新型コロナウイルスのパンデミックに対し,独自の路線をとるスウェーデン.必ずしもうまく対応できていないことに対し,様々な報道がなされ,日本でも話題に.
このブログでも毎日新聞の記事を引用させて頂きましたが,
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/05/10/015058
「集団免疫を獲得する戦略」をとったスウェーデンの新型コロナ対策
・「感染者や死者が増えているのに,医療体制が持ちこたえている」
・「80歳以上の患者や基礎疾患のある高齢者は『回復困難者』として集中治療の対象から外すガイドラインがある」
・「助かりそうな人を治療の対象とし,高齢の重症患者は緩和ケア」
・「強制的な都市封鎖をせず,国民に自粛を求める緩やかな対策を実施している点は同じだが,日本とスウェーデンの新型コロナ対策の内実は対極にあるといっていい」野澤和弘 毎日新聞 - yachikusakusaki's blog
今日は,比較的よくまとめられている東京新聞の記事を転載させて頂きます.
なお,その他にも,ざっと検索しただけでも以下のようなニュースがネット上に発信されています.
スウェーデンで高齢者の死亡者数が増えた背景-カロリンスカ大学病院泌尿器外科・宮川絢子氏に聞く◆Vol.2|医療維新 - m3.comの医療コラム
スウェーデンの新型コロナ対策から得るべき教訓とは | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
スウェーデン 死者4500人超に 責任者 対策不十分と認める | NHKニュース
スウェーデン、ロックダウンせず「多くの死者出た」 政府疫学者 - BBCニュース
国家と医療~新型コロナ対策 | 令和の幸福論 | 野澤和弘 | 毎日新聞「医療プレミア」
日本のコロナ死亡者が欧米より少ない理由、高齢者施設クラスターの実態 | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン
https://parstoday.com/ja/news/world-i60692
スウェーデンの対応策に対し,国外の報道はかなり批判的なものが多いように思いますが,多数の国民/医療関係者が依然として支持し,また“見すてられた”ように見える高齢者の中にも,”治療を拒否”した方もいるとする報道があります.
また,高福祉国家とされるスウェーデンですが,高齢者施設の現状には様々な問題があったようです.例えば,介護と医療との分断,介護施設スタッフの外注化---.
スウェーデンの「集団免疫」をとる戦略に注目が集まっていますが---
問題の本質は,『高齢者の介護をどのようにすすめるか,そしてその命をどのように考えるのか』に在るように思います.
高齢者の死亡率が高いことが分かっていた新型コロナ感染で,集団免疫を目指すことは,高齢者の死を容認することと等しいと思われるからです.
そしてこの問題は,スウェーデンのみならず,「高齢者施設での新型コロナ患者の死者が多い」欧米各国に共通する問題なのかもしれません.
また,命の選別という視点でみると,東京新聞に同日掲載された,「出生前診断」の推進(最下欄に掲載)とつながっています.
高齢者の介護のみならず,命そのものをどう考えるのか.議論するまでもないことのように思いますが,これが日本においても今後大きな問題となってくることは間違いないと思われます.すでに日本でも「人工呼吸器若者にゆずるカード」なるものを発案した医師がいるそうです(週刊朝日).
スウェーデン方式ほころび
コロナ対策で独自路線 集団免疫達成ほど遠く,GDP見通しも減,死亡率北欧で突出
東京新聞 2020年6月21日
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に対し,スウェーデンはあえて厳格な都市封鎖をせず,「集団免疫」の獲得を目指す独自路線を貫いてきた.
人口の六割以上が自然感染して抗体を得ることでウイルスに打ち勝つという世界でもまれな戦略だが,現時点で経済的メリットは少なく,死亡率は高い.「スウェーデン式」は失敗だったのか.
(ロンドン・沢田千秋)
▽わずかに成長
三月以降,欧州各都市が厳しい外出制限などを行う中,スウェーデンはレストランや商店の営業を続け,市民は買い物や外食を楽しんできた.政府は在宅勤務の奨励や高齢者への面会制限などで,感染は抑止できると踏んでいた.
効果は当初,表れたかに見えた.欧州統計局によると,今年一〜三月期の欧州連合(EU)の域内総生産(GDP)は前期比3.2%減.スウェーデンは0.1%増で,二十七カ国中,四カ国しかないプラス成長を記録した.
だが,その後は暗転.経済協力開発機構(OECD)の今月の経済見通しでは,今年のGDP伸び率は感染の第二波が来なかった場合でも6.7%減.封鎖の遅れで欧州最多の死者が出た英国や,フランス,イタリアなどのユーロ圏よりはましだが,米国並みに落ち込む見込みだ.
▽命の選別
GDP減は抑えられても犠牲は甚大だった.人口約一千万の国で死者数は五千人を超え,死亡率は北欧四カ国で突出.死者の九割は七十歳以上だった.
だが,保健当局によると,集中治療室に運んだ患者のうち七十歳以上は約22%,八十歳以上は3.5%のみ.
医療崩壊を防ぎたい政府は「高齢者をむやみに病院に連れて行かない」とのガイドライトを現場に通達していたのだ.「命の選別」だとの非難の声が上がった.
独自路線は,孤立という代償も招いた.
フィンランド,ノルウェー,デンマークは十五日から互いの旅行者の受け入れを再開したが,各国ともスウェーデンを除外.デンマークのフレデリクセン首相は「スウェーデンとは置かれた状況が違い過ぎる」と突き放した.
北欧観光が盛り上がる夏期休暇中に「スウェーデン飛ばし」が続けば,復興の大きな足かせとなる.
▽むごい実験
唯一の望みは集団免疫の獲得だが,政府発表では,首都ストックホルムの抗体保有率は7.3%.希望者を対象にした民間の検査でも14%で,人口の六割以上にはほど遠い.
感染症対策を主導する疫学者アンデシュ・デグネル博士は今月,地元ラジオに「私たちの方針に改善すべき点があったのは明らかだ」と認めた.
ただ,感染の第二波が訪れた場合,抗体保有率が比較的高いスウェーデン式が見直される可能性はゼロではない.同国のルンド大のピーター・ニルソン教授(疫学)は「高齢者の死亡率は高いが,第二,第三波の攻撃を抑え,経済の打撃も軽減できるだろう.数ヶ月に及ぶ厳格な封鎖は人々の精神へのダメージが大きく,実行すべきでない」と政府の戦略を支持する.
他方,同大のマーカス・カールソン上級講師(数学)は「文化や人口密度,気候が似た他の北欧諸国に十倍の人が死に,経済的利益もない.まったくの惨劇だ」と批判.
「集団免疫には五万人の死者が必要だろう.これはあまりにむごい実験だ」
東京新聞2020年6月21日
週刊朝日2020年6月12日号