「私,普通のお母さんだから,たいしたこと言えないのだけど….でも美帆のことだけは誰よりもわかっているから,法廷でしっかり伝えなきゃって思うんです.諭すように話した方もいてそれも大事だと思ったけれど,私はあえて悲しみも厳しいことばもぶつけようと思っています.被告には何一つ届かなかったとしても」障害者殺傷事件 結審した“命をめぐる法廷” 最後に語られたのは 1

結審した“命をめぐる法廷” 最後に語られたのは 1

 

WEB特集 結審した“命をめぐる法廷” 最後に語られたのは | NHKニュース

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-----(前略)

相模原市にある知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害されるなどした事件で,元職員の植松聖被告(30)が殺人などの罪に問われている裁判.

 

15回目の審理となったこの日,検察による求刑が行われました.7回目となる今回の傍聴記では,結審を前にそれぞれが最後に語ったことばを伝えます.

 

 

“普通のお母さん”が娘のために

17日の法廷では検察官による求刑に先立って,19歳で犠牲となった「美帆さん」の母親が心情を語りました.

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犠牲者が匿名で審理される中,母親は「娘は甲でも乙でもない」と初公判に合わせて下の名前を公表しました.

 

被告の変わらぬ差別的な主張に心が壊れそうになりながらも傍聴に通い,長い時間をかけてことばをつづってきた母親は法廷で語る日を前にこう話していました.

「私,普通のお母さんだから,たいしたこと言えないのだけど….でも美帆のことだけは誰よりもわかっているから,法廷でしっかり伝えなきゃって思うんです.諭すように話した方もいてそれも大事だと思ったけれど,私はあえて悲しみも厳しいことばもぶつけようと思っています.被告には何一つ届かなかったとしても」

 

そして当日.

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遮蔽板の向こうにいる被告に対し,法廷に立った母親はゆっくりとはっきりした声で,美帆さんのことを話し始めました.

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「美帆は12月の冬晴れの日に誕生しました.1つ上に兄がいて待ちに待った女の子でした.娘に障害のこと自閉症のこと,いろいろ教えてもらいました.私の娘であり先生でもあります.待つことの大切さや,人に対しての思いやりが持てるようになりました.笑顔がとても素敵でまわりを癒やしてくれました.ひまわりのような笑顔でした.美帆は毎日を一生懸命生きていました」

 

これまでの法廷での被告の発言について語るうちに次第におえつしながら叫ぶような声で伝えました.

 

「『お母さんのことを思うといたたまれません』と言われてむかつきました.考えも変えず,1ミリも謝罪された気がしません.痛みのない方法で殺せばよかったということなんでしょうか.冗談じゃないです.ふざけないでください.美帆にはもうどんな方法でも会えないんです」

 

大切な家族を奪われた遺族がどれほどの苦しみを抱えるのかも伝えました.

 

「事件後,家はめちゃくちゃになりました.社交的だった祖母が家に引きこもって一歩も外に出なくなりました.兄は具合が悪くなり入院して仕事を辞めました.私は9キロやせました.外に出ると心臓の動悸がすごく全身が震えてしまうことがよくありました.私の人生はこれで終わりだと思いました.自分の命より大切な人を失ったのだから.私たちは皆,あなたに殺されたのです.未来をすべて奪われたのです.美帆を返してください」

 

そしてはっきりとした大きな声で伝えました.

 

「他人が勝手に奪っていい命など1つもないということを伝えます.あなたはそんなこともわからないで生きてきたのですか.ご両親からも周りの誰からも教えてもらえなかったのですか.何てかわいそうな人なんでしょう.何て不幸な環境にいたのでしょう.私は娘がいてとても幸せでした.決して不幸ではなかったです.私の娘はたまたま障害を持って生まれてきただけです.何も悪くありません」

 

最後にこう訴えました.

 

「あなたの言葉をかりれば,あなたが不幸を作る人で,生産性のない生きている価値のない人間です.どんな刑があなたに与えられても私はあなたを絶対に許さない.美帆は一方的に未来を奪われて19年の短い生涯を終えました.だからあなたに未来はいらないです.私はあなたに極刑を望みます.一生,外に出ることなく人生を終えてください」

 

植松被告はこれまでと同じように感情を表に出すことはなく,時折,小さくため息をついていました.一方,法廷では母親のむせび泣く声がしばらくの間,響いていました.

 

 

「簡単に死刑にせず一生罪に苦しんでほしい」

 

この日は遺族や被害者家族の代理人の弁護士たちも,それぞれ刑の重さについて意見を述べました.

 

法廷で「甲Sさん」と呼ばれた43歳の男性の母親と姉の意見も読み上げられました.

 

「母も姉もいまだに死を受け入れることができないでいます」

 

この間ずっと傍聴に通う中で抱いた思いが伝えられました.

 

「この1か月半にわたる裁判を通じて,被告から『自分の考え方が間違っていた』ということばは最後まで聞けませんでした.『意思疎通のできない重度障害者はいらない』という発言を繰り返し,それを聞くたびに甲Sを含め,社会の障害者全体をも殺されたような気持ちになり何度も傷ついています」

 

そして刑の重さについての意見も読み上げられました.

 

「被告を簡単に死刑にしても償いにはならないとも考えています.終身刑を科し自分の犯した罪について一生苦しんでほしい.『障害者であろうと健常者であろうと,不幸な人も幸せな人もいる』という当たり前のことに気付き,この事件が絶対に許されないものであったと理解したうえで償いをしてほしい.しかし日本には終身刑がないため死刑を求めます」

 

(続く)