オルペウス(オルフェウス)2 琴座の竪琴の持ち主オルペウスはアルゴナウタイの一員でもありました:"かれは竪琴で これらの樹々を魅惑し,ピエリアからはるかな岸辺へ導いた.このようなオルペウスを冒険の助力者に得るため,イアソンはケイロンの勧めに従って ピストニアのピエリアを治めていたかれを迎えた” "竪琴が乙女ら(セイレン)の歌を圧倒し, 西風と,艫から起こった高鳴る波が舟を進ませた” 『アルゴナウティカ』

琴座の琴=竪琴Lyreの持ち主とされるオルペウス(オルフェウス).

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6月中旬21時頃・4月下旬0時頃・3月中旬3時頃、東京近郊

星座図鑑・こと座

 

古代ギリシャの詩人ピンダロスは,

オルペウスを,'歌の父  the father of songs'と呼び,”ムーサイ(単数形はムーサ,英語ではmuse ミューズ)の一人カリオペーとオイアグロス(トラーキア王)の子” としています.

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Orpheus & the Beasts - Ancient Greco-Roman Mosaic

 

「歌によって木石を動かした」とされるオルペウスですが,アルゴー船に乗ったギリシャの英雄たち”アルゴナウタイ”の一員でもあります.

詩人ロドスのアポロニオスの英雄叙事詩『アルゴナウティカ』では,楽人であると共に予言者としての一面も描かれています.

 

”アルゴナウタイ” Argonautai

世界大百科事典

アルゴナウタイ(あるごなうたい)とは - コトバンク

 ギリシア神話で金羊毛を獲得するために英雄イアソンが企てた遠征に参加した一群の英雄の総称で〈アルゴ船の乗組員たち〉の意.

彼らにまつわる冒険譚が《アルゴナウティカ(アルゴナウタイ物語)》といわれ,ホメロスさえ周知の物語として言及する古い伝説で,ヘレニズム時代のロドスのアポロニオスの作品をはじめ,ほかに2編この表題の叙事詩が伝存する.

 

ウィキペディア 

アルゴナウタイ - アルゴー船の乗組員 - Weblio辞書

50名余のアルゴナウタイ一覧より抜粋(イアーソーンを除く)

 オルペウス Orpheus 竪琴の名手

 カストール Kastor 双子の兄弟"ディオスクーロイ”の一人

 ポリュデウケース Polydeukes  双子の兄弟"ディオスクーロイ”の一人

 リュウケウス Lynkeus "アパレーティダイ”の一人

 イーダウス Idas "アパレーティダイ”の一人

 ペーレウス Peleus アキレウスの父

 ヘーラクレース Herakles ゼウスの子 古今無双の英雄

 テーセウス Theseusミノタウロスを倒した英雄

 

『アルゴナウティカ』(アルゴ号の航海)

日本大百科全書

古代ギリシアの詩人「ロドスのアポロニオス(295-215BC)」による長編叙事詩(全四巻).

イオルコス王ペリアスの命に従い,黄金の羊皮を求めたイアソン(イアーソーン)を主人公とする.

イアソンはギリシアのおもな英雄たちとともに,アルゴ号(アルゴー船)に乗って黒海東岸のコルキスへ航海し,王女メディアに助けられて黄金の羊皮を手に入れた.帰途ダニューブ,ポー,ローヌ川を通り,イタリア,アフリカを経て,故郷へ戻った.

第3巻は恋するメディアの心理を生き生き描き出す.航海の物語は神話や歴史への言及に満ちているが,これは単なる考証ではなく,英雄時代のできごとを現実の世界に結び付ける役割を果たしている.

 

以下,

アポロニオス  アルゴナウティカ(岡道男訳) 講談社 世界文学全集より

オルペウス(オルフェウス)が登場する場面を幾つか引用してみます.

 

第一歌十八

 その船は昔から今なお伝わる詩人たちの歌によれば,

アテナの指示のもとにアルゴスが造ったという.

さてわたしは勇士らの生まれとその名を,

長い生みの道を,放浪の途中行われた冒険のすべてを

ここに語ろう.ムーサたちはわたしの歌を導いてくださるように!

 

 まずはじめにオルペウスの名をあげよう.伝えによればカリオペが

かつてトラキアの人オイアグロスと臥所(ふしど)を共にし

ピンプレイアの頂きの近くでかれを生んだという.

その歌の力をいまなお印す野樫の樹々は

トラキアの岸のゾネに生い茂り,

すき間なく列をそろえて行進する.かれは竪琴で

これらの樹々を魅惑し,ピエリアからはるかな岸辺へ導いた.

このようなオルペウスを冒険の助力者に得るため,

アイソンの子イアソンはケイロンの勧めに従って

ピストニアのピエリアを治めていたかれを迎えた.

 

 

第四歌 八九一

強い風が船を運んで行き,ほどなくかれらは

美しいアンテモエッサの島を認めた.そこにはアケロオスの娘,

澄んだ声のセイレンたちがいて,船を泊める者があると,

甘い歌声で魅惑して滅ぼした.

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セイレーン - Wikipedia

彼女らは,ムーサの一人,みめ美わしいテレプシコレが

アケロオスと共寝して生んだ者で,その昔デメテル

まだ嫁入り前の尊い娘(ペルセポネー)に仕え,

一緒に歌舞を舞った.だがこのとき,見たところ半ば鳥の,

半ば乙女の姿だった.

そして,良い舟泊りがある高みからたえず見張り,

たびたびあまたの者を焦がれ衰えさせて

かれらから楽しい帰国を奪った.彼女らは勇士立ちにもすき通る声をたえ間なく口から放った.かれらはすんでのことに

舟から岸にもやい網を投げるところだった,

もしオイアグロスの子,トラキア生まれのオルペウスがピストニアの竪琴の弦を自らの手で張り,軽快な曲の速い旋律をひびかせ,こうして

同時にかきならす弦の音でかれらの耳をとどろかせなかったなら.

竪琴が乙女らの歌を圧倒し,

西風と,艫(とも;船首)から起こった高鳴る波が舟を進ませた.

 

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