ヒノキと聞いて,何を思い浮かべるでしょうか?
ヒノキ風呂?総檜造りの高級家屋? 最近は,スギと並んで花粉症を引き起こす悪玉?
私はヒノキとスギの違いもおぼつかない有様なので----
ヒノキをスギと比較しながら,ただひたすら調べてみました.
◎ヒノキの語源は火の木で、錐(きり)にしてもみ、火をおこすから(『大和本草(やまとほんぞう)』)、といわれる。ヒノキは火と縁が深い。ところが、火は古代の音韻では乙類で、一方、檜(ひ)(比)は甲類であり、ヒノキの語源を火の木とする説は成り立たないとする見方もある。ヒノキとは - コトバンク
霊(ひ)の木,日(ひ)の木の可能性もあるとのこと.なお,檜は中国ではイブキビャクシンを指す.ヒノキ・檜・桧(ひのき) - 語源由来辞典
(スギ:まっすぐ高く伸びる木の意か)
◎ヒノキはマツ目ヒノキ科ヒノキ亜科ヒノキ属,仲間にはサワラ,ヒバ (スギはマツ目スギ亜科スギ属)ヒノキ科 Cupressaceae -4(スギ亜科)
◎樹皮や葉の形状は sugi_hinoki
◎材木としては「ヒノキの方が,やや強い」「どちらも,腐朽菌にもシロアリにも強く、建築用材として優れた材」「スギが優れているのはその調湿性にありますが乾燥に技術が必要」
◎森林面積は 林野庁/スギ・ヒノキ林に関するデータ
◎花粉症について:「花粉症は誰もが認める増加している病気ですが、どの程度の患者がいるのかはっきりとしたデータはあまりありません。その中で日本アレルギー協会会長の奥田稔が行なった----調査によると全国平均では15,6%で地域別の有病率では東北13.7%、北関東21.0%、南関東23.6%、東海28.7%、北陸17.4%、甲信越19.1%、近畿17.4%、四国16.9%、中国16.4%、九州12.8%で北海道、沖縄はごく少ない有病率でした。ある最近の調査によるとスギ花粉症の有病率は全国で20%を超えると報告されています。はじめに 〜花粉症の疫学と治療そしてセルフケア〜|厚生労働省」
発症時期については花粉カレンダー|花粉症ナビ
花粉症に悩まされている方は大変多いとはいえ,現代でも,ヒノキやスギの大木には畏敬の念を禁じ得ません.
万葉時代には,鬱蒼(うっそう)としたヒノキの密林を崇拝し,ナデシコ,梅,桜の花と同じように,ヒノキの葉を髪に挿す風習があったようです.なぜかうれしくなります.
檜/万葉集1
いにしへに,ありけむ ひとも,わがごとか,みわの ひはらに,かざし をりけむ
いにしへに,ありけむ人(ひと)も,わが如(ごと)か,三輪(みわ)の檜原(ひはら)に,挿頭(かざし)折(を)りけむ 柿本人麻呂歌集 (第7巻-1118)
いにしへに,ありけむ人も,わが如か,三輪の檜原に, 挿頭折りけむ
◎葉を詠める歌,人麻呂歌集にある.一首の意は,
古人も亦(また),今の吾のように,三輪山の日原に入り来て,挿頭(かざし:髪に挿した花や枝)を折っただろう
とういうので,品佳く(よく)情味のある歌である.巻二(196)の人麻呂の歌に,
「春ベは花折り挿頭し,秋たてば黄葉(もみじば)挿頭し」
とあるごとく,梅も桜も瞿麦(なでしこ)も山吹も柳も挿頭にしたが,檜も梨も挿頭にしたものと見える.葉を詠めるとことわっていても,題詠ではなく,広義の恋愛歌として,象徴的に歌ったものだろう.
人麻呂の歌に,
「古に ありけむ人も 我が如(ごと)か 妹(いも)に恋いつつ 宿(い)ながてずけむ」(巻四・四九七)
というのがある.さすれば此は(これは)伝承の際に民謡風に変化したものか,或いは(あるいは)人麻呂が二ざまにつくったものか,いずれにしても,二つ並べて鑑賞して好い歌である.
(斎藤茂吉 万葉秀歌)
◎昔の人も、私たちのように、三輪(みわ)の桧原(ひはら)で、小枝を折って髪に挿(さ)したことでしょうか。
当時の人は、桧(ひのき)などの常緑樹の枝を髪に挿すことがありましたが、これは、樹木の聖霊の力を身につけることができるという意味もあったようです。
たのしい万葉集(1118): いにしへにありけむ人も我がごとか
檜/万葉集2
みもろつく,みわやまみれば,こもりくの,はつせのひはら,おもほゆるかも
御室(みもろ)齋く(つく),三輪山(みわやま)見れば,隠口(こもりく)の,泊瀬(はつせ)の檜原(ひはら),おもほゆるかも 作者不詳 (第七巻-1095)
御室齋く,三輪山見れば隠口の,泊瀬の檜原,おもほゆるかも
◎山を詠んだ,作者不詳の歌である.「御室齋く」は御室に齋く(いつく)の意で.神を祀って(まつって)あることであり.三輪山の枕詞となった.「隠口」はこもりくにの意で初瀬の地勢をあらわしたものだが,初瀬の枕詞になった.一首の意は
神をいつきまつってある奥深い檜原を見ると,谿谷(けいこく)ふかく同じく繁っている初瀬の檜原をおもい出す
というので,三輪の檜原,初瀬の檜原,といって檜樹の密林が鬱蒼(うっそう)として居り,当時の人の崇拝していたものと見える.上の句と下の句の聯絡(れんらく:たがいのつながり)が,「おもほゆるかも」で収めてあるのは,古代人的に素朴簡浄(かんじょう:かんたんでわかりやすい)で誠によいものである.なお,この種の簡潔に山を詠んだ歌は幾つかあるが,いまはこの一首をもって代表せしめた.
(斎藤茂吉 万葉秀歌)
大雪(たいせつ) 北風日増しに強く,雪おおいに降る