「ウィルスとの戦いは,年をまたいで続くと思わなくてはならない」「何でも自粛というのはよくない.地域的な強弱をつけることも含めて,考えていくことになるだろう」日本感染症学会・舘田理事長 東京新聞 // 「政治家などリーダーたちは,科学的な見解を踏まえて冷静沈着に行動してほしい」川崎市健康安全研究所・岡部信彦所長 毎日新聞 // 80%の人が軽症で済んでいる.情報は容易に得られる.不安が根強いのは,政府からの正しい情報の不足,行政対応のまずさにある.毎日新聞 田中泰義

<新型コロナ>ウイルスとの戦い 1年超える 日本感染症学会・舘田理事長に聞く

東京新聞 2020年3月13日朝刊

 

 新型コロナウイルスの政府専門家会議メンバーである日本感染症学会の舘田一博理事長が,本紙の取材に「(感染防止を理由に)何でも自粛というのはよくない」と指摘し,一斉休校やイベント自粛の効果が表れるとされる19日以降は,地域によって自粛方針の見直しも可能との見方を示した.同時に「ウイルスとの戦い」は1年以上続くとして,対策の長期化は避けられないと強調した. (森耕一)

 

 —自粛要請が十九日ごろまで延長された.いつまで続くのか.

 「対策の効果が十九日くらいになるとわかること.そこで対策をやめていいわけではない.

ウィルスとの戦いは,年をまたいで続くと思わなくてはならない.恐らくそうなる

 「インフルエンザとは性質が違い,冬が過ぎると感染が終わるわけではない.

他のコロナウィルスは夏でも風邪の原因となる.新型コロナだけが特別と考える理由はない」

 

 —安倍晋三首相は,専門家の意見を聞かずに小中学校の一斉休校を要請した.自粛ムードは経済に深刻な影響を与えている.

 「確かに子どもの感染数は多くないが,一斉休校にするインパクトは大きかった.政府は真剣だというメッセージが伝われば,市民も感染しない,させない行動を取ろうと考える.

ただし,何でも自粛というのはよくない.十九日以降は感染が少ない地域の制限を弱めるなど,地域的な強弱をつけることも含めて,考えていくことになるだろう」

 「学校もいつまでも休みにする必要はない.換気,一定時間ごとの手洗い,あまり騒ぐことをしないなど,正しい準備と啓発をすればいい.

戦いは一年続くのだから,全て自粛となれば五輪もできない.せきエチケットを守り,声援はやめて拍手する静かな応援をやってもいい」

 

 —感染の流行はこれからどうなっていくのか.

 「専門家会議でも,今後のことは意見が分かれた.イタリアのように拡大するという人もいれば,このまま収まるという意見もあった.

重症急性呼吸器症候群SARS)の場合は,感染すると高い確率で発症し,死亡率も高かったため,患者の隔離ができた.

今回は無症状や症状が弱い人が多く,水面下でウィルスが広がっている可能性がある」

 「数年かけてある程度感染が広がり,抗体を持つ人が増えて普通の風邪になっていくかもしれないし,SARSのように封じ込めてウィルスを消せるかもしれない.

ただ,一度感染が終わっても,海外で感染が続いていれば再び感染が広がる恐れはある.

せきエチケット,手洗いを,日本の文化にしていかないといけない」

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慎重一転「パンデミック」 WHO「後手」批判避け 新型コロナ

国内 長期戦前提で対策

毎日新聞2020年3月12日朝刊

https://mainichi.jp/articles/20200312/k00/00m/040/360000c

 「具体的な対応が変わるわけではない」.厚生労働省の幹部はこう述べ,新型コロナウイルスの感染拡大防止に力点を置いた日本国内の対策が基本的に従来と変わらないとの立場を示した.

いつ世界的流行が収まるのか先が見通せない中,長期戦を前提にした態勢の構築が求められる.

 

 2009年にWHOがパンデミックを宣言した新型インフルエンザを巡っては,季節性インフルエンザとして世界に定着してしまった.

新型コロナウイルスも風邪症状と同様の軽症が8割を占めるため発見が難しく,閉鎖空間では1人から十数人以上に感染させることがあり,各国とも手を焼いている.

