今後,診断されていない輸入感染者が続々と次の流行を生み出すものと思われます.それは1月から2月上旬に中国および中国帰りの渡航者を端緒として始まった流行の比ではありません. 1月から2月上旬は短距離ミサイルが5~10発命中した程度ですが,この3月のパンデミックの状況というのは空から次々と焼夷弾が降ってきているような状態です.そこで「火事を一つ一つ止めないといけない」というようなのが今の状態です.「助けてください」西浦博・北大教授

土記 do-ki 「首都封鎖は現実か」 青野由利

  毎日新聞 毎日新聞2020年3月28日 東京朝刊

https://mainichi.jp/articles/20200321/ddm/002/070/027000c

 

 「大変なことになりました」.英国の友人たちから連絡がきた.

 

 ジョンソン英首相は23日,全国民に向け緊急声明を発表.「非常にシンプルな指示」として「家にとどまってください」と訴えた.

 

 外出してもいいのは食料など限られた必需品の買い物.ランニングや散歩など1日1回の運動.医療のため.どうしても自宅でできない仕事のため.それ以外はすべて禁止.友だちにも,同居していない家族にも会ってはならない.

 

 人との接触を避ける「社会的距離」対策を徹底しないと,新型コロナウイルスの感染者がどんどん増え,医療が崩壊し,大量の犠牲者が出ると危機感をあらわにした.

 

 他の欧州諸国に続く措置ではあるが,私ががくぜんとしたのはあっという間の方針転換だ.

 

 これより10日ほど前,ジョンソン首相はずっと楽観的だった.「症状がある人は7日間家にいて」といった程度で,学校閉鎖もイベント自粛もなし.「対策が早過ぎると疲れが出るのでタイミングをはかる」だった.

 

 それがあれよあれよという間に学校は休校,パブや劇場は閉鎖,高齢者は12週間外出するな,となり,それでも追いつかず,事実上の全土封鎖となり,警察の出動まで対策に入った.

 

 当初の見通しが甘かった? 確かに英専門家チームが「このままだと国内で25万人死亡」との推計を出したことも影響しただろう.

 

 だが,突然,様相が変わるのがこの感染症の特徴であることは間違いない.

 

 先週のこの欄で懸念を述べた東京都(⇒**)では小池百合子知事がようやく今週,対応策を公表.25日には緊急記者会見で週末の外出自粛などを要請した.オリンピック延期で頭が切り替わった? 出遅れ感はあるが,今からでも的確に手を打ち続けなければ.

 

 欧米からの帰国者が流行の第2波を招き,経路不明の感染者の増加は見えないクラスター(感染者集団)の広がりを示唆する.状況は予断を許さない.

 

 そんな中,目にとまったのが北大の西浦博さんがウェブに寄稿した「助けてください」メッセージだ(⇒*).国のクラスター対策を担う理論疫学専門家の心配は,大規模イベントや密閉・密集空間での接触回避で大規模流行が防げるのに,市民の間で「解禁ムード」が広がってしまったこと.加えて中国からの比ではない大量の輸入感染者がこれから生み出す流行だ.

 

 西浦さんに限らず最前線で力を尽くす専門家を助けるには市民が行動を変えること.それが首都封鎖も防ぐはずだ.(専門編集委員

 

 

 

⇒*

西浦・北大教授「助けてほしい」解禁ムードを危惧

YAHOO!JAPAN ニュース 3/24(火) 10:30配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200324-00010000-mthree-soci&p=2

 

※政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」でクラスター対策の分析等を担当している,北海道大学大学院医学研究院教授の西浦博氏から「保健医療従事者向けのメッセージ」としてご寄稿いただいた記事を転載します.YAHOO!JAPAN ニュース

 

……………………………………

 今は2月よりも厳しく,今からこそイベント自粛とハイリスク空間を避ける声を保健医療の皆さんから届けていただけるよう,助けてください.

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行対策のメインストリームは「屋内の接触を断つこと」です.これまで,安倍首相から大規模イベントの自粛が要請され,新型コロナウイルス感染症対策専門家会議からは3条件(密閉空間,密集場所,密接場面)が揃う場所での屋内接触を自粛するように求めてきました.

