全国障害者問題研究会は二日,政府による全国の小中高などへの休校要請について「障害のある子と家族に深刻な問題をもたらす」として,撤回を求める声明を出した.声明は「全国一律の休校要請は,科学的根拠と十分な検討のない施策」と批判.障害のある子にとって,生活リズムの乱れなどによる行動の不安定化の懸念がある.地域の障害者福祉サービスなどは,現状から学校以上のリスクがある.保護者の就労と所得の保障,職員の体制確保への対応を求めている.東京新聞2020年3月3日夕刊D版

障害者団体 休校の撤回要請

「子と家庭に深刻な問題」

東京新聞2020年(令和2年)3月3日(火曜日)夕刊D版

 

 新型コロナウイルスの感染拡大を巡り,全国障害者問題研究会(東京都新宿区)は二日,政府による全国の小中高などへの休校要請について「障害のある子と家族に深刻な問題をもたらす」として,撤回を求める声明を出した.

 声明は「全国一律の休校要請は,科学的根拠と十分な検討のない施策」と批判.

障害のある子にとって,生活リズムの乱れなどによる行動の不安定化の懸念があるとして柔軟な支援策を求めた.

 さらに,政府が休校の代替措置とする地域の障害者福祉サービスなどについて,職員不足や経営難にあえいでいる上,狭い場所での活動を余儀なくされている現状から学校以上のリスクがあると指摘.

保護者の就労と所得の保障のほか,入所施設からの通学児が日中も施設にとどまることを受けて,職員の体制確保への対応を求めている.

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緊急声明 

障害のある子どもと家族の健康と生活を守るために 一律の休校要請は撤回を

2020年3月2日 

全国障害者問題研究会常任全国委員会

http://www.nginet.or.jp/

 

  安倍首相が2月27日の夕刻に突如表明した小学校,中学校,高等学校,特別支援学校(以下では学校)への「3月2日から春休みまで」の休校要請は大きな混乱を引き起こしています.

 私たちは,

①子どものなかでの集団感染の事例は現在のところ顕在化せず,むしろ大人から子どもへの家庭内の感染が主であること,また重症化する事例は大人よりも少ないとされること,(⇒*)

②長期休校に伴って生じるさまざまな問題への対応策を検討しないまま,拙速に3週間にも及ぶ休校を強要したこと,

③いまだ感染者,子どもの感染者が確認されていない自治体などにも全国一律の休校を求めたことなど,

科学的根拠と十分な検討のない施策であることに強い懸念を表明するとともに,(⇒**)

その施策が,学校設置者はもとより,文部科学省厚生労働省など関連省庁との合意形成すら行われないまま,首相とその周辺のきわめて限られたメンバーの独断に基づいて,事実上強行されたことに対して強く抗議します.

 

 そして,障害のある子ども,障害のある人の尊厳,基本的人権,発達の保障を目的とする研究運動団体として,今回の休校要請が,障害のある子どもとその家族に対し,以下のような深刻な問題をもたらすことを指摘し,首相による一律の休校要請は,速やかに撤回することを求めます.

また,学校の機能を生かす方向で,子どもへの感染を予防することと同時に,障害のある子どもと家族の健康と生活を守る方途を,国民的な英知の結集と議論によって検討していくことを呼びかけます.

 

1)安倍首相による今回の学校への休校要請,また2月29日の記者会見では,特別支援学校,特別支援学級そして通常学級に在籍する障害のある子どもの実態,家族を含む生活の実態には,まったく考慮が払われていません.

 障害のある子どもたちとその家族の,家庭や地域での生活には,特別な困難があります.通学ができないことによる生活リズムの乱れ,生き生きした活動や集団が保障されない生活のなかでの行動の不安定化などは容易に想定されることです.病気にかかりやすく治りにくい子どもたちのいのちと健康を守るためにも,教育と医療の専門的な知見をふまえた継続的な対応が欠かせません.

政府・文部科学省ならびに各自治体は,学校や教育委員会が子どもや家族の実態をふまえた対策を主体的に検討し,柔軟に対応できるような支援策を速やかに講じるべきです.

 

2)文部科学省は「福祉部局や福祉事業所との連携」「地域の障害福祉サービス等の活用」による「幼児児童生徒の居場所の確保」を,また厚生労働省は,休校への代替措置として「地域の障害福祉サービス」や「放課後等デイサービス」の利用を通知していますが,現状でも充分ではない報酬のもとで職員不足や経営困難にあえいでいます.

