このウイルスはやっかいで,意地が悪い.「無症候の人からの感染も背景にあるのではないか」その性質がここまで世界を翻弄することになろうとは.無意識に運ぶ.見えないクラスターがつながる.その先に重症化しやすい人たち.そして年の瀬に判明した変異ウイルス.東京の感染拡大は止まらない.強い対策が提言されているが,政府や都知事はそれに応じる気配がない.そこへ感染性の強い変異ウイルスが加わったら?「今年のブレークスルー」ワクチン開発.科学の頑張り/ 残念なのは日本の政治.青野由利

土記

変異ウイルスの警告=青野由利

毎日新聞2020年12月26日 東京朝刊

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https://mainichi.jp/articles/20201226/ddm/002/070/089000c

 

 本当にこのウイルスはやっかいで,意地が悪い.そう思い知らされたこの1年だ.

 

 武漢の感染拡大は「無症候の人からの感染も背景にあるのではないか」.感染症対策の専門家,押谷仁さんから聞いたのが1月末.その性質がここまで世界を翻弄(ほんろう)することになろうとは.不覚にも当時は想像できなかった.

 

 しかも,さまざまな角度から現代社会の弱点を突いてくる.

 

 軽症で済む若い世代が無意識にウイルスを運ぶ.繁華街を中心に見えないクラスターがつながる.その先に重症化しやすい人たちが集う介護施設や病院がある.高齢者が集団で暮らすようになった社会の特徴を,ウイルスがあぶり出しているようでもある.

 

 そして年の瀬に英国で判明した変異ウイルス.細胞にウイルスが取り付くスパイクたんぱく質の遺伝子に9カ所,それ以外にも複数の変異が入っているという.

 

 新型コロナの変異自体はめずらしくない.日本のゲノム解析でも14日に1カ所程度変異していることがわかっている.ただ,今回の変異が脅威なのは,感染性を高めていると推定される点だ.

 

 英国の初期分析では1人が平均何人に感染させるかを示す実効再生産数を0・4以上高め,感染性が最大1・7倍になるという.

 

 これが本当なら状況は一変する.病原性が変わらなくても,感染者が増えれば重症者も増える.南アフリカで見つかった類似の変異ウイルスは,若者の感染が多いとの情報もあり,気がかりだ.

 

 「勝負の3週間」を経て,札幌,大阪の感染は頭打ちになったが,東京の感染拡大は止まらない.政府のコロナ分科会からより強い対策が提言されているが,政府や都知事はそれに応じる気配がない.

 

 そこへ感染性の強い変異ウイルスが加わったら? 医療崩壊に拍車がかかるだろう.感染拡大が続けばこうした変異ウイルスが国内で出現する確率も高まる.

 

 悲観的になるが,世界を見れば科学も負け続けているわけではない.米サイエンス誌は「今年のブレークスルー」に先週のこの欄でも触れたワクチン開発を選んだ.

 

 当初から米モデルナ社などが「RNAを使って素早く作る」と宣言していたが,無理だと思っていた.専門家の分析では10年ほど前からがんや他のウイルスのワクチン開発で蓄積した経験,集中的資金投入などが功を奏したようだ.

 

 科学の頑張りに比べ残念なのは日本の政治.東京対策,変異ウイルス対策を含め,年内にできることはまだある.

(専門編集委員

 

 

 

管首相と官邸サイドは,GoToトラベルの評価を間違った方向に誘導しているように思います. yachikusakusaki

 

 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/12/05/224016?_ga=2.59162221.1514225445.1608128169-847026506.1533741043

間違えないでほしい.分科会は「主要な要因」である証拠が「今はない」と言っただけだ.「一般的には人々の移動が感染拡大に影響する」.「主要な」要因かどうかは別として,感染拡大の一因と考えるのが筋だろう.「東京や大阪などで若者のクラスター連鎖が起きていると考えられるが,見えていない.そこから若い世代の移動によって感染が広がり,親の世代に感染したところで顕在化しているのが今の状況だろう」菅さんは記者会見で原稿に目を落としつつ,既に講じた対応を淡々と述べただけ.青野由利

 

▽ http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/12/18/135830

官邸サイドが厚労省アドバイザリーボードの会議に提出していた「航空旅客数と感染者数の増加には統計的な因果関係は確認できない」という資料.

「一見正しそうな統計データで世を惑わす手口」の見本となる代物.悪徳健康食品販売者などが常用する手口と言っていいかと思われます.

政府は各分野の専門家の意見を聞き,理解した上で,全体を見渡した独自の政策を進める役割を持っています. しかし,悪徳業者さながらのデータで国民を欺き,施策を実行することは許されません.週刊文春2020年12月24日号「医療崩壊は人災だ」を読んで.

 

下記毎日新聞"焦点”の記事中の首相の言葉

「GoToは延べ7000万人が利用し,感染判明は340人だ.」は,感染症の専門家に言わせれば,ミスリードになるのでは?

文春記事によれば

「本来,航空旅客数と比較すべきなのは,感染者数ではなく,1人から何人に感染が広がるかを示す『実効再生産数』.

 問題の資料をベースに比較してみたところ,航空旅客数が増えた直後に二次感染が増えていることが分かりました」

GoToトラベルの評価は,「(管首相が引用した政府資料のように)利用した人の内,何人が感染したか」ではなく,「利用した人が何人に感染させたか」で評価できるが,そのようなデータは無い!(「一般的には人々の移動が感染拡大に影響する」)

また,Gotoトラベルを宣伝することは,人々に移動を促すことであって,そのアナウンス効果(=どんどん移動してください)は新型コロナなんか無視してもよいとほぼ同義に聞こえてしまう.これは,受け取る側が悪いのではない.アナウンスする側の責任.

