4月終わりから5月にかけて.
鎌倉のお寺で,公園で,街で一番目につく花の一つはツツジです.
日本人に最も親しまれている植物の一つツツジ.
「日本には花の美しいヤマツツジやキシツツジ,モチツツジ,サツキなど17種ほどが自生」(NHK みんなの趣味の園芸)
https://museum.tokushima-ec.ed.jp/ogawa/kataru/tsutsuji/default.htm
庭木としての栽培の歴史も古く,園芸品種も数多く知られています.元禄時代の江戸では一大ブームがあり,また幕末には久留米藩で,いわゆるクルメツツジが作られました.クルメツツジと共に現在多く見られるヒラドツツジも江戸時代から改良が加えられてきた品種です.
「江戸時代中期に,‘本霧島’や‘白琉球’、‘大紫’など現在でも栽培される数多くの園芸品種が作出されました.また,クルメツツジは江戸末期に作出され,明治から大正にかけて多くの品種がつくられています」(NHK みんなの趣味の園芸)
「今日に残る園芸品種がつくられ始めたのは江戸時代初期のことです.
人気の引き金となったのは霧島山から出たとされる‘本霧島’.正保年間(1644〜48年)に薩摩から大坂へ伝わった1株が5本に増殖され,明暦2年(1656年),そのうち3本が江戸に運ばれました.
染井(現在の豊島区駒込付近)の植木屋伊藤伊兵衛三之丞(いとう・いへいさんのじょう)は自宅の庭にこの3銘木を飾り,「霧島屋」を名乗りました.三之丞は全国からさまざまなツツジを集め,元禄5年(1692年)には335品種を集成した『錦繍枕(きんしゅうまくら)』を刊行.そのなかで開花期の遅い品種を「さつき」として区分しました.現在では,江戸で発達した‘本霧島’に類似の品種を「江戸キリシマ」と総称しています.
このツツジブームは1700年には終わりますが,文化期(1804〜18年)には染井から大久保(現在の新宿区)に栽培の中心が移り,新名所として知られるようになりました.
一方,九州の久留米藩では天保時代(1830〜44年)から‘本霧島’などの実生によりクルメツツジが作出されましたが,当初は門外不出で,全国に普及したのは明治時代末期の1900年ごろからのことです」(NHK趣味の園芸 元禄期に大ブームを巻き起こしたツツジ | NHKテキストビュー)
「ヒラドツツジは,ラマツツジやモチツツジ,リュウキュウツツジなどが自然交配と実生を繰り返されてできた,大型のツツジ品種を指します.オオムラサキツツジもこの中に入ります.古くから植栽されてきた樹木で,主に長崎県の平戸で栽培されていたことが名前の由来と言われています」(ヒラドツツジ(Rhododendron spp.) | 植物図鑑 | 御勅使南公園)
「ヒラドツツジを語るとき,その歴史の古さも忘れてはなりません.1712年に編纂された「和漢三才図会」にヒラドツツジが登場しているからです」(http://www.ecomake.jp/column/yomoyama/chishiki192.html)
https://townweb.e-okayamacity.jp/hamahonmachi/KORAKUEN/TU/tsutsuji.html
私にはツツジの種類を見分けることが出来ませんが,なんとかヤマツツジだけは分かるようになりました.
語源には様々な説がありますが,どれも定説とはなっていません.
①ツヅキサキキ(続咲木)②ツヅリシゲル(綴茂)③タルルチチ(垂乳)から④手にツキツキてジッとつくところから⑤朝鮮語tchyok-tchyok/tchol-tchukから (日本語源大辞典)
漢字には,とても奇妙な字を当てています.
もともとは,テキチョクと読み,①足踏みをすること.②ためらうこと (日本国語大辞典).
なぜこの字が当てられるのかもよく分かっていないようで,一応「見る人の足を引きとめる美しさから」というのが,ネット上での見解(例えば ツツジ・躑躅(つつじ) - 語源由来辞典 )
しかし,
中国語ツツジは'杜鹃''杜鹃花'( ツツジの中国語訳 - 中国語辞書 - Weblio日中中日辞典 )で,シナレンゲツツジのみは,'羊躑躅'と表記.
“中国の「本草綱目」では、「羊躑躅」の名は、「羊がその葉を食へば躑躅して死ぬところから名づけたものだ」とする説を紹介している” https://kinomemocho.com/sanpo_Rhododendron.html
とのこと.
この記述は信頼出来るように思います.
レンゲツツジの表記から羊を除いた躑躅.これを全てのツツジに使ってしまったのが日本語ツツジの漢字表記.
これで全て合点がいきますね.
万葉集に詠われるツツジは,「丹ツツジ」「白つつじ」「岩ツツジ」など「つつじ」と単独では詠まれていません.(たのしい万葉集)
「つつじ花」は「さくら花」と組み合わせて使われる素敵な言葉.「にほう」の枕詞とされています.
つつじ花 (日本国語大辞典)
“ツツジの花のように美しい意で,「にほふ」にかかる.「にほふ」は花の色の美しいさまと,姿や顔の美しく輝いているさまをいう“
つつじ/万葉集
-----春さりゆかば,飛ぶ鳥の,早く来まさね ,龍田道(たつたぢ)の,岡辺の道に,丹(に)つつじの,にほはむ時の,桜花,咲きなむ時に,山たづの,迎へ参ゐ出む,君が来まさば
高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ) 巻六 0971
たのしい万葉集
春になったら飛ぶ鳥のように早くお帰りください.龍田の道の岡辺の道に真っ赤なつつじが咲き誇り,桜が咲くときに,お迎えに参ります.あなたがお帰りになったら.
山田卓三 万葉植物つれづれ
この歌では「丹つつじ」と赤いツツジを詠んでいます.
『万葉集』にはつつじを詠んだ歌が十種ありますが,赤いつつじとしているのは本首だけです.「岩つつじ」と表現されているものがありますが,これは河岸の岩場に生えるサツキツツジと思われます.丹ツツジはヤマツツジでしょう.
つつじは「におへるをとめ」とか「にほへる君」と言うように,その花を若くて美しい男女の象徴としてとらえています.
この歌の他にも,「つつじ花にほへをとめ,さくら花さかえをとめ」とツツジとサクラが並べられています.これからも,当時は両者が人の心を楽しませてくれる代表的な花であったことが窺われます.
物(もの)思(も)はず,道行く行くも,青山(あをやま)を,振り放(さ)け見れば,つつじ花,にほえ娘子(をとめ),桜花(さくらばな),栄え娘子(をとめ),汝(な)れをぞも,我れに寄すといふ,我れをぞも,汝(な)れに寄すといふ,汝(な)はいかに思ふや,---- 柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)歌集より 巻十三 3309
たのしい万葉集
物思いせずに道を歩いて,草木の繁った山を仰いで見ると,そこに咲いているツツジのようにきれいな君,桜のように美しい盛りの君.(花たちは)君が私に心を寄せているって言っているようです.私も君に心を寄せているっていっているようです.君はどう思う?
水(みな)伝ふ,磯(いそ)の浦(うら)みの,岩つつじ,もく咲く道を,またも見むかも
日並皇子宮舎人(ひなしみのみこのみやのとねり) 巻二 0185
たのしい万葉集
水が流れている岩に咲いているつつじが見えるこの道をまた見ることができるのだろうか.
日並皇子(ひなしみのみこ /草壁皇子)の死を悲しんで舎人(とねり)たちが作った歌の一つです.