 

 大規模イベントの中止は当初,科学的エビデンスや専門家会議の提言に基づくものではありませんでしたが,海外での宗教法人での伝播が知られており,また,日本では「さっぽろ雪まつり」での2次感染が疑われています.ある時,突然に2次感染者数が一気に増えたメガクラスターの形成,ひいては大規模流行の原因となることが危惧されます.フィットネスジム,ライブハウス,大人数での接待飲食など,屋内で3条件を満たすような場所での2次感染は実例として知見が蓄積されています.中国の都市封鎖と外出禁止令が湖北省を中心に著効したことが知られています.

 

 また,私も分析に協力させていただいている(座長指定の者である)3月19日の厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で方針を示しましたが,日本における国内感染は上記の大規模イベント自粛と行動自粛の実施中に,新規感染者の発生が減少に転じたことが知られています.この感染症は行動変容を伴う努力をもってすれば「制御できる」のです.

 

「解禁ムード」の広がりを大変危惧している

 

 しかし,3月19日に少しでも良いニュースが伝わり,小中学校などの休校が解除される方針が伝わったことで,市民の間で「解禁ムード」が広がってしまっていることを大変危惧しています.行動がいつも通りに戻ってしまうと,アメリカや欧州各国で見られるような爆発的な感染者数の増大が懸念されるためです.特に大規模イベントを流行地域で再開してひとたび大規模流行が発生すると,流行が制御不能になります.

 

 大きな流行が起こると,都市の封鎖を伴うことに加えて,皆さまの近しい方々も感染や命の危険にさらされてしまうのです.加えて,COVID-19は感染から発症まで平均5日程度,発症から診断されるまで平均7日程度とされており,無症候性の感染者も少なくないことから,感染者数の急激な増大にリアルタイムで気づくことができないのがこの感染症の難しさです.

 

空から次々と焼夷弾が降ってきているような状態

 

 今,海外で流行が増大しているため,状況は1月以降,これまでの2カ月半よりも厳しい状態にあります.ヨーロッパ,米国,東南アジア,中東などから,続々と感染者が訪れています.上記のように国内伝播を一旦制御に近くできたために,最近報告される感染者数の結構な割合を輸入感染者が占めるようになってきました.外国籍の方の入国は一部止まりつつありますが,米国は続いていますし,邦人の帰国には備えなければなりません.報告された輸入感染者は氷山の一角であり,今後,診断されていない輸入感染者が続々と次の流行を生み出すものと思われます.

 

 それは1月から2月上旬に中国および中国帰りの渡航者を端緒として始まった流行の比ではありません.非常識を承知で分かりやすいようにミサイルで例えると,1月から2月上旬は短距離ミサイルが5~10発命中した程度ですが,この3月のパンデミックの状況というのは空から次々と焼夷弾が降ってきているような状態です.そこで「火事を一つ一つ止めないといけない」というようなのが今の状態です.

 

 このことを少なくとも全国の保健医療関係者にご理解いただけないままでは,今後,大規模流行が起こるリスクが高いことを,私は危惧しています.現状では,市民の皆さまがそこまでの危機意識をもってこの流行に対峙したり,一人一人の行動を考えていないものと思います.過度の行動制限や都市封鎖などで見込まれる経済的ダメージが起こらないように,50人以上の大規模イベントへの参加をやめ,2次感染が何度か発生した3条件の重なる場所(例えばスポーツジム,ライブハウス,展示商談会,接待飲食など)およびその他の機会(懇親会など)の接触を控えることができないといけません.

 

全国の保健医療従事者へ「助けてください」

 

 ぜひとも全国の保健医療従事者の皆さまにまずこのことを知っていただき,皆さんが知識の伝道者となっていただかなければなりません.

 

 今,頑張って皆で行動を変えることができれば切り抜けられる可能性が高いです.皆さんの力が必要です.お願いします,助けてください.

 

 

 

⇒**

土記 do-ki

東京の感染,見えている?=青野由利

毎日新聞2020年3月21日 東京朝刊 <do-ki>

 

 新型コロナウイルスの今後の感染拡大がもっとも気になるのはどこか.この3連休は大阪と兵庫が注目かもしれないが,個人的にはやっぱり東京だ.

