中島みゆき21世紀ベストセレクション / セルフライナーノーツ抜粋:「地上の星」目をこらして気づいたのはこの人々に「光を当てる」なんて出来ないということでした.光を放っているのは,まさに.この人々自身だったからです.心から敬意を込めて「地上の星」と名付けました. NHK 「SONGS中島みゆき〜歌姫の21世紀〜」より

「2012年,私満島ひかりはCMで中島みゆきのファイトを歌った.風が吹いている歌だと感じた.ギリギリ持ちこたえている人の背中を,ふわっと風を吹かせて立ち上がらせる.

中島みゆきはどうしてこんな歌が作れるんだろう。ずっとそう思ってきた.そして今年彼女はデビュー以来初めて自分の歌の創作ノートを明かした」

という満島ひかりのナレーションで始まったNHK「SONGS中島みゆき〜歌姫の21世紀〜」(2016年11月10日放映)

その中では,11月16日発売「中島みゆき・21 世紀ベストセレクション『前途』」に付属するライナーノーツ(CDのジャケット等の付属するアーティスト自身が書いた解説文)の一部が披露されていました.

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以下にその一部を書き留めました(番組にナレーションとして挿入されたもので,「前途」付属のものとは,異なっている可能性は大いにあります).

 

◎ベストセレクション選曲の基準

中島みゆきナレーション「お元気ですか,中島みゆきです.たまにはベストと真っ向から名乗ってみるのもどうかしら.という話がまとまりまして,どれをっと考えても自分では一応どの曲もそれなりに良いわっと思ってますので,選べなくって,何を基準に絞ったかというと,私がライナーノーツ(CDのジャケット等の付属するアーティスト自身が書いた解説文)を書きやすそうーな曲,という基準で,えー,実はそんなわけで決まりました.えへへへへへ,こんな感じです.」

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地上の星 :プロジェクトX (名もなき企業戦士に光を当てた番組)のテーマ曲

「無名の人々に光を当ててください」というのがNHKからの唯一の注文でした.分厚い企画書には,懸命に生きた無名の人々の記録.目をこらして気づいたのはこの人々に「光を当てる」なんて出来ないということでした.光を放っているのは,まさに.この人々自身だったからです.心から敬意を込めて「地上の星」と名付けました」

 

銀の龍の背に乗って:ドラマ「Dr.コトー診療所」主題歌

「医者という仕事は,何という孤独で心細いものであろうかと,痛々しく思えることがあるんです.たった一人で命に直面する重責の孤独.せめてもの援護をしてくれるようにと,命の水の化身であるところの龍に頼み事をしたかったのです」

 

◎宇宙(それふね):2006年TOKIOへの提供曲

「お話をいただいたときには,期待が盛り上がってしまいまして,到底自分では歌えなさそうな勢いの「がっつり系」に仕上がってしまいました.私は自分のコンサートで歌おうとして,早口部分で挫折しました」

 

◎倒木の敗者復活戦

「余りにも悲惨だった東日本大震災は,私の作品に於いても,発表を控えたり,表現を変更せざるを得ない事態が,いくつか起きた.そんな中で,逆にこの曲に「倒木の」が「東北の」と,聞き取れるとして受け入れていただく結果になったのも,大震災の影響の一つであったと思われるが,それはそれで否定するまでもないと考えています」

 

◎India Goose (2014年 夜会で発表.India Gooseとは,インドとモンゴルを行き来する渡り鳥で,ヒマラヤ山脈を飛び越えるとされている)

満島ひかりナレーション:変わらずこの国を覆う閉塞感.中島みゆきは渡り鳥の羽ばたきに光を見いだした)

「ヒマラヤの後方には,吹き下ろす風に向かって,ひたすら飛び続けるうちに,運が良ければ煽られて,つまり『すっとばされて』ようやく峰を越えて行ける小さな渡り鳥たちが,羽ばたきつづけているそうな.てんでサマにならない,そんな飛び方だって,美しい渡り鳥だと思います」

 

◎Why & No

「言いたい放題,とんでもなくずぶとい人間と見えるタイプです.でも実際はとんでもなくアガリ症です.即座に何か言い返すなんてことが出来たら,人生ずいぶん違っていたでしょう.言えなかったから.でも言えば良かったから.後になって書く.言えなかったことが自分のせいだということを,書く.結局,ええカッコしいだから,言えなかったのだということを,書く」

Why & No     歌:中島みゆき   作詞:中島みゆき               作曲:中島みゆき

何か変だと第六感が今うしろ髪引っ張った

だけど訊いたら気まずいようで ここで訊いたら間(ま)が悪いようで

何か変だと寒気(さむけ)のように今いやな感じがした

だけど訊いたら機嫌損(そこ)ねそう ここで訊いたらアタマ悪そうで

根拠もないし 証拠もないし 理屈では敵(かな)わない

でもだいたいそういうのが当たりなんだよね

訊くべきだったね「なんでさ」ってね

間に合わせの納得で黙り込まないで

もしかしたら世の中はそういうものかもしれないなんて

“そういうもの”なんて あるもんか

訊けばいいじゃんいいじゃん「なんでさ」ってね

訊けばいいじゃんいいじゃん「Why & No & No」

 

どこか痛いと心の鱗(うろこ) 無理に剥(は)がれる音がした

だけど異論は無礼なようで 進めなければ時間ないようで

どこか痛いと匂いのように疑わしさがそそけ立つ

だけど異論は間違いなようで 進めなければ仕方ないようで

いつもそうだ繰り返しだ その弱味知られてる

甘いもんだと ちょろいもんだと エサになっている

言うべきだったね「ことわる」ってね

その場しのぎのお愛想は もうたくさんだ

もしかしたら世の中が正しいものかもしれないなんて

“正しい他人”なんて あるもんか

言えばいいじゃんいいじゃん「ことわる」ってね

言えばいいじゃんいいじゃん「Why & No & No」

手抜きせんで言えばいいじゃん 「Why & No」

 

◎ベストセレクション:アルバムの名称を「前途」としたわけ

中島みゆきナレーション「前途洋々とか,前途多難とかいうふうに使われますが,地球環境やら世界経済やら民族問題やらを考えると,人類はなかなかの前途多難とも見えますし,とはいえ,それらの問題にも打つ手が何にもないわけではないと考えると,人類はなかなかの前途洋々とも見えるではございませんか.どちらにしても,過ぎた時へ戻れないことだけはみーんなに平等なんですよね.

あの,余談ですけど,私はなーにをやってもトロイたちでして,あれもしよーこれもしよーと思いながら,毎日間に合わなかった用事が残るんです.これが日を追う毎にうずたかく積もっていきまして,先へと進めば進むほどなぜか忙しくなっていく.つまり,私の人生は,言ってみれば,前途多忙というこになっとるわけでございます.お付き合いいただきまして有り難うございました.ではまた,いつかどこかで」