相模原の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され,26人が重軽傷を負った事件から26日で4年.重傷を負った尾野一矢さんは,この夏にも1人暮らしを始める.父親の剛志たかしさん「施設で暮らす多くの重度障害者の生活について,考えるきっかけになれば」.母親のチキ子さんは「精神的に落ち着いて,大人になってきた気がする」. 障害者団体要望「やまゆり園事件 利用者虐待の影響 県議会で究明して」 東京新聞

重傷を負った男性が踏み出す自立への一歩 相模原殺傷から4年

東京新聞 2020年7月25日

重傷を負った男性が踏み出す自立への一歩 相模原殺傷から4年:東京新聞 TOKYO Web

 

 相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され,26人が重軽傷を負った事件から26日で4年を迎える.

植松聖さとし死刑囚(30)に「意思疎通できない」と決めつけられて襲われ,重傷を負った尾野一矢さん(47)は,自立に向けてこの夏にも1人暮らしを始める予定だ.

刑事裁判が終わり,事件の風化への懸念が高まるが,父親の剛志たかしさん(76)は「施設で暮らす多くの重度障害者の生活について,考えるきっかけになれば」と願う(土屋晴康)

 

▽支援を受けながら1人暮らし始める

 「カレーパン食べる」.17日午後,神奈川県座間市のアパートで,一矢さんはそう言い,テーブルの上の好物に手を伸ばした.介護福祉士の大坪寧樹やすきさん(52)と近くのスーパーに行き,自ら選んで買ったパン.見守る大坪さんは「部屋にも慣れて,自分のペースで過ごしている感じがします」とほほ笑んだ.

 自閉症と重い知的障害のある一矢さんは,国の支援制度を使い24時間,訪問介護を受け,1人暮らしするつもりだ.部屋に慣れるために大坪さんと週1回ほど,今いる横浜市港南区の施設から座間市内のアパートに通い,食事や風呂など日常生活を体験して問題点がないか確認している.

 

▽父は思う「自由な生活が本当の幸せでは」

 一矢さんは23歳で津久井やまゆり園に入所し,20年以上にわたって施設で暮らしてきた.なじみの職員や入所者もいる.一矢さんが1人暮らしできるとは剛志さんは思っておらず,2021年度に完成予定の新施設に引き続き,預けるつもりでいた.

 しかし,介護を受けながら1人暮らしをする重度障害者に出会い,自分の意思で街を歩き,食事をする,その生き生きとした表情に驚いた.施設の集団生活では食べる物や寝る時間,すべてが決められている.介護者の支援を受けながら,自由に生活する.「平凡だけど,それが本当の幸せなんじゃないか」と思うようになった.

 

▽事件後に感じた息子の変化

 事件後,一矢さんに感じた変化も後押しになった.被害者家族の多くが匿名を望む中,剛志さんは実名で取材に応じてきた.家族と施設職員だけの人間関係だった一矢さんのもとに,報道機関の記者や福祉関係者らが次々と訪れた.

自閉症で対人関係を築くのが苦手だったが,最近では初対面の人にも自ら近づいていくなど打ち解けた様子を見せる.

母親のチキ子さん(78)は「精神的に落ち着いて,大人になってきた気がする」と目を細める.

 今後も施設からアパートに通う生活を続け,介護者らの許可が出れば,1人暮らしが始まる.剛志さんは「事件がなければ,やまゆり園が一矢の“ついのすみか”だった.施設を出て一矢が傷つくことがあるかもしれない.でも介護者と一緒に乗り越えて,自立してくれたら,年老いた私たち夫婦も安心できる」と見守っている.

f:id:yachikusakusaki:20200726180136j:plain

 

 

やまゆり園事件 利用者虐待の影響 県議会で究明して

東京新聞 2020年7月2日

やまゆり園事件 利用者虐待の影響 県議会で究明して:東京新聞 TOKYO Web

 「ともに生きる社会」を考える神奈川集会・実行委員会や「DPI日本会議」など六つの障害者団体は三十日,県庁で黒岩祐治知事と会い,相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で行われていた利用者への虐待が,二〇一六年の殺傷事件にどう影響したかを県議会の検討部会で検証するよう要望した.

 要望書では,県が設置した第三者委員会が五月に出した中間報告で終わりとせず,県議会が七月に設置する「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」で検証を続け,事件の背景や原因を究明するよう求めた.

 黒岩知事は「中間報告で検証が終わりとは考えていない.なぜ元職員が大事にしていたはずの利用者を虐殺したのか,(同園の)虐待の芽がどこにあったのか,逃げずにしっかり向き合いたい」と述べた.

 検討部会は県の第三者委のメンバー三人や障害当事者ら十人で構成.原則公開で,個人情報などがある場合のみ非公開.

津久井やまゆり園を運営する「かながわ共同会」への聞き取りも行う.同園以外の障害者施設の虐待も調査し,身体拘束によらない障害者支援のあり方などについて来年三月末に報告書にまとめる. (石原真樹)

 

 

やまゆり園で「長期にわたる虐待の疑い」 神奈川県検証委が中間報告

毎日新聞 2020年5月27日 

上東麻子

やまゆり園で「長期にわたる虐待の疑い」 神奈川県検証委が中間報告 - 毎日新聞

 

 入所者19人が殺害される事件が起きた相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」について,入所者への支援の実態を調査する神奈川県の検証委員会の中間報告が18日,公表された.