放課後児童健全育成事業(学童保育)には午前中からの開所に対して1万円余の加算をするとのことですが,これでは十分な体制を確保できないのはすでに明らかです.

 また狭い場所での活動を余儀なくされているこういった「サービス」のもとで,学校以上に感染のリスクが高まることも想定されます.

 

3)障害のある子どもの保護者も,限られた条件のもとで就労し,生活を支えています.そういった薄氷のうえでの就労が,いっそう困難なものになります.

就労が継続できる条件や所得の保障が十分に配慮されるべきです.

 

4)障害や生活の困難によって施設に入所し,そこから通学する障害のある子どもも少なくありません.

その日中の活動が施設に限られることによって,施設の職員体制の確保や活動の保障は困難を極めます.そのことへの対応が早急になされるべきです.

 

⇒*

 

新型コロナウィルス 

WHO=世界保健機関などの専門家チームが行った共同調査の報告書より

(2月20日までに中国で感染が確認された5万5924人のデータについて分析)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200229/k10012308111000.html

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/03/01/122816

 ☆子ども

  症状は比較的軽い,重症化する人はごくわずか

  感染例は少ない:19歳未満の感染者は全体の2.4%

  (子どもが感染しにくいのかどうかは,まだ決定できない)

  ・その多くは家庭内での濃厚接触者を調べる過程で見つかった

  ・子どもから大人に感染したと話す人はいなかった(聞き取りを行った範囲で)

 

https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf

ChildrenData onindividuals aged 18years old and under suggest that there is a relatively low attack rate in this age group (2.4% of all reported cases).  Within Wuhan, among testing of ILIsamples, no children were positive in November and December of 2019 and in the first two weeks of January2020. From available data,and in the absence of results from serologic studies, it is not possible to determine the extent of infection among children, what role children play in transmission, whether children are less susceptible or if they present differently clinically (i.e. generally milder presentations). The Joint Mission learned thatinfected children have largely been identified through contact tracing in householdsof adults. Of note, people interviewed by the Joint Mission Team could not recall episodes in which transmission occurred from a child to an adult.

 

⇒**

▽「全国一律,科学的根拠乏しい」

https://digital.asahi.com/articles/ASN2W7T1RN2WUBQU008.html

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/03/02/000500

 政府の専門家会議のメンバーで小児科医の岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は,新型コロナウイルスではこれまでのところ子どもの感染者がとても少なく重症者がいないことがわかっているとし,「専門家会議でも休校は諮問されず,提言もしていない」と話す.

 2009年に新型インフルエンザが流行した時は,子どもの患者が多いことが予測された.高校生の患者が国内で最初に見つかった神戸市では小中高校を一斉に休校にしたことで感染を抑え流行を遅らせる効果があったという.

一方,新型コロナウイルスでは感染が相次ぐ地域とそうでない地域の差が大きいことも指摘.「全国一律の休校が効果的であるとするには科学的根拠は乏しい」と話す.

 また,新型コロナウイルスの致死率は武漢市のある湖北省を除くと1%程度と見られ,しかも重症化しやすい高齢者の致死率が全体を押し上げている.日本では医療が崩壊するようなことがない限り,致死率は1%以下に抑えられるとみられるという.

「毎年,肺炎や感染症で多くの高齢者と乳児が亡くなっている現状を踏まえると,新型コロナウイルスに限って全国休校という大きな措置をとることはそれによるマイナスの負荷が大きい」とした.

 

▽「ゴールをはっきりさせないと政策の成否が判然としない」

https://mainichi.jp/articles/20200229/k00/00m/040/192000c

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/03/03/000500

神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授

 小児の発症,重症化が少ない中で,学校だけ休むのは合理的ではありません.小児患者が発生している北海道は理解できなくもありませんが.

 休校を正当化するならば,その方策がもたらすゴールをはっきりさせる必要があります.

休校で感染をゼロにするとか,1日何人まで減らすとか.そういう目標設定がちゃんとあり,その背後に根拠があれば,事後的に政策の成否が分かります.

それなしに,ただ「やる」と言われても,その成否は事後的に判然としません.クルーズ船のときと同じ,「みんながんばったね」が残るだけです.

ゴールが見えず,ただ場当たり的に政治的判断がなされており,「科学よりも政治」という,またしても悪い前例となってしまいました.