新型コロナウィルスに対する備えがもっとも充実していた国の一つが韓国.対応が世界のメディアから賞賛されています.しかし,賞賛の蔭で忘れてならないのは,「住民登録証」を使った徹底的な監視.「スマホを買うのにもクレジットカードを作るのにも提示が必須で,買い物や通信,移動記録がひも付けられる」.国の備えが不足していた中,世界に類を余り見ないクラスター対策を行い,強権/強制や住民監視を最小限にしている「日本方式」の成功を改めて強く願います.

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている中,その対応が賞賛されている韓国.

第一波の感染拡大をほぼ封じ込めたように見えます.

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https://www.worldometers.info/coronavirus/

日本は,中国武漢発の第一波をほぼ封じ込めるかという時に,パンダミックを受けた第二波が襲ってきて,現在の「非常事態宣言」となっているというのが私の理解.

いろいろ批判はあれ,また,国の備えが不足していた中,世界に類を余り見ないクラスター対策を行い,強権/強制や住民監視を最小限にしている「日本方式」.第一波の押さえ込みにはほぼ成功しているのに,世界のメディアで賞賛されることはあまりないようです.

 

韓国が日本と際だって違うのは,検査数の多さ.日本の数字に世界から疑惑の目が注がれているのと対照的です.この検査数の多さに象徴されるように,過去にMERSの被害を受け,新型コロナウィルスに対する備えがもっとも充実していた国の一つが韓国と言えそうです.

 

しかし,賞賛の蔭で忘れてならないのは,「住民登録証」を使った徹底的な監視.

ニューズウィークの記事によればスマホを買うのにもクレジットカードを作るのにも提示が必須で,買い物や通信,移動記録がひも付けられる」.https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2020/04/2_1.php

「日本方式」が成功することを,今まで以上に心から祈りたくなります.

 

1週間以上も前の記事になりますが,韓国のコロナ対策の危うさ/凄さを知る上で役に立つと思われる記事二つを以下に引用します.

長さがずいぶん違う記事になりますが,一つは警鐘(東京新聞),一つは賞賛(ニューヨークタイムス/東洋経済)の記事.

 

 

コロナ対策で浮かび上がる「監視社会」韓国 個人情報をここまでさらしてよいのか

東京新聞 2020年3月31日朝刊「視点」

ソウル支局・相坂 穣

https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202004/CK2020040102100101.html

 「感染者は○○地区,○氏(○○歳・女).2月9日と16日に新天地教会の集会に参加した彼氏と会った」

 

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け,韓国南東部の慶尚北道亀尾市長が2月下旬にフェイスブックで公開した女性感染者の情報だ.○の部分は筆者が伏せたが,市は勤務先の大手メーカー事業所名まで明かしていた.

この女性は,集団感染の発生源として非難を受ける新興宗教の信者との交際まで公にされ,SNSに「家族も友人も傷ついた.身体より,心理面がきつい」と訴えた.

 

防犯カメラ800万台 住民登録証に情報ひも付け 

 

 韓国の保健当局が防疫のために公開する個人情報は,民主主義国としては異例の細かさだ.

カード使用や防犯カメラなどの記録から割り出した訪問施設などを本人らの同意なしに発信する.私のスマホにも行政から1日何回も近隣で感染者が現れたとの緊急メッセージが届く.

感染予防の参考にはなるが,自宅アパート,訪れた店や施設の実名などが詳しく書かれたものもあり,断片情報を集めて個人が特定されるのではとの懸念も浮かぶ.

 

 当局が感染者の動きを捕捉できるのは,16歳以上の国民全員が持つ「住民登録証」の存在が大きい.スマホを買うのにもクレジットカードを作るのにも提示が必須で,買い物や通信,移動記録がひも付けられるため犯罪捜査などにも利用されるといわれる.

国内の防犯カメラ設置数も800万台超とされ,密度ではITを駆使した監視社会で知られる中国をもしのぐ.

 

◆防疫効果は出ている 「感染防げればよい」?

 

 確かに防疫効果は低くない.

国内の感染者総数は1万人に迫っているとはいえ,3月上旬に1日800人を超えるペースで急増を続けた新たな感染者は,3月下旬に100人前後にまで落ち着いた.

