春の花3 ワスレナグサ 姿は可憐で愛らしい.つけられた名前(勿忘草/ワスレナグサ)が群を抜いてすばらしい.英語forget-me-notの訳.幾つかの種がワスレナグサと呼ばれていますが,本来 “true forget-me-not"(Myosotis scorpioides)がワスレナグサ.中国では「勿忘草」がエゾムラサキを意味しています.ヨーロッパ各国での名前もforget-me-notと同じ意味の訳語.日本でも何人かの詩人/歌人に歌われている花で,中でも北原白秋は特に好んでいたようです.

ワスレナグサの花が,日に日に多くなってきています.一緒に植えてあるチューリップが最盛期を過ぎつつある中---.

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ピンク,白などがある中,やはりブルーが好きです.咲く姿は可憐で愛らしい.

そして,花姿と相まって,つけられた名前!

漢字(勿忘草),訓(ワスレナグサ)とも,花々の中でも群を抜いてすばらしいように思います.

 

ワスレナグサは英語forget-me-notの訳.幾つかの種がワスレナグサと呼ばれているとのこと.

本来は,

「“true forget-me-not"=スコルピオイデス(Myosotis scorpioides)の和訳」がワスレナグサ(跡見群芳譜>外来植物譜 http://www.atomigunpofu.jp/ch6-foreign%20flowers/wasurenagusa.htm )

しかし,

ワスレナグサとして園芸的に親しまれている種類は、主にエゾムラサキ(M. sylvatica).

一部にエゾムラサキとアルペストリス(M. alpestris)との種間交雑種があります」NHK みんなの趣味の園芸 https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-376 )

 

三つの種とその雑種がワスレナグサと呼ばれているようですね.

M. scorpioides,M. sylvatica,M. alpestris

私が育てているのは “エゾムラサキ(M. sylvatica)とアルペストリス(M. alpestris)の種間交雑種?それとも,エゾムラサキそのもの?

始めから濃いブルーの花が咲く種です.

 

ワスレナグサの漢名が勿忘草.ただし,もともとは違う種を指していた.

一方,中国でも英語forget-me-notの翻訳から命名されていて,これが勿忘草.

しかし,日本のワスレナグサがもともと“true forget-me-not"=M.scorpioidesを指しているの対し,

中国では「 M.sylvatica/日本名エゾムラサキ を勿忘草(日本読み:ブツボウソウ,wuwangcao)という」(勿忘我草と書く場合もあるようです)とのこと.

(跡見群芳譜>外来植物譜 http://www.atomigunpofu.jp/ch6-foreign%20flowers/wasurenagusa.htm )

 

ワスレナグサ属にはたくさんの種類があって,「北半球の温帯・寒帯に約50種」.

NHK みんなの趣味の園芸 https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-376 )

 

シソ類・ムラサキ目

ムラサキ科ワスレナグサ属 Myosotis   

・M. alpestris ピレネー・アルプス・アペニン・イギリス原産

Myosotis scorpioides - Wikipedia

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・ノハラワスレナグサ(ノハラムラサキ) M. arvensis(E.Field forget-me-not) ヨーロッパ原産

・M. caespitosa(濕地勿忘草) アジア温帯・ヨーロッパ・北アメリカに分布

・ハマワスレナグサ M. discolor ヨーロッパ・西アジア原産

ワスレナグサ(シンワスレナグサ)  M. scorpioides(True forget-me-not)

Myosotis sylvatica - Wikipedia

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・エゾムラサキ(オカワスレナグサ)  M.sylvatica(勿忘草; Woodland forget-me-not) 

Myosotis sylvatica - Wikipedia

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” forget-me-not”

ワスレナグサ,勿忘草を生み出すもとになっている英語のforget-me-not.

 

英語の語源辞典では

forget-me-not | Origin and meaning of forget-me-not by Online Etymology Dictionary

(拙訳)1530年代英語に初出.フランス語古語ne m'oubliez myeの翻訳.その花は,身につけると恋人から永遠に忘れられないようにさせると思われていました.

1530s, translating Old French ne m'oubliez mye; in 15c. the flower was supposed to ensure that those wearing it should never be forgotten by their lovers.

 

ヨーロッパの中では,多くの国で同じ意味を持つ言葉に翻訳されて,ワスレナグサの名前とされています.

勿忘草(わすれなぐさ、ワスレナグサ

・イギリス フォゲットミーノット forget-me-not

・ドイツ フェアギスマインニッヒト Vergißmeinnicht

スウェーデン語  förgätmigej

ハンガリー語  nefelejcs

チェコ語  nezabudka

forget-me-not | Origin and meaning of forget-me-not by Online Etymology Dictionary

勿忘草(わすれなぐさ、ワスレナグサ) | BABEL 〜世界の言葉〜

 

この名前のもとになったとされる言い伝えがたくさん残されているそうですが,

英語,日本語にかかわらず勿忘草を解説しているサイトが共通して取り上げているストーリーがあります.

Medieval Germany tragety in meaning of forget-me-nots? Forget-me-not | The Flower Expert - Flowers Encyclopedia

その内容をもとにしたプラーテン(1796-1835)の詩:

「ドナウの川辺で若者が恋人のため珍しい花を摘みとったとたんに足をすべらし,川に落ち急流に流され,いまわの際に〈僕のことを忘れないで〉といった。残された少女は,若者の墓にその花を植え,彼の最期の言葉を花の名にしたという」(世界大百科辞典http://www.atomigunpofu.jp/ch6-foreign%20flowers/wasurenagusa.htm

 

もう一つの物語は,キリスト教の逸話.

https://flower-meanings.com/forget-me-not-flower-meaning/

(拙訳で)

神が全ての花を創造したとき,それぞれに名前を付け始めました.全ての花の名前を付けて立ち去ろうとしたとき,ちっぽけな小さな花が泣き始めて言いました.「私を忘れないで.神様」.神はちっぽけな花を振り返り言いました.「これをお前の名前としよう.そうすれば誰もお前を忘れないよ」

When he created all the flowers, he started to name each one of them. After God named all the flowers and was about to leave, one tiny little flower started to cry and said: “Forget me not, Lord!”. God looked back at the tiny plant and told: “This will be your name, so no one will ever forget you”.

 

日本では,

上田敏の訳詩,佐藤春夫の詩でワスレナグサが詠われていますが,

http://www.atomigunpofu.jp/ch6-foreign%20flowers/wasurenagusa.htm

忘れな草 - うたことば歳時記 

プラーテンの詩を下敷きにした北原白秋の和歌が多くのサイトに取り上げられています.

北原白秋(『桐の花』1913)

 仏蘭西のみやび少女がさしかざす勿忘草の空いろの花  

 

白秋はこの勿忘草を特に好んだ歌人/詩人のようで,その名前を冠した詩集を2冊も出しているようです.

 勿忘草(三木露風との共著 1912)

 わすれなぐさ(叙情小詩選 1915)

花姿だけではなく,わすれなぐさ/勿忘草という名前も好んでいたのではないでしょうか.

 

なお,後者叙情小詩選のはしがきが青空文庫に掲載されていました.

北原白秋 「わすれなぐさ」はしがき

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https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko03a/bunko03a_00281/