三密回避は日本のみで強調されてきた新形コロナ感染対策と言って過言ではありません.その重要性を改めて指摘した論文がBMJに掲載されました.この論文では旧来のphysical distancing中心の感染症対策は「時代遅れの科学」とまで言い切っています.「三密回避」を早い段階から広めた日本の感染症・公衆衛生専門家集団(旧専門家会議に結集した方々)の優秀さと意見集約/感染防御への適用の素早さに拍手!

新形コロナウイルス感染防止策として,日本では早い段階から「三密回避」が言われ続けていました.

 

しかし,「三密回避」は世界的なレベルで公認されたものではありませんでした.

例えば,マイクロ飛沫感染の可能性がWHOによって認められたのは,つい最近のこと.

この三密回避の重要性を改めて指摘した論文がBMJ旧名British Medical Journal イギリス医師会雑誌 https://doi.org/10.1136/bmj.m3223  )に掲載され,EARLの医学ツイート@EARL_Med_Tw が論文に掲載された表を翻訳してツイートしていました.

EARLの医学ツイート on Twitter: "感染伝播リスクについての定性的分類
BMJ 2020; 370: m3223(https://t.co/h5TPWYmUWn)より作成… "

論文では旧来のphysical distancing中心の感染症対策は「時代遅れの科学」とまで言い切っています.

(physical distancingは日本語の「社会的距離」=social distancingの訳語,と同じ意味.専門家はsocial distancingという言葉を使わなくなっています)

“EARLの医学ツイート”が掲載していた表(BMJ論文の表3を日本語訳したもの)をお借りして転載します.また,重要と思われる内容をDeepL無料版の助けを借りた拙訳で付け加えました.

なお,この論文は,最近の論文をピアレビューしたものです.

また日本では「三密」とphysical distancingは別々の事項のように扱われていますが,従来の2メートルの間隔を拡張した新しいphysical distancingとして三密の回避を訴える内容となっています.

 

論文の内容は日本に住む我々からすると,目新しいものとは思えません.

一方で,「三密回避」を早い段階から広めた日本の感染症・公衆衛生専門家集団(旧専門家会議に結集した方々)の優秀さと意見集約/感染防御への適用の素早さに拍手!

はっきりした科学的な結論に到るまでには,確固たるエビデンスの積み重ねが必要で,引用するBMJ誌論文も断定的な書き方は極力回避している印象です.素人から見ればまだるっこしい言い回しですが,科学論文とはそういうものでしょう.

しかし,公衆衛生の立場で目の前の脅威に向き合うとき,科学的エビデンスが確定するまで待つことはできません.

目の前のデータを読み解き,見通しを立て,決断することが必要でしょう.その点,日本の専門家集団は突出して優れていたといえるように思います.

 

 

2メートル?1メートル?:covid-19における物理的な距離のエビデンスは何でしょうか?

Two metres or one: what is the evidence for physical distancing in covid-19?

BMJ 2020; 370 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m3223 (Published 25 August 2020) Cite this as: BMJ 2020;370:m3223

 

キーメッセージ

現在の安全な身体的距離(physical distancing)のルールは,時代遅れの科学に基づいています.

ウイルスをもつ粒子の分布は,空気の流れを含む多くの要因に影響されます.

SARS-CoV-2 (新形コロナウイルス)は咳や叫び声などの活動によって 2m 以上移動するだろうことをエビデンスが示しています.

 

Key messages

Current rules on safe physical distancing are based on outdated science.

Distribution of viral particles is affected by numerous factors, including air flow.

Evidence suggests SARS-CoV-2 may travel more than 2 m through activities such as coughing and shouting.

https://doi.org/10.1136/bmj.m3223 

 

f:id:yachikusakusaki:20200902161154j:plain

https://twitter.com/EARL_Med_Tw/status/1299209939127205889


 

(図の留保事項等)

フェイスカバーリングとは,一般の人々のためのものであり,ハイグレードのマスクではありません.

グレードは定性的な相対リスクを示すものであり,定量的な指標ではありません.

感染リスクを考慮する際には,感染者のウイルス負荷や感染しやすい体質など,これらの表に記載されていない他の要因も考慮する必要があります.咳やくしゃみは,たとえこれらが無症状のときの刺激やアレルギーによるものであっても,換気にかかわらず,室内空間全体の曝露リスクを悪化させます.

 

図のリスクレベルは相対的なものであり,絶対的なものではありません.また,個人の感染しやすさ,感染者からの拡散レベル,室内の空気の流れのパターン,感染者との関係で人がどこに置かれているかなどの追加要因は含まれていません.湿度も重要かもしれませんが,これはまだ厳密には確立されていません.

様々なレベルで使用されている室内環境に合わせた具体的な解決策を練り上げるためには,さらなる研究が必要です.

 

Face covering refers to those for the general population and not high grade respirators. The grades are indicative of qualitative relative risk and do not represent a quantitative measure. Other factors not presented in these tables may also need to be taken into account when considering transmission risk, including viral load of an infected person and people’s susceptibility to infection. Coughing or sneezing, even if these are due to irritation or allergies while asymptomatic, would exacerbate risk of exposure across an indoor space, regardless of ventilation.

 

The levels of risk in fig 3 are relative not absolute, especially in relation to thresholds of time and occupancy, and they do not include additional factors such as individuals’ susceptibility to infection, shedding level from an infected person, indoor airflow patterns, and where someone is placed in relation to the infected person. Humidity may also be important, but this is yet to be rigorously established.

Further work is needed to extend our guide to develop specific solutions to classes of indoor environments occupied at various usage levels.