カリテス5
初期ルネサンス期を代表するボッティチェッリの「春 プリマベーラ」.
Primavera (painting) - Wikipedia
ここに描かれた三美神は,左から,
アモール〈愛〉/〈愛欲〉
カスティタース〈貞節〉
プルクリトゥード〈美〉
これは,ジョヴァンナ・トリナブオーニのメダルに刻印された名前と一致し,ルネサンス期のネオプラトニズムの影響下にある作品と言えます.
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高階秀爾著 ルネッサンスの光と闇—芸術と精神風土(中公文庫)によれば
「〈貞節〉は〈愛〉を拒否しようとするものであり,〈愛〉は〈貞節〉を無視しようとするものである.ただ,〈美〉への憧れに支えられたときだけ,〈愛〉と〈貞節〉は矛盾なく結びつく」
ことが示されています.
しかし,このアモール〈愛〉/〈愛欲〉,カスティタース〈貞節〉,プルクリトゥード〈美〉の関係は長くは続きません.
ボッティチェッリは,冷ややかな〈貞節〉を激しい〈愛〉の世界に引き入れようといういわば「恋愛指南」の形で,三美神を描いています.
そして,春のモティーフも古代のものをそのまま借りるのではなく自身の創意によるものでした.
Primavera (painting) - Wikipedia
〈愛〉/〈愛欲〉は,華やかなブローチをつけ,髪はなまめかしく,衣装は乱れ,挑発的な表情で〈貞節〉を見つめます.
〈貞節〉には飾りは描かれず,衣装も髪も慎ましく,表情は冷ややか.
〈美〉のブローチはそれほど大きくなく,〈愛〉と〈貞節〉を越えた遠くの世界を眺めている横顔は美しく端正で,手は〈愛〉〈貞節)と優雅に結ばれています.また,立つ位置はヴィーナスに最も近く,〈愛〉〈貞節)に対しての「優越性」が示されています.
顔を見合わせた〈愛〉と〈貞節〉は,腕を組み合い,歩み寄る動きから対立していることが分かります.
しかし,
・〈貞節〉の衣装の左の肩は半分脱げかけている.
・〈美〉と〈愛〉の組み合わされた手は〈貞節〉の頭上に掲げられている
ことから,〈貞節〉はいずれ〈愛〉の世界に導かれるという結果が暗示されています.
そして,キュービッドの燃える矢の先は,ぴたりと〈貞節〉に向けられています.
三美神が,いわば〈貞節〉に対する恋愛指導の意味を込めて描かれていることが分かります.
「春」については,多くの解説があります.
(例えば ボッティチェリ 「春 (プリマベーラ)」 解説)
ルネサンスという大きなうねりの中で,その時代の精神風土をめいっぱい受けながらも,自身の創造性を遺憾なく発揮したボッティチェッリ.
高梨秀爾氏の解説で,この絵の奥深さを改めて再認識できました.同時に,ルネサンスというムーブメントが,どのように形づくられたものかを垣間見ることができました.
フィレンツェに行って実物をぜひ見てみたいものです.