韓国ギャラップが10日から12日に実施した世論調査でも,文在寅政権の感染対策に対する肯定評価は2週間前から17ポイント上昇して58%になった.

 

 欧州出身の留学生に「韓国は監視社会」とやゆされたことがあるというソウルの男子大学生(24)は,「カードやカメラで,コロナの感染を防げれば悪くない」と肯定的だ.

 

うつ病知られたくない…通院ためらう友人

 

 韓国の公衆衛生を「21世紀的なデジタル手段を駆使」と伝えた米ウォールストリート・ジャーナルの報道などを挙げて誇る文政権.ただ同紙は,人権意識の強い西欧で「プライバシー論争」が生じる可能性も指摘している.

ソウルに住む友人からは,もし感染して足取りが公開された場合,持病のうつ病を職場の同僚などに知られるリスクを考え,心療内科の受診をためらうという切実な告白を受けた.

 

 文政権は「世界一の透明性」で感染ペースを抑えていると自負するが,ここまで個人の信条の自由や交友関係をさらしてよいのだろうか.社会を挙げた防疫は大切だが,一人一人の心や暮らしへの配慮を忘れてはならない.

 

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世界で賞賛される「韓国」コロナ対策の凄み

行動制限を課すことなく増加曲線を抑制

The New York Times

2020/03/27

https://toyokeizai.net/articles/-/340150

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数字をどう見ても,1つの国が際立っている――韓国だ. 2月下旬と3月上旬,同国における新型コロナウイルスの感染者数は数十から数百人,数千人へと爆発的に増加した.

 

ピーク時には,医療従事者は2月29日の1日で909人の症例を特定し,人口5000万人の同国は打ちのめされる寸前のように見えた.しかし1週間弱経つと,新たな症例数は半減した.4日以内で,再び半減した――そしてその次の日も再び半減した.

 

封鎖政策も行われていない

 

韓国は22日,ほぼ1カ月の間で最少となる,わずか64人の新規感染者を発表した.他国では感染者数が1日ごとに数千人単位で増加し,医療システムや経済が壊滅的状況に追い込まれている中で,である.イタリアでは毎日数百人の死亡者を記録している.韓国は1日当たり8人を超えたことはない.

 

韓国は大規模なアウトブレイクが発生しながら,新規感染者数の増加曲線を抑えることができたわずか2国のうち,中国ではないほうの国である.そして韓国は中国のように言論や行動に厳しい制限を課すことなく,またヨーロッパやアメリカのように経済に打撃を与える封鎖政策を行わずに,それを成し遂げている.

 

ウイルスによる世界の死亡者数が1万5000人以上に膨らみ,世界中の役人や専門家は教訓を求めて韓国を徹底的に研究している.そしてそれらの教訓は,簡単にはほど遠いものの,比較的ストレートで経済的にも負担が少ないように見える――素早い行動,広範な検査体制と接触者追跡,そして国民の重大な支援である.

 

しかし強く打撃を受けたほかの国は韓国のような対策は打てなかった.その手法を見習おうと関心を示し始めた国もあるが,もはや早々に制御できない時点までエピデミックが加速してしまった後のことであった.

 

韓国の文在寅大統領の周辺によると,フランスのエマニュエル・マクロン大統領とスウェーデンのステファン・ロベーン首相は,韓国の対策の詳細を聞くために文大統領に電話をしてきたという.

 

世界保健機関の事務局長テドロス・アダノム・ゲブレイェソスは,ウイルスの封じ込めは難しいものの「可能である」ことを示したとして,韓国を称賛した.テドロス氏は各国に「韓国その他で得られた教訓を応用する」よう促した.

 

韓国の当局は,同国の成功は一時的なものであると警告する.再発のリスクは残されている.国境の外ではエピデミックが猛威を振るい続けているため,なおさらだ.

 

それでも,アメリカ食品医薬品局FDA)元長官のスコット・ゴットリーブはツイッターで「韓国は賢く精力的な公衆衛生によってCOVID-19が克服できることを示している」と書き,何度も韓国をモデルに掲げてきた.

 

教訓1:介入は早く,危機的状況になる前に

1月下旬に同国初の感染症例の診断が下ってからわずか1週間後,当局は製薬会社数社の代表者たちと面会した.当局は緊急承認を約束したうえで,大量生産のためのコロナウイルス用検査キットの開発に直ちに着手するよう促した.