 

 

焦点

首相「静かな年末年始を」 コロナ拡大に焦り

毎日新聞2020年12月26日 東京朝刊

焦点:首相「静かな年末年始を」 コロナ拡大に焦り - 毎日新聞

 

 菅義偉首相は25日,首相官邸で記者会見した.新型コロナウイルスの感染が再び広がっている現状を踏まえ「静かな年末年始を過ごしていただきたい.できる限り会合は控えて,感染拡大を食い止めることができるように協力をお願いする」と国民に呼びかけた.南アフリカでの新型コロナの変異種確認を受け,同国に滞在歴のある外国人を入国拒否の対象とすることも表明した.

 

 首相は会見で,14日夜に自民党二階俊博幹事長ら8人程度で会食したことに関し「深く反省している.改めておわびする」と陳謝し,政府の新型コロナ対策について「国民への説明が十分ではなかった面があった.今後国民と丁寧にコミュニケーションを取ることに努めたい」と語った.新型コロナ対策の根拠法である新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正を進める考えも改めて示し,罰則を設けるかは政府の新型コロナ対策分科会で早急に検討を進めるとした.

 

 変異種に関しては「各国の状況を見ながら迅速に対策を強化する.水際対策はしっかりと早急にやっていきたい」と強調.既に開発されたワクチンの有効性については「必ずしも効果がなくなるわけではない.英国やWHO(世界保健機関)も現時点で今回の変異がワクチンの有効性に影響を与えるとのエビデンス(証拠)は得られないとしている」と指摘し,情報収集を進めた上で,有効性や安全性を確認していく考えを示した.

 

 首相はこれまで,国内では就任時と臨時国会閉会前の2回しか記者会見を開いていなかった.感染拡大防止と経済活動の両立にこだわり続け,25日の会見でも,自身が推し進めた旅行需要喚起策「GoToトラベル」事業について「GoToは延べ7000万人が利用し,感染判明は340人だ.地方経済の下支えに大きく貢献できたと思っている」と成果を強調した.

 

 だが,その肝いり政策も,12日に全国の新規感染者数が3000人を突破し,28日からの全国一斉停止に踏み切らざるを得なかった.23日には西村康稔経済再生担当相が東京都の大規模イベントの人数制限を一時的に上限「5000人」に戻すと表明したが,25日には全国の新規感染者数が3833人と3日連続で過去最多を更新.政府の対応は後手に回り,感染拡大に歯止めがかかっていない.

 

 官邸幹部は,首相が3度目の会見に臨んだ意図について「国民の気持ちを変えるには,トップの言葉で語りかけることに意味がある」と指摘.首相自身も会見で,国民の行動変容について「ありとあらゆる機会に現状を丁寧に説明させていただければ,必ず理解いただけると思っている」と強調した.新型コロナ対策への不満から内閣支持率も急落しているが,感染拡大を抑える妙案がない中で,首相自らの呼びかけの効果に期待するしかない状況だ.会見には分科会の尾身茂会長も同席し,首相とともに感染防止を呼びかけた.

 

 首相は会見で国民への「丁寧な説明」を繰り返し強調した.

会見後,国内でも変異種が確認されたことを受け,官邸で田村憲久厚生労働相に対応を指示.しかし,官邸を出る際には,記者団の問いかけに「厚労相がこれから記者会見する」と語るのみで,丁寧な説明は尽くされなかった.

【竹地広憲,佐野格】

 

大都市圏の抑制重要

 

 「年が明けてから社会経済活動が活発になると,感染者が再び急増する可能性が極めて高い.今の時期に感染者数を減らすためにできるだけのことをする必要がある」.25日の記者会見で,新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長はこう危機感を示した.

 

 新型コロナの感染者が1月に国内で初めて確認されてから,10月末に感染者数が10万人に達するまで約9カ月.そのわずか2カ月後に,20万人に倍増した.死者数も第3波で急増している.

 

 感染症に詳しい専門家が「(政府の旅行需要喚起策)GoToトラベルを続けてきたのは失敗で,地方に感染を広げてしまった」(けいゆう病院の菅谷憲夫医師)と指摘するように,深刻な状況は全国的に拡大している.厚生労働省によると,確保を見込む新型コロナ患者用の病床使用率(22日時点)は,高知県(59・5%)や広島県(46・7%),熊本県(37・1%)など各地で逼迫(ひっぱく)しており,22府県が感染急増を示す「ステージ3」(20%),7都道府県が感染爆発を示す「ステージ4」(50%)に該当している.

 

 感染抑制の鍵は,大都市部の対策にある.感染対策を助言する厚労省の専門家組織「アドバイザリーボード」は22日,「大都市圏の感染拡大は,最近の地方での感染にも影響している.大都市圏の感染を抑制しなければ,地方の感染を抑えることも困難だ」と指摘した.ただ,東京都内では24日,新規感染者数が過去最多の888人を記録し,大阪府も連日300人前後が確認される高止まり状態だ.分科会の尾身会長は,23日の記者会見で「首都圏は他の地域に比べて,人の流れが減っていない」と訴え,忘年会や新年会を見送り,帰省を控えるなど,人の移動や接触を避ける強い対策を呼びかけた.

 

 ただ,厚労省幹部は「国民,特に若い人の行動を変えるために心に響くメッセージをどう送るか,率直に言って苦労している」と打ち明ける.年末年始に向けて国民と危機感を共有できるかどうかが課題だ.【小川祐希】

 

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