 

 これだけの人口密集地で,これだけの巨大な経済活動が営まれている.ひとたび感染爆発が起きたら手がつけられないだろう.

 

 ところが,その割に危機感が薄く感じられるのはなぜだろう.

 

 東京都の発表によると3月20日朝の時点で感染者の累計は,チャーター便やクルーズ船関係を除いて118人.検査実施人数は1848人.検査した人の約6%が感染者だったことになるが,これでは実態はよくわからない.

 

 気になるデータは他にある.

 

 ひとつは新たな感染者の数だ.グラフを見ると,増減のでこぼこはあるものの,感染者は増加傾向にある.

 

 もうひとつ重要なのは,誰から感染したかわからない人が増加していることだ.

 

 今週,政府の専門家会議がまとめた新たな分析・提言によると,こうしたリンクの追えない感染者が増えている地域が都市部を中心に散発している.中でも東京は,そうした感染者の数も増加も目立っている.

 

 リンクが追えない感染者の増加は,その背景に見えない感染クラスターがある可能性を示している.感染爆発のリスク因子だ.

 

 このままいくと,大都市圏で突然,爆発的な患者の急増が起きてしまうと,専門家会議は危機感を抱いている.イタリアやスペイン,フランスなどの感染爆発の仕方をみると,杞憂(きゆう)とは思えない.

 

 では東京都の対応は? 都の感染症対策課に聞くと拍子抜けする.たとえばリンクの追えない感染者数は独自に集計していないので即答できないという.

 

 どういう場所で感染したか,どの感染者同士がつながっているかといった,感染リスクを知るのに重要な情報も,屋形船の集団感染以降,積極的に公開していない.

 

 大阪府新潟市などがライブハウスや卓球スクール,スポーツジムなどでの集団感染を早くから公開し,感染拡大を防ごうとしているのと対照的だ.

 

 専門家会議は感染者が増えた時に検査が陽性でも軽症なら自宅療養といった医療体制についても提言している.都は協議会で検討するというが,協議会そのものがまだ設置されていないというから,間に合うの?と不安になる.

 

 世界の都市が新型コロナに屈する中で,東京が持ちこたえるために今すべきことは何か.まさに瀬戸際だと思う.(専門編集委員

 

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銀座や六本木,高級クラブで「夜の街クラスター」発生か

読売新聞オンライン 2020/03/27 17:30

https://www.yomiuri.co.jp/national/20200327-OYT1T50153/

 専門家で組織する厚生労働省クラスター(感染集団)対策班は,新型コロナウイルスの感染者が急増している東京都で,夜間を中心に営業する飲食店などで感染が広がっている可能性が高いとの見方を強めている.

 

 都は,人混みへの不要不急の外出自粛を要請し,飲食店などに行くことを念頭に,夜間外出を控えるよう呼びかけた.関係者によると,複数の感染者が銀座や六本木の高級クラブなどを利用していたことが調査で判明した.クラスター対策班は,こうした場でクラスターが形成された可能性があるとみて分析を進めている.都内にはこのほか,新宿や渋谷といった繁華街が多くある.

 

 政府の専門家会議は19日に公表した提言の中で,「密閉空間」「人の密集」「近距離の会話」の3条件がそろう場を避けるよう求めた.近距離の会話を伴う接客業の店について,専門家会議メンバーの押谷仁・東北大教授は「人が密集していなくても,1人の従業員が近距離で多数の客に次々に接客するような場合は,クラスターが発生しやすい」と指摘する.

 

 

東京都内で新たに63人感染 過去最多

毎日新聞2020年3月28日 16時30分(最終更新 3月28日 16時58分)

https://mainichi.jp/articles/20200328/k00/00m/040/095000c

 東京都内で28日,新型コロナウイルスの感染者が新たに63人確認されたことが関係者への取材で明らかになった.都内で1日に確認された感染者数としては最多となる.これまでに患者ら40人の感染が確認されている「永寿総合病院(台東区)」の感染者が半数程度を占めるという.

 

 都内の感染者数は25日からの3日間は40人台で推移し,最多は26日の47人だった.