 

韓国で確認された症例数は2桁にとどまっていたが,2週間以内に何千もの検査キットが発送された.同国は今では1日に10万キットを生産しており,当局によるとキットの輸出について17カ国の政府と協議中だという. 当局はまた,地元の教会から感染が素早く拡大した人口250万人の都市テグで迅速に緊急措置を施行した.

 

「主な感染源が教会の礼拝だったことが割と早い段階でわかっていたため,韓国は人の動きを制限することなく対処できた」と政府にコロナウイルス対応を助言する疫学者であるキ・モランは話す.「判明するのがもっと遅かったら,ずっとひどい状況になったかもしれない」.

 

韓国はまた,ヨーロッパやアメリカと異なり,2015年の中東呼吸器症候群(MERS)のアウトブレイクにより国内で38人の死亡者を出した経験を持つため,コロナウイルスを国家非常事態として扱う準備ができていた.

 

コロナウイルスは5日間の潜伏期間があると考えられており,多くの場合その後風邪と間違われるような軽度の症状が出現するが,その際にウイルスが非常に伝染しやすくなる.

 

このパターンにより,アウトブレイクが明白になるまで1,2週間のタイムラグが生じる.一握り程度に見えた患者数が実は数百人,数百人に見えたものが実は数千人ということもありうる.

 

「このウイルスのこのような性質により,閉鎖と隔離に重点を置く従来型の対応は非効果的となる」と韓国保健福祉部次官キム・ガンリプは語る.「(感染者数が)いったんある程度に達してしまうと,古いやり方では感染拡大の防止に効果はない」.

 

教訓2:検査は早く,頻繁に,安全に

韓国はほかのどの国よりもはるかに多くの人を検査してきた.そのため,多くの人を感染後すぐに隔離・治療することが可能となった. 同国では30万回以上の検査を実施し,1人当たりの検査率はアメリカの40倍となっている.

 

「検査は早期発見につながり,さらなる拡大を抑制し,またウイルス感染が判明した患者を早く治療することが可能となるため,中心的な位置づけとなるものだ」と,韓国の外務相カン・ギョンファはBBCに語り,検査は「わが国の非常に低い死亡率のカギでもある」と述べた.

 

韓国は時にエピデミックを回避できたように言われるが,数千人が感染しており,政府は当初,現状に甘んじているとのそしりを受けていた.政府の検査に対するアプローチは,すでに進行中のアウトブレイクを駆逐するように設計されていた.

 

病院やクリニックがキャパオーバーにならないよう,当局は可能な限り多くの人を,可能な限り早く検査できるよう設計された検査センターを600カ所開設した.医療従事者の安全を確保するために接触を最小限に抑える狙いもあった.

 

50カ所のドライブスルー検査施設では,患者は車に乗ったままで検査が受けられる.患者は質問票を渡され,遠隔体温スキャンと喉の検体採取を行う.このプロセスは10分程度かかる.検査結果は通常数時間で上がってくる.

 

いくつかのウォークイン型施設では,患者は透明な電話ボックスのような個室に入る.医療従事者は個室の壁に組み込まれた分厚いゴム手袋を使って喉の検体採取用の綿棒を手渡す.

 

公共メッセージが容赦なく発せられ,韓国人は自分や知人が症状を発症したら検査を受けるよう促される.海外からの訪問者は症状のセルフチェックを行わせるためのスマートフォンアプリのダウンロードが義務づけられている.

 

オフィスやホテル,その他の大きなビルではしばしば発熱している人を特定するためにサーモグラフィーカメラを使用している.多くのレストランでは来店客を受け入れる前に体温チェックを行っている.

 

教訓3:接触者追跡,隔離および監視

 

陽性反応を示す患者が出ると,医療従事者は患者の直近の動きを追跡して接触した可能性のある人を特定し,検査し,必要があれば隔離する.このプロセスは接触者追跡として知られている. これにより医療従事者は伝染の可能性のあるネットワークを早期に特定することができる.まるで外科医がガンを取り除くように,社会からウイルスをほり出すのだ.

 

韓国はMERSのアウトブレイク中に精力的な接触者追跡のためのツールとプラクティス(実践法)を開発した.保健関係の係員はセキュリティーカメラの映像やクレジットカードの記録,車や携帯電話のナビのデータまでも使用して患者の動きをたどるのである.