 

 一方,台湾のように早い時期から強い警戒態勢を取って感染拡大を抑えられている国や地域もある.

日本も政府専門家会議が「爆発的に感染拡大せず何とか持ちこたえている」と評価する段階にある.重症化しやすい高齢者や基礎疾患のある人に感染を広げないよう,患者を急増させない対策が引き続き求められる.

 

 一方,国内の態勢を強めても,世界的流行下では海外からウイルスが持ち込まれるケースは続くとみられ,そこから再流行する恐れがある.

専門家会議の尾身茂副座長は9日の記者会見で「鎖国すれば別だが,小さな山が長く続く」と述べた.

 

 国内では「ここ1,2週間が瀬戸際」と専門家会議が2月24日に見解を示し,その後,学校の休校やイベントの自粛が続いている.

今後は治療薬やワクチンが開発されるまでを視野に入れた息の長い取り組みが必要となる.

日本感染症学会の舘田一博理事長は「数カ月から半年,年を越えて闘い続けなければならない」と語る.人が密集した場所や換気の悪い密閉空間を避けるなどの予防策を取りつつ,学校生活や企業活動とのバランスを取る取り組みが求められる.

 

 WHOのパンデミック宣言について,安倍晋三首相は12日,「世界的な感染の広がりが続いていることへの判断だ」と記者団に述べ,これまで以上に国際社会との協力態勢を強化する意気込みを語った.

 

 感染症に詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は

「致死率10%の重症急性呼吸器症候群SARS)ほど病原性は強くなく,政治家などリーダーたちは,科学的な見解を踏まえて冷静沈着に行動してほしい.医療態勢が脆弱(ぜいじゃく)な途上国への対策強化も促しているとみられ,日本の知見なども海外で生かしてほしい」と求めた.【熊谷豪】

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新型コロナ WHO「パンデミック」 政府,適切な発信を=くらし医療部長・田中泰義

毎日新聞2020年3月13日 東京朝刊

https://mainichi.jp/articles/20200313/ddm/041/040/113000c

 

 「村の住民が次々と死んでいく恐怖は忘れられない」.私が1998~99年,米アラスカ州で暮らしていたときに出会った先住民の長老の言葉である.20世紀前半,州は正体不明の病気に襲われた.原因は,結核とインフルエンザという感染症だった.白人に持ち込まれ,先住民に大きな打撃を与えた.現代と違い,情報量は極めて乏しい.長老は「見えない敵だけに,右往左往するしかなかった」と振り返った.

 

 今,世界は新型コロナウイルスという新たな敵に直面している.感染者は100カ国・地域以上の約12万人に上った.株価は乱高下し,イベントの延期や中止が相次ぐ.電車内でせきをすると,周囲の視線が一斉に向けられる.

世界保健機関(WHO)は,世界的な流行を意味する「パンデミック」の状態にあると表明し,警鐘を鳴らした.

 

 だが,冷静に考えたい.

確かにワクチンや治療薬はなく,年齢や地域によっては致死率は高いが,新型コロナウイルスに感染しても80%の人が軽症で済んでいる.

当時のアラスカと異なり,情報は容易に得られる.

にもかかわらず,不安が根強いのは,政府からの正しい情報の不足,行政対応のまずさにある.

 

 例えば,感染の有無を調べるウイルス検査だ.医師が必要と判断しても依頼を断る保健所があった.「薬が足りなくなる」といったクルーズ船乗客の訴えに迅速対応できなかった.全国一斉休校は科学的根拠が明確に示されず,理解する国民はいても「非公開の情報があるのではないか」と勘ぐられた.結果的に人々はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通したデマに振り回される.

 

 近年では重症急性呼吸器症候群(SARS)などがある.幸い,日本は深刻な事態を逃れてきたが,地球規模で人とモノが移動している状況では,いったんどこかの国で流行すれば日本で猛威をふるうリスクはますます高まる.米国に比べて手薄とされる感染症対策の体制強化と十分な情報開示,テレワークの導入などライフスタイルの転換を含めた早急な対応が求められる.