四角い姿はほぼ全国共通 / 味や風味は千差万別 : 各地に豊かで個性的な食文化を育んできた豆腐1. NHK新日本風土記 / 大豆あれこれ(2)

各地に豊かで個性的な食文化を育んできた豆腐 1

日本国産大豆の60%近くは豆腐に使われています.豆腐は日本の食卓に欠かせません.そんな豆腐がどのような思いで作られ,また,どのように日本人の日々に寄り添ってきたかのか?

NHK新日本風土記(「豆腐」2017年1月13日放送)のオムニバス項目にそって,見ていくことにします.

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新日本風土記

 

豆腐を寄せる、人を寄せる

愛知県豊田市大桑で,三年前に復活した庭先での豆腐作りの様子を伝えてくれました.この様な光景は昭和40年代まではよく見られましたとのこと.

今集落はお年寄りばかり.豆腐作りは,普段顔を合わせることも少なくなった村人の「ささやかな村祭り」.にがりが豆腐を寄せるように,人の輪ができました.青大豆?「新日本風土記」をみて--yachikusakusaki's 

 

海からの贈り物

もうひとつ,昔ながらの豆腐作りが生きている場所,沖縄県宮古島の石嶺豆腐.

毎週日曜日,満潮の時をねらって海に向かう山村日出夫さんと妻の洋子さん.欲しいのは海の水.

昔から沖縄では豆腐を固めるのににがりではなく海水を使ってきました.

しかし,今は海の水の汚れが進み,このやり方は宮古島など僅か.

「あがってくるときの豆乳の匂いって,なんか好きだなって思う.やっぱ,私は豆腐を作りたいなって思う」

豆乳が煮たって落ち着いたところで,くんできた海水を入れます.にがりと同じ成分塩化マグネシウムが含まれています.海水を使うとにがりに比べてゆっくりと固まります.にがりにはないミネラルがほのかな塩味と甘みを付け加えます.

おぼろ状に固まったものを型枠に.ぐいぐいと圧力を加え,水分を抜いて押し固めます.こうして島豆腐ならではのしっかりした食感が生まれます.

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できたて島豆腐、ゆし豆腐があったか美味しい!【PR】|沖縄CLIP

 

大豆を極める

京都祇園の八坂神社.江戸時代評判の豆腐料理の店がありました.境内で競い合った二つの店.

その内の一つ「二軒茶屋 中村楼」が今も営業を続けています.

木の芽を混ぜた白味噌を塗って焼きあげた豆腐田楽「祇園豆腐」. にっぽん食 探見(京都新聞 江戸食文化紀行-江戸の美味探訪- no.8「豆腐田楽」

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今も変わらず豆腐作りが盛んな京都.味の決め手は水.

そんな京都で新しい豆腐作りに挑んできた人がいます.西京極にある創業35年の店(久在屋),店主の東田和久さん.

最もこだわっているのが大豆.「滋賀県,富山,宮城,北海道,新潟----」

東田さんが創業した35年前,京豆腐でも輸入大豆を使うのが当たり前.豆腐組合の長老に聞いたところ「国産大豆が6割,輸入大豆が4割,澄まし粉で固めるんや」と.

差別化するときにどうしたらいいか?

東田さんが選んだのは国産大豆だけを使い,香りが引き立ち,しっかりと味のある豆腐.

品種や産地毎に異なる個性を見極めながらの豆腐づくり.豆乳の炊き方やにがりの合わせ方など,試行錯誤を繰り返してきました.

風味の強い食材に合わせても引けをとらない存在感,味にうるさい料理人をうならせている東田さんの豆腐.でも目指しているにはそのまま何も手を加えなくても十分に美味しい豆腐です.

「湯豆腐屋さんは何を味わって欲しいのかってなったら,豆腐ではないんですよね,湯豆腐に使うだしを味わって欲しい.『あんたとこの豆腐は味ありすぎんねん』って」

理想の豆腐へはまだ道半ば.美味しい豆腐を求める旅が続きます.

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【公式】京の地豆腐「久在屋」 - 京都の地豆腐 - 京の地豆腐「久在屋」

 

石豆腐

東祖谷.独特の豆腐が伝えられています.どっしりとした重量感.「石豆腐」と呼ばれています.

東祖谷で豆腐を作り続けて70年になる豆腐屋さん

 ぎゅうぎゅうと箱に詰めても壊れない堅さ.「入れて30年にもなる,これ入れれんかったら豆腐屋止めた方がましかなと思って」と宮西純子さん(吉田屋豆腐店).

