ビュブリスはアポローンの孫娘. 彼女は双子の兄カウノスに激しく恋してしまいます.リーベラーリス「メタモルフォーシス」では,身を投げようとするところを憐れんだ妖精が助けて,樹木の妖精(ドリュアス)に変身させます. “ビュブリスに深い眠りを注ぎ込み,彼女を人間から精霊に変えてやった. そして,彼女を樹木の妖精ビュブリスと名付け,自分たちと生活を共にする仲間にしてやったのだった” ドリュアス ビュブリス1

 樹木,木立,森林,山林のニンフ.時には,オークや松,ポプラやトネリコ,リンゴや月桂樹など,個別の樹木の精:ドリュアス(Dryas/ ドライアドDryades).

エコー,エウリュディケについで,ドリュオペを取り上げました.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/01/27/234622 

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/01/28/235604 

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/02/03/004552?_ga=2.260964430.294435653.1610891927-847026506.1533741043

 

ドリュオペは,アポローンと交わり,アムピッソス(アムピッスス)を生みます.

オウィディウス「転身物語」では.何の罪もなくただ花を摘んだだけでロトゥスの木に変身していきます.息子への愛を語りつつ.

リーベラーリス「メタモルフォーシス」では,彼女に好意を持ったドリュアスたちの力で,黒ポプラの妖精になりますが,アムピッソスは“『母に与えられた好意』に感謝して,妖精たちのために社を建設し,その地の運動競技会を最初に開催した人となった” とのこと.

同じ登場人物ながら,二つの物語は大きく異なりますが,ニンフ(ドリュアス)になったとはっきり記載しているのは,リーベラーリス「メタモルフォーシス」.

 

同じようにオウィディウス「転身物語」とリーベラーリス「メタモルフォーシス」が,取り上げている変身譚にビュブリスの物語があります.

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ビュブリス (ブグローの絵画) - Wikipedia

ここでもアポローンの名前が登場します.ビュブリスはアポローンの孫娘.

彼女は双子の兄カウノスに激しく恋してしまいます.

リーベラーリス「メタモルフォーシス」では,身を投げようとするところを憐れんだ妖精が助けて,樹木の妖精(ドリュアス)に変身させます.

オウィディウス「転身物語」の場合は,放浪の果てに,泉もしく樫の木への変身が語られています.

以下,リーベラーリス版を転載させていただきますが,オウィディウス版は洗練された物語文学であるのに対し,リーベラーリス版では,素朴な記録が綴られています.

 

アントーニーヌス・リーベラーリス メタモルフォーシス 安村典子訳 講談社文芸文庫

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第30話 ビュブリス

 

 アポローン神と,ミーノース王の娘アカカリスとの間に,ミーレートスという名の男の子がクレータ島に生まれた.

アカカリスは父ミーノースの怒りを恐れて,この子を森に捨てた.だがアポローンの神慮により,狼たちがやってきてこのミーレートスを守り,かわるがわる乳を与えていた.

その後,たまたまそこを通りかかった牛飼たちがその子を拾い上げ,彼らの家で育てることになった.

 

 ミーレートスが成長して美しく活溌な少年となった時,ミーノースは情愛にかられて,暴力に訴えてでもその子を手に入れたいと思った.

そこでミーレートスはサルペードーンの忠告により,夜のうちに小舟に乗ってカーリアー地方へと逃げた.そこで彼はミーレートス市を建設し,カーリアー王エウリュトスの娘,エイドテエーと結婚した.

彼らの間には双子の兄妹,カウノスとビュブリスが生まれた.カーリアー地方における今日のカウノス市は,この人物に因んで名付けられ,ビュブリス市もまた同様である.

 

  近隣に住む多くの者たちがビュブリスに対して求婚し,また彼女の評判を聞きつけて,周辺の街からも多くの求婚者たちがやって来た.しかし彼女はこれらの者たちにほとんど関心を払わなかった.兄カウノスに対する,言葉に出して語るのもはばかれるような愛が,彼女を狂わせていたからだ.

しばらくの間は,兄への想いを隠すことができ,両親にも見つからずにすんでいた.だが,日毎に強くなる愛の魔力にとらえられ,ついにある夜,岩から身を投じて死んでしまおうと思うに至った.

 

 ビュブリスは近くの山へ登り,身を投げようとしたその時,妖精たちが憐れんで彼女を押し止めた.そして,ビュブリスに深い眠りを注ぎ込み,彼女を人間から精霊に変えてやった.

そして,彼女を樹木の妖精ビュブリスと名付け,自分たちと生活を共にする仲間にしてやったのだった.

かの岩山から流れ出す川は今日に至るまで,その地の人々からビュブリスの涙と呼ばれている.