 

要件を満たさないままの身体拘束や,長時間の居室施錠などの実態を挙げ,長期にわたる「虐待」の疑いを指摘した.

事件を起こした植松聖死刑囚(30)への判決では,職員による入所者への不適切なふるまいなどが「重度障害者は不要な存在」と考えることにつながったと認定しており,園の支援のあり方が改めて注目される.

【上東麻子/統合デジタル取材センター】

 

判決でも「職員の利用者への暴力」指摘

 津久井やまゆり園は神奈川県立の施設で,社会福祉法人かながわ共同会が指定管理を受けて運営している.

事件当時の入所者は約150人.昨年11月以降,津久井やまゆり園で入所者に対して,不適切な支援が行われていたとの情報が県に寄せられたことから,県が園に対してモニタリングを実施.さらに専門家の調査が必要として,今年1月,検証委員会が設置され,検証作業が進められていた

 

 事件を起こした植松死刑囚の横浜地裁判決の「証拠上認められる前提事実」によると,植松死刑囚は,津久井やまゆり園に勤務し始めたころは障害者を「かわいい」と言うことがあった.

しかし,「職員が利用者に暴力を振るい,食事を与えるというよりも流し込むような感じで利用者を人として扱っていないように感じたことなどから,重度障害者は不幸であり,その家族や周囲も不幸にする不要な存在であると考えるようになった」などとしている.

 

「重大な人権侵害,認識を」

f:id:yachikusakusaki:20200726180200j:plain

 中間報告の指摘によると,障害者虐待防止法では「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は身体的虐待にあたり,身体拘束を行う場合は切迫性,非代替性,一時性の3要件すべてを満たす必要がある.

ところが,「園では3要件のうち一つでも該当すればよいと認識していた

 

▽24時間の居室施錠を長期間行うなど,一部の利用者を中心に虐待の疑いが極めて強い行為が,長期間にわたり行われていた

 

▽身体拘束を行う際に必要な手続きが不十分だった」とした.

 

 また,津久井やまゆり園は,特に対応が難しい「強度行動障害」がある人の支援を行う施設として位置付けられているが,なぜ行動障害が起きるのかを評価して,計画をつくり支援していく「『エビデンスに基づく支援』をしていることが確認できない」と指摘.

「組織として身体拘束が重大な人権侵害であることを認識し,自らの支援を常に見直し,検証していく体制づくりが求められる」とした.

 

運営法人,3要件守らなかった点認める

 県に対しては,「設置者としての役割意識が不十分であり,指定管理者に運営を任せきりにしてしまう傾向がある」とし,定期的に行うモニタリングでは「身体拘束を含む利用者の状況や支援の質などを積極的に把握し,改善しようとする姿勢が乏しかった」と指摘した.

 

かながわ共同会の草光純二理事長は,コメントを発表.

指摘全般に関して「事実確認と原因究明を行っている」とする一方で,身体拘束の3要件を厳守しなかったこと,ガバナンスが十分機能しなかったことについては認め,「再発防止に取り組む」などとした.

24時間の居室施錠については「食事,トイレ,入浴時には開錠していた」などと反論している.

 

神奈川県「利用者の支援,見てこなかった」

 高橋朋生・県障害サービス課長は,「これまでの施設へのモニタリングは事務的なことが中心で利用者の支援は見てこなかった.手法を見直して,指定管理者としてもっと関わっていかなければならないと思っている」と話している.

 

 検証委員会は今年1月から5回実施.委員長は弁護士の佐藤彰一国学院大学教授で,上智社会福祉専門学校特任教員の大塚晃氏,元毎日新聞論説委員野沢和弘氏が委員を務める.

2015~19年度の5年間の個人記録,会議録などを分析.新型コロナウイルス感染拡大の影響のため,予定していた園職員らのヒアリングは実施できていない.

7月以降,障害当事者,家族などを加えて,県障害者施策審議会の部会として改組し,検証の対象を県立の他の5障害者支援施設に広げ,県全体の福祉の支援の在り方を検討する予定.

 

三者とガバナンス見直すこと必要

 障害者虐待防止法に詳しい堀江まゆみ白梅学園大学教授(障害者心理学)は,報告書について「明らかな身体的虐待にあたる内容で,かながわ共同会は指摘を真摯(しんし)に受け止めて,地域での豊かな生活への支援ができるよう改善してほしい.

その際,第三者も加わった形で法人全体のガバナンスを見直すことが必要です.

県には,障害者虐待防止法の趣旨をしっかりと理解した上で,虐待が疑われるケースが起きた時は,速やかに対応できるように現場と連携して動ける体制づくりが求められます」と指摘する.

事件とのつながりについては,「背景にはこうした支援現場の問題があるはず.被害に遭われた方たちに報いるためにも福祉の現場を一つずつ改善していかなくてはならない」と話している.