 

「私たちはまるで刑事のように疫学上の捜査を行った」とキは言う.「その後,伝染病危機の際には個人のプライバシーよりも社会の安全を優先するよう法律が改正された」.

 

コロナウイルスアウトブレイクが大きくなりすぎて患者を集中的に追跡するのが困難になると,当局はよりマスメッセージングに頼るようになった.

 

韓国人の携帯電話は居住地区で新規感染者が発見されるたびに緊急警報のバイブレーションが鳴る.ウェブサイトやアプリでは感染患者の1時間ごと,時には1分ごとの移動経路を表示する――どのバスに乗ったか,いつどこで乗り降りしたか,はたまたマスクを着用していたかどうかまで.

 

感染患者と経路が交わったと思う人は検査センターに届け出るよう促される. 韓国人はプライバシーの損失を,必要なトレードオフとして広く受け入れるようになった.

 

自主隔離命令を受けた人はもう1つアプリをダウンロードしなければならない.患者が隔離から抜け出した場合,当局に連絡が行くというアプリだ.違反した場合の罰金は最大2500ドルにもなる.

 

感染を早期に特定し治療すること,また軽度の症例は特別センターに分離することで,韓国は病院が最重症患者を受け入れられる状態を確保してきた.同国の症例死亡率は1%をわずかに超える程度で,世界でも最も低い国の1つである.

 

教訓4:公衆の助けを募る

 

医療従事者の数も足りず,全員を追跡できるだけの体温スキャナーもないため,市井の人々が協力しなくてはならない.

 

首脳陣の結論は,アウトブレイクの制圧には国民に対し完全な情報共有を続けること,そして国民の協力をお願いすることが必要ということだった,と保健福祉部次官のキム氏は話す.

 

テレビ放送,地下鉄の駅の告知,スマートフォンのアラートが,マスク着用の促進や社会的距離戦略,その日の感染データについて無限に注意喚起をしてくる.こうしたメッセージはまるで戦時中のような共通目的の感覚を植え付ける.

 

世論調査では大多数が政府の取り組みに賛同を示しており,人々は自信があり,パニックは少なく,買いだめもほとんど起こっていない.

 

「この公衆の信頼により非常に高い市民意識と自主的な協力姿勢が生まれ,私たちの集団的努力をさらに強いものにしている」と,外務省次官のイ・テホは今月初旬に記者団に語った.

 

当局はまた,同国の健康保険システムの功績を指摘する.ほとんどの治療を保証し,コロナウイルス関連のコストをカバーする特別なルールがあるため,無症状の人も検査を受ける意欲が高められる.

 

注目される韓国の成功について,その方法と封じ込めのためのツールは桁外れに複雑でも高価でもない.

 

同国が用いた技術のいくつかは,専用ゴム手袋や綿棒のようなシンプルなものだ.韓国よりもひどいアウトブレイクを経験している7カ国のうち,5カ国は韓国より豊かな国だ.

  

韓国モデル応用の3つのハードル

 

専門家たちは韓国モデルを応用するうえでの3つのハードルを指摘する.いずれもコストや技術とは関係ない.

 

1つは政治的意志だ.危機的水準のアウトブレイクなくして,厄介な対策を講じることをためらった政府は多い.

 

もう1つは公衆の意志である.韓国では多くのほかの国に比べて社会的信頼が高い.とくに分極化とポピュリズムによるしっぺ返しに悩まされる西洋民主主義国に比べれば.

 

しかし,最大の課題となるのは時間だ.すでにエピデミックが進行した国が韓国と同じように早くまたは効率的にアウトブレイクを制御するにはもう「遅すぎる」かもしれない,とキ氏は言う.

 

中国は,ほとんどのヨーロッパの国よりも大きい湖北省における初の破壊的なアウトブレイクを駆逐した.ただし,その経済を閉鎖するというコストが伴った.

 

ゴットリーブ元FDA長官はツイッターで「われわれは韓国のような結果が得られるチャンスはおそらく逃してしまっている」と書いたが,韓国の手法はアメリカでも役立つかもしれない.「イタリアで生じているような悲劇的な苦しみを回避するためのことはすべてやらなければならない」.