国内の新型コロナウイルス感染症は,中国・武漢から持ち込まれた第一波の感染拡大はほぼ終息し,今は欧州で流行しているウイルス株を起源とする第二波が広がっているとする研究結果を,国立感染症研究所が発表した.「<新型コロナ>欧州ウイルス起源拡大 国内,第1波とゲノムに違い 国立感染研解析」東京新聞

<新型コロナ>欧州ウイルス起源拡大 国内,第1波とゲノムに違い 国立感染研解析

東京新聞 2020年4月29日 朝刊

 

 国内の新型コロナウイルス感染症は,中国・武漢から持ち込まれた第一波の感染拡大はほぼ終息し,今は欧州で流行しているウイルス株を起源とする第二波が広がっているとする研究結果を,国立感染症研究所が発表した.

感染者から採取したウイルスのゲノム(全遺伝情報)配列のわずかな違いを解析した.チームは,国内患者五百六十二人の検体を集めて調査.海外で登録されている四千五百十一人分のデータと比較した.

 

 中国・武漢で発生したウイルス株は,一~二月に日本に入り込み,各地でクラスター(感染者の集団)が報告されたが,既に封じ込めたとみられることが分かった.

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員から見つかったウイルスは,武漢のウイルス株と比べ一カ所だけゲノム配列が変異していた.国内には広がっていないという.

 

 一方で武漢株から変異し欧州で流行しているウイルス株が,三月中旬までに海外からの帰国者らが持ち込む形で国内に流入.大都市圏から地方に「感染ルート不明例」として拡散したとみられる.

 

 同研究所の黒田誠病原体ゲノム解析研究センター長は「第一波は保健所などの対応で抑え込めたものの,欧州経由の第二波が国内で大きく広がったようだ」と話している.

 

時系列に沿って動的に表示できるアプリケーションを提供しております。 国立感染研

https://gph.niid.go.jp/covid19/haplotype_networks

f:id:yachikusakusaki:20200429150928j:plain

新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査

    Published: 2020年4月27日

国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター

https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html

SARS-CoV-2のゲノム上にランダムに発生する変異箇所の足跡をトレースすることにより,感染リンクの過去を遡り積極的疫学調査を支援している.

中国発の第1波においては地域固有の感染クラスターが乱立して発生し,“中国,湖北省武漢” をキーワードに蓋然性の高い感染者を特定し,濃厚接触者をいち早く探知して抑え込むことができたと推測される.

しかしながら,緻密な疫学調査により収束へと導くことができていた矢先,3月中旬から全国各地で “感染リンク不明” の孤発例が同時多発で検出されはじめた.

このSARS-CoV-2 ハプロタイプ・ネットワーク図が示すように,渡航自粛が始まる3月中旬までに海外からの帰国者経由(海外旅行者,海外在留邦人)で “第2波” の流入を許し,数週間のうちに全国各地へ伝播して “渡航歴なし・リンク不明” の患者・無症状病原体保有者が増加したと推測される.

この海外旅行者を契機とした同時多発と3月中旬以降の行動制限への理解が不十分だったことを鑑みても,由来元が不明な新型コロナウイルスが密かに国内を侵食し,現在の感染拡大へ繋がったと考えられる.

 

本取り組みのように,ゲノム情報は配列指紋として利活用され,積極的疫学調査を科学的に支援することで総合的な公衆衛生対策の底上げを担っている.先進各国でも患者検体から新型コロナウイルスの全ゲノム解読を推進し,感染伝播の追跡と収束に役立てようとしている.現状,収束の見込みはあっても終息までにはさらなる研究開発が必須であり,時間を要すると思われる.

第3,第4の波が来ることは必然であり,今後,クラスター発生を最小限に留めるためにも迅速な情報公開と効果的な感染症対策の構築を図っていく.