平和のための通商理念に全く反する.全方位の発想から最も遠い.環太平洋パートナーシップ協定(TPP)もダメである.TPPは2国間協定ではない.だが,相手を特定し,地域を限定してはいる.全方位的ではない.
ちなみに,2国間方式の通商を英語で「バイラテラル」通商という.WTOが目指す無差別全方位型の通商は「マルチラテラル」な通商だ.TPP型は全方位ではないから,決してマルチラテラルではない.TPP的なやり方を「プルリラテラル」という.多国間ではあるが,全方位ではない.やっぱり,相手特定・地域限定である.誰かを排除し,誰かを差別している.このやり方は,平和のための防波堤とはなり得ない.
「バイラテラル」でさえなければ,「マルチラテラル」なのだとはいえない.すなわち,TPPタイプの経済連携を志向しているからといって,平和のための通商理念をサポートしているとはいえない.この点は大いに注意を要する.安倍晋三首相は,2017年1月20日の施政方針演説の中で,「自由貿易の旗手として,公正なルールに基づいた,21世紀型の経済体制を構築する.TPP協定の合意は,そのスタンダードであり,今後の経済連携の礎となるものであります」と言っている.
これは違う.TPPは「プルリ」ではあっても,決して「マルチ」ではない.
平和のための自由貿易は「プルリ」からも「バイ」からも生まれない.通貨と通商の三銃士には,この点を敢然として高く掲げてもらいたい.