新型コロナウイルス死者が10万人を超えたアメリカ.大統領は“検査数が世界一”と誇っています.世界一の感染者を出している国の検査数が世界一になるのは当たり前で,世界一でなかったら大問題なのに.ただ,医師でも専門外だと誤解している人がいるようです.BUZZFEED NEWS "東京女子医大が全学生に新型コロナの陰性確認実施へ 「儀式としてのPCR検査は無意味」専門家が批判" はPCR検査を理解をするためにとても良い記事となっています.

アメリカでの新型コロナウイルスでの死者(確定数)が10万人を超えました.

BBC  2020年05月28日 アメリカの死者、10万人を超す 新型コロナウイルス - BBCニュース

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「抑え込んだ」はずが死者10万人 米国と新型ウイルス - BBCニュース

アメリカで死者10万人超える 世界全体の3割 新型コロナ | NHKニュース 

 

 

多数の死者を悼む言葉はほとんど伝えられてこないトランプ大統領

彼の言葉には,さらに驚かされます.

「私は(世界最多の感染者数を)名誉の印だと思っている.本当に、これは名誉の印だ.これは、ウイルス検査と,多くの専門家によるすべての労力に対する偉大な賛辞だ」

トランプ氏、世界最多の感染者数は「名誉の印」 検査を称賛 - BBCニュース

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“検査数が世界一”であることを誇っているのですね.

暗澹たる気持ちになります.

 

改めて説明するまでもないことですが----そんな気持ちにさせる理由は大まかに次の二点:

一つは,もちろんアメリカ大統領としての責任の問題.

 

ジャック・アタリ氏によれば

「私たちは,今,1929年(大恐慌)以降,最悪の危機に陥っており,2008年(金融危機)と比べても遙かに深刻です.世界経済の損失はGDPで20%に及ぶかもしれません.プラス1%とか,マイナス1%ではなく.

もちろん,これは,世界経済の最も重要な牽引力の一つであるアメリカが,ほとんど備えなしに,この危機的事態に突入していることと明らかに関係しています」

NHK ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界 〜海外の知性が語る展望〜」

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/05/27/000500

 

もう一つは,小さな点かもしれませんが,アメリカ大統領ともあろう人がPCR検査の意味を全く理解していない点.

 

様々な議論があるPCR検査数.

日本の検査数の少なさが国内外で批判されてきました.その理解は確かに難しいかもしれません.しかし時間をかければ私でも理解できます.

PCR検査は,感染が疑われる人に施される検査(⇒陽性なら隔離・治療に移行)”

ですから,世界一の感染者を出しているアメリカの検査数が世界一になるのは当たり前で,誇ることでは全くないのです.

もし,世界一にならなかったら大問題!

 

神戸大学岩田教授によれば 

「韓国と日本の検査数の違いが何度も議論されているが,意味のない議論だと私は思う.

検査は感染者数の反映だ.その逆ではない.

感染者が一気に激増した韓国では当然たくさんの検査を必要とした.日本ではそんな感染者の増加はない(執筆時点では).必要ない検査はしなくてよい.ただ,それだけだ.問題は,東京などで感染者の数が増えていることだ.増えているならば検査も当然増やさねばならぬ」

https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14366

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/04/13/205956

 

アメリカ大統領が理解せずに間違った解釈を垂れ流すのは大いに問題.

とはいえ,

確かにこのPCR検査の役割・意味を誤解している方々はまだまだ多いような気もします.

上述のBBCの記事にしても,書いた記者の理解度に?がつく内容でした.

 

そして,専門外の(=感染症・疫学に関わらない)医師にも誤解したままの方がいることが,ネット・テレビ・新聞の記事からも窺えます.

例えば,

BUZZFEED NEWSによれば,「東京女子医大の学長、医学部長、看護学部長、両学部の教務委員長」は,そのような医療関係者と言えそうです.

以下にBUZZFEED NEWSの記事の一部を引用します.PCR検査を理解をするためにとても良い記事!

 

 

BUZZFEED NEWS  2020年5月16日

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/inseikakunin-tokyojoshiidai

東京女子医大が全学生に新型コロナの陰性確認実施へ 「儀式としてのPCR検査は無意味」専門家が批判

 

東京女子医大新型コロナウイルスPCR検査を医学生看護学生に実施すると通知し,学生から反発が起きています.感染症の専門家も「医学的に無意味」と批判しています.

by Naoko Iwanaga

岩永直子 BuzzFeed News Editor, Japan

 

医学生看護学生を教育している東京女子医科大学(丸義朗学長)で,6月から授業を再開するための準備として,学生全員に登校前に新型コロナウイルスPCR検査を5月16,17日に行うことがわかった.

PCR検査の精度は高くなく,無症状の学生に検査をすれば,本当は陰性なのに陽性と出る「偽陽性」,本当は陽性なのに陰性と出る「偽陰性」の結果が出る可能性がある. 

日々,患者と接している医療者でさえ検査は受けておらず,PCR検査は「陰性確認」には向かないと考えるのが医療者の常識だ.

医学生の一人は,「今,もし陰性でも6月に陰性とは限らない.なぜ大学がこのようなことをするのかわからない」と不信感を抱く.

自身も大学で教える神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎さんは「儀式としてのPCR検査で意味がない.医学教育的にも逆効果です」と厳しく批判している.