 (岩豆腐の製法は、いわゆる木綿豆腐の製法。今では27年前に導入した豆乳プラント,水切り器などによって作業はほぼ機械化.その過程の中でも手作業の部分となる、にがり入れる分量やタイミング、水切りの程度などによって硬い岩豆腐になるのだそうです.「岩豆腐」《徳島》 | ウエブマガジン四国大陸 )

石豆腐が堅くなったのは,失敗して貴重な大豆を無駄にしないようににがりをたくさん入れたためともいいます.堅く水分の少ない石豆腐は傷みにくく,日持ちし,頻繁には豆腐づくりができない中,石豆腐は重宝されてきました.祖谷ではタンパク質が凝縮した石豆腐は,長い間なくてはならない栄養源でした.

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 「岩豆腐」《徳島》 | ウエブマガジン四国大陸 

 

菜豆腐

宮崎県椎葉村ここにも山村の厳しい暮らしから生まれた豆腐があります.その豆腐づくりに欠かせない大切なもの.急峻な斜面に切り開いた畑に向かいます.「これが平家かぶ菜」椎名伝統の豆腐の技を受け継ぐ清田アヤメさん.

畑で採ってきた平家かぶ菜をそのまま豆乳が煮える釜の中へ.できあがったのは「菜豆腐

「冠婚葬祭の時は白い豆腐をお客さん用にして菜っ葉の入っとるのは,親戚とか身寄りの人たちがお茶請けに」

平家菜を入れるのは大豆の節約のためでした.大豆の種がまけるのは山を焼いて4年目.ようやくできた大豆も,味噌や醤油に使われて,豆腐に回せるのは僅かでした.

(番組で放映された菜豆腐は下の写真より平家かぶの量が何倍も多いものでした)

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椎葉 菜豆腐 | 九州の味とともに 春 | 霧島酒造株式会社 買う / 椎葉村観光協会

 

番組ナレーション(松たか子

「夏は冷たく,冬暖かく,変幻自在の白い奴.老いにも若きにも,しなやかにたおやかに.ああ,かく生きてみたい」

(以下続く 予定)

 

大豆あれこれ(2)

大豆食品と東アジア食文化

「大豆を原料とした各種の食品が発達したことは,東アジアの食文化の特徴の一つ石毛)とのこと.

豆腐,納豆などの日常的副食品から,味噌,醤油などの調味料も大豆から作られています.「肉や乳製品が欠如していた日本の伝統的な食生活においては,ダイズ食品が蛋白質の重要な補給源(石毛)」となってきました.

 

豆腐の起源

漢王朝劉邦の孫が豆腐を発明したという中国の伝説があるそうですが,

「中国の文献に豆腐の文字が現れるのは9世紀末から10世紀初頭(石毛,原田)」とのこと.

その少し以前の唐代の中頃(8〜9世紀)チーズ状の食品「乳腐」にヒントを得て,中国で豆腐が発明された(石毛,原田)と推測されています.

なお,豆腐の「腐」は腐るという意味ではなく,乳製品の胡語に対する当て字でブルンブルンという意(石毛),もしくは大豆を水に入れてふやかす意(前田).もし,豆腐の原型が乳腐とすると,ブルンブルン説が,正しいように思われますね.

 

大豆食品は,殺生戒を守ろうとした中国の精進料理で重要な役割を果たし,中でも豆腐はその発展に最大の寄与をしたと考えられています(原田)

原田氏はさらに次のように記しています.

「豆腐は良質な蛋白質を含み.味付けも自由であることから,独特の味覚が得られる」

「しかも,豆乳・湯葉・油揚げなど,いわば二次的食品の利用により,植物性の食材で多彩な味の世界をつくりだすことが可能となった」

「こうした新しい精進料理の体型が,中国の唐代から宋代にかけての禅宗寺院で確立され,これが日本に伝えられることになる」

 

日本への豆腐の伝播

日本で初めて豆腐が記載されたのは1183年の神職の日記(「唐符」と記載)で,その後,中世,最も豆腐が食べられたのは仏教寺院,特に禅宗寺院とのことです(原田,前田,石毛)

江戸時代初頭,豆腐は高級食品で,農民の自家製造が禁じられたこともあるとのこと.

しかし,江戸の中頃には都市部には多数の豆腐店が出現し,一般的な食べ物に.そして,料理本豆腐百珍』シリーズも刊行.

一方,豆腐屋のない農村部では豆腐料理はハレの日のたべものとみなされていたそうです.(以上,石毛による)

 

参考文献・ウェブサイト 

「日本人は何を食べてきたか」(原田信男,角川ソフィア文庫)  「日本の食文化」(石毛直道岩波書店)  「ものと人間の文化史 豆」(前田知美 法政大学出版局)  日本豆類協会  豆類協会 mame.or.jp  全国豆腐連合会 豆腐のことなら全豆連

 

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