感染症対策も同じだ.2009年の新型インフルエンザ流行の後,有識者会議がまとめた提言は,今に通じる課題を網羅していた.なのに実行されないまま,という話は以前に本欄で述べた通りだ.中長期的課題と向き合わず,「喉元過ぎれば」という日本の文化や社会の問題?もどかしいのは,今,目の前の新型コロナウイルスの流行に対する専門家の提言さえ,なかなか実行されないことだ.感染リバウンド防止策は,ぜひ機能させてほしい.青野由利 毎日新聞 「免疫の働き弱まる」変異ウイルス 国内も発生か NHK

土記

提言が生かされない

青野由利

毎日新聞 2021/3/6 東京朝刊

 

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 東日本大震災から10年.本紙の連載「提言は生かされたか」は,政府の「復興構想会議」がまとめた7原則を検証する企画だ.

 

 タイトルは問いかけだが,答えはすぐ浮かぶ.残念ながら生かされたとはいえない,だ.

 

 たとえば津波で多くの人が亡くなった岩手県大槌町.「地域主体の復興」をめざしたが,かさ上げ造成した中心部の宅地は3割が空き地に.震災後,折に触れて訪れた町だけに気にかかる.

 

 福島在住の僧侶,玄侑宗久さんは委員として本気でさまざまな提言をしたが,議論は立ち消えに.振り返る言葉に無念さがにじむ.

 

 被災地の復興だけではない.東京電力福島第1原発の過酷事故については複数の事故調査委員会が力を入れてまとめた提言がある.

 

 「国会事故調」は延べ1167人から900時間ヒアリングし,規制当局に対する国会の監視,電気事業者の監視など,7項目について国会に対応を求めた.延べ772人から1479時間ヒアリングした「政府事故調」も,事故原因解明の継続調査,被害の全容調査などを提言した.だが,いずれもほとんど生かされていない.

 

 感染症対策も同じだ.2009年の新型インフルエンザ流行の後,有識者会議がまとめた提言は,今に通じる課題を網羅していた.なのに実行されないまま,という話は以前に本欄で述べた通りだ.

 

 中長期的課題と向き合わず,「喉元過ぎれば」という日本の文化や社会の問題? これは自戒を込めて考えなくてはならないが,それだけではないだろう.

 

 もどかしいのは,今,目の前の新型コロナウイルスの流行に対する専門家の提言さえ,なかなか実行されないことだ.

 

 たとえば第3波の流行が東京を中心に拡大した昨年11月.こうした状況になったらGoToトラベルを停止することは9月から政府の分科会が提言していた.飲食店の営業時間短縮や,その前倒しも求めた.それなのに,東京都や国の動きは鈍かった.

 

 年末年始の忘年会や帰省への警告も繰り返し出されたが,正面から受け止められたとはいえず,結果的に緊急事態宣言に.

 

 今,提言されている「感染リスクが高い集団・場所を中心とした幅広な検査」や「高齢者施設の重点的検査」だって,元をただせば昨年夏から分科会が指摘してきた戦略だ.

 

 政治判断の重要性は当然だが,専門家と政治と行政だけでは動かない対策をどう実行するか.感染リバウンド防止策は,ぜひ機能させてほしい.(専門編集委員

 

 

 

「免疫の働き弱まる」変異ウイルス 国内も発生か 慶大など発表

NHK NEWSWEB 2021年3月6日

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210306/k10012900921000.html

新型コロナウイルスの変異ウイルスについて,免疫の働きが弱まるおそれのある遺伝情報の変異が国内でも起きていた可能性があるとする分析結果を慶応大学のグループが発表しました.

この分析は慶応大学医学部の小崎健次郎教授らのグループが発表しました.

 

グループでは国内の感染者から検出され,遺伝情報が公開されているおよそ4400人分のウイルスの遺伝子を詳しく分析しました.

 

その結果,免疫の働きが弱まる可能性が指摘されている「E484K」と呼ばれる変異を持ったウイルスが64人分見つかったということです.

 

このうち62人分は遺伝子の特徴から海外から持ち込まれたとみられますが,去年の8月と12月にそれぞれ採取された2人分の変異ウイルスについては日本で流行しているウイルスと遺伝情報が非常に近く,国内で変異が起こった可能性が高いことが分かったということです.

 

「E484K」の変異は南アフリカやブラジルで広がった変異ウイルスでも見つかっていますが,今回,分析されたウイルスは,いずれもこれらとは異なり,感染性が高まるような変異は起こっていないということです.

 

小崎教授は「今回,数は少ないが国内で変異したとみられるウイルスが見つかった.変異ウイルスは,海外から流入するだけでなく,国内でも発生するおそれがあることを念頭に広く監視していく必要がある」と指摘しています.

 

 

新型コロナウイルス感染症(変異株)の評価・分析

2021/3/2 時点

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000748323.pdf

1.N501Yの変異のある変異株

  • 「N501Yの変異がある変異株」は,従来株よりも感染性が増していることが懸念されている.
  • 英国で確認された変異株(VOC-202012/01),南アフリカで確認された変異株(501Y.V2),ブラジルで確認された変異株(501Y.V3)がこの変異を有している.
  • 我が国では,214例(国内165例,空港検疫49例)を確認している.

 

2.E484Kの変異がある変異株

  • 「E484Kの変異がある変異株」は,従来株よりも免疫やワクチンの効果を低下させる可能性が指摘されている.
  • 南アフリカで確認された変異株(501Y.V2),ブラジルで確認された変異株(501Y.V3)がこの変異を有している.

 ※上記のほかに「N501Yの変異はないがE484Kの変異がある変異株」を,現在,我が国では,93例(国内91件,空港検疫2件)確認している.

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