 

「感染を回避する目的で」 学生全員に学内で検査

同大学では新型コロナの感染拡大防止のため,2月末から授業を停止し,学生や教職員を自宅待機とさせている.

大学が学生や保護者向けに最初の通知を出したのは5月11日のことだ.

学長,医学部長,看護学部長,両学部の教務委員長の連名で「6月登校にむけての準備のご案内」という件名の文書が学生のポータルサイトに公開された. 

それによると,「回復の兆しを受け,本学では6月以降の登校に向けての準備を開始することにいたしました」とした上で,こう告げている. 

    本学附属医療施設においては,院内感染を発生させないよう他施設より厳重な管理体制をひいていることを踏まえ,学生の登校にあたりましても学生間,学生・職員間,学生・患者間での感染を回避する意味で,全学生に対して登校前にCOVID-19のPCR検査を施行することにいたしました.

 

また,13日に出された詳細な資料には,「陰性確認と陽性者の早期対応」が目的として明記されている.

----中略

 

学生たちが反発「検査に意味があるのか?」「陽性となった場合の取り扱いは?」 

この突然の通知に対し,医学を学んだきた学生たちは疑問と反発の声を次々に上げた. 

PCR検査では陰性確認はできないのでは?」

「無症状の学生に検査して,一般診療の妨げにならないのか?」

「陽性の場合の扱いはどうなるのか?」

「なぜ自己負担なのか?」

 

クラス委員が質問をまとめて大学側に提出する学年もあったといい,現在も揉めているという.

BuzzFeed Japan Medicalの取材に答えた学生は,「そもそも今,学生は実家に帰るなどして日本中に散らばっているのに,緊急事態宣言が続く東京にわざわざ集めるリスクを考えているのでしょうか? 」と疑問を投げかける.

医学を学ぶだけあり,新型コロナの検査にも関心を持って調べてきた学生ばかりだ.

「精度の問題でそもそも陰性確認にはならないということがありますし,5月半ばに検査しても,その後,感染する可能性だってあります.陰性だったから大丈夫だとはならないはずです」 

さらに,検査なのに本人の同意を取らず,「進級や卒業を人質に不必要な検査を強制することは正当とは考えられない」と言う.

「学生が陽性だった場合,どういった取り扱いをされるかも明らかではありません.特に,コロナウイルス感染に対してはスティグマ(負のレッテル)となるため,検査をするかどうかは慎重に考えるべきです」

-----中略

 

感染症専門医たち「意味がない」

 

陰性確認のために医学生看護学生に検査をするということについて,感染症の専門家たちはどう考えるのか.

 

政府の専門家会議委員で川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは,

「陰性の結果は感染していないというお墨付きにはなりません.今の時点でウイルス量が少ないということしか言えません.医学部でどういう理論を持って決めたのか伺ってみたいですね」

と疑問を投げかける.

 

別の感染症指定医療機関感染症専門医も,陰性確認はできないし,5月に検査して陰性だとしても6月の陰性を保証しないと認めた上で,

「術前患者,入院患者よりもさらに意味がなさそうな気がします」と否定的だ.

厚生労働省は手術などで入院する患者に対して院内感染を防ぐための検査は保険を適用することを決めている.

 

自身も大学で医学生を教えている神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎さんは,「儀式としてのPCR」として実質的な意味はないとし,こう批判する.

「今,PCRをやっても,6月の未感染の保証はありません.また,本当に未感染確認を維持したければ,毎週,毎日,PCRをせねばなりません.そもそも,現在の東京だと無症状学生の事前確率(陽性になる確率)は1%未満です.よって,偽陽性のリスク(検査機関のミスを含め)のリスクのほうが増します」

そして,この決定をした大学側にも手厳しい.

「どうして,こんな基本的なことも医学部が理解できないのか.臨床医学,臨床診断学を理解しない執行部や教授陣がいること,彼らが意思決定をしているためでしょう」

 

その上で「医学的には意味がないけれども,儀式として,お祓い気分で検査する」という考え方もあるかもしれないとしながらも,「それも僕は許容できません」と否定する.なぜか?

PCR臨床検査技師さんの技術や努力に依存しているからです.無駄な検査を検査技師,放射線技師に課すのは医療倫理上許容できません」

岩田さんは日頃から学生や研修医に,こう教えているという.

「検査結果は自販機のようにボタンを押せば,商品が出てくるようなものではない.背後の技師さんの苦労,努力に報いるような意味,意義が検査結果が得られないのであれば,それは技師さんハラスメント,ギシハラだ」

「医師は彼らに命令(オーダー)する権利がある.だからこそ,その権利を乱用してギシハラをしてはならない.背後の技師さんにその検査の正当性をちゃんと説明できないのであれば,検査をオーダーする資格はない」

その上で,医学的に無意味な検査を医学を学ぶ学生にするデメリットをこう指摘する.

「無駄で無意味な検査が横行する大学病院で,『とりあえず検査』主義を脱するためにも,若い学生たちに間違った検査体験をもたせてはなりません」

 

東京女子医大「回答を控えさせていただきます」

 

BuzzFeed Japan Medicalは東京女子医大にも文書でこのPCRの意義を質す質問状をメールで送った.

同大学は,「この度のご質問については,回答を控えさせていただきます」として回答を拒否している.