一人ひとりに価値がある 寺町東子(新聞を読んで/東京新聞 ): 「国の借金が減る」「社会の役に立ちたい」「『重度障害者を殺す』と言ったとき,一番笑いをとれた」「半分以上の人に同意や理解を示してもらった」美容整形や衆議院議長への手紙など,被告人が他者からの承認を強く求めていたことがうかがわれる.事件以前に,一人の人として大切にされてきたのだろうか.ありのままに受け入れられた経験はあるのだろうか.続く公判に注目したい. +東京新聞 相模原殺傷事件公判 2月 13日⇒2月 7 日

一人ひとりに価値がある 寺町東子

東京新聞 新聞を読んで

2020年2月9日朝刊

 

 二〇一六年七月,相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者十九人が刺殺され,職員二人を含む二六人が負傷した事件の裁判員裁判が一月八日,横浜地裁で始まった.

 

 被害者四五人のうち四三人が匿名で審理されるが,これは法廷で被害者名などを伏せて審理できる「被害者特定事項秘匿制度」に基づく措置.性犯罪などのほか,被害者や家族の名誉または社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある事件で,裁判所の決定により認められる(1月9日朝刊2面)

被害者が,被害を受けた以上に生活の平穏を害されることなく,加害者に法の裁きを与えるために大事な制度ではあるが,その背景には,対象事件に関する社会の偏見や差別が存在するからこその制度である.

私たち自身の被害者に対する意識や行動が問われている.

 

 第一回公判で「甲A」とされた被害者の母は,「娘は甲でも乙でもなく美帆です」と名前を公表し,実名審理に切り替えた(1月15日夕刊社会面)

十九遺族の調書要旨によれば,被害者の言葉はつたなくても,身ぶりや表情で温かなコミュニケーションがあった.一人ひとりの個性ある生活ぶりだけでなく,家族の「心が通い合っている」「生きる希望をもらった」という言葉からは,かけがいのない大切な存在,との思いが伝わってきた(1月16日朝刊6面,社会面,夕刊社会面,17日朝刊6面)

 

 他方,被告人は「意思疎通できない重度障害者は生きる価値がない」と法廷でも繰り返した(1月24日夕刊1面,社会面)

被告人の優生思想.差別思想がどのように形成されたのか,被告人質問が続く.

「国の借金が減る」,「社会の役に立ちたい」.

被告人が障害者を殺害する計画を五十人ぐらいに話したところ「『重度障害者を殺す』と言ったとき,一番笑いをとれた」「半分以上の人に同意や理解を示してもらった」とも述べたという(1月25日朝刊社会面)

美容整形や衆議院議長への手紙など,被告人が他者からの承認を強く求めていたことがうかがわれる.

 

 しかし,被告人の言葉は,「国」,「社会」など主語が大きく,被告人自身の実生活との乖離も見られる.障害のある人とのコミュニケーションは,相手の表情や態度の変化を繊細に受け取るスキルと心が必要だ.被告人質問からは,被告人の心の貧困が感じられる.

 

  被害者の弟は,被告人に対する質問の冒頭に毎回「植松聖さん」と語りかけたという(2月6日朝刊7面).

被告人は,事件以前に,一人の人として大切にされてきたのだろうか.ありのままに受け入れられた経験はあるのだろうか.続く公判に注目したい.

  (弁護士,社会福祉士

  2020・2・9

f:id:yachikusakusaki:20200213224213j:plain

 

 

東京新聞 相模原殺傷事件公判 2月13日⇒2月7日

 

相模原殺傷公判 遺族ら憤り「苦労と不幸は違う」 被告に「命の大切さ向き合って」

2020年2月13日 朝刊

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202002/CK2020021302000134.html

 

 相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら四十五人が殺傷された事件で,殺人罪などに問われた元施設職員植松聖(さとし)被告(30)の裁判員裁判の第十四回公判が十二日,横浜地裁(青沼潔裁判長)であり,遺族らが意見陳述した.法廷でも犯行を正当化し続けた被告を前に「苦労と不幸は違う」などと反論し,死刑を求める遺族もいた.事件時に被告に拘束された女性職員が初めて出廷し「命を失う最後の瞬間まで命の大切さと向き合って」と訴えた. (丸山耀平)=意見陳述詳報<7>面

 

 意見陳述したのは,犠牲者五人の遺族や代理人弁護士六人と,けがをした三人の家族ら三人,女性職員の計十人.

 

 このうち犠牲になった女性=当時(26)=の母は遮蔽(しゃへい)された証言台から

「月日がたっても悲しみは癒えません.娘の笑顔はたくさんの人を幸せにしてくれました.私の人生で欠かせない存在でした.あなたが娘を奪った.死刑にしてください」

と厳罰を求めた.

 

 男性=当時(55)=の妹は

「兄としての自覚や正義感を持っていました.尊厳もなく殺害されていいわけがありません.被告も,偏った考えも絶対に許すことができません」

と非難した.

 

 担当していた五人が犠牲になった女性職員は,被告に

「しゃべれるか」と聞かれて「しゃべれない」と答えた入所者が殺害されたとして,「私の答えで利用者の命が奪われてしまった.そのときの衝撃は今も忘れません」

と話した.

 

 殺害された女性=当時(60)=の弟と,重傷を負った尾野一矢さん(46)の父剛志(たかし)さん(76)は五日の被告人質問に続き,ついたてなしで被告の前に立った.剛志さんは

「今後,このような事件が二度と起きないよう,国民が納得する量刑をお願いします」

と求めた.

 

 犠牲になった男性=当時(43)=の母の代理人弁護士は

「被告は『障害者は不幸をつくる』と言っていますが,不幸をつくったのは被告.息子は不幸なんてつくっていません.いつも幸せをつくっていました.苦労と不幸は違うのです」

と母の思いを訴えた.

また,けがを負った男性の母は

「いつもの呼び方のジュンで意見を述べたい」と要望.代理人弁護士が「私とジュンは日々,小さな幸せを感じて生きてきた.私たちの人生を決める権利はあなたにはありません」

との陳述書を読み上げた.

 

 植松被告は黒のスーツに白いマスクで出廷.背筋を伸ばし,陳述する人の姿やついたての壁を見ていた.

 

 公判は証拠調べなどの手続きがほぼ終わり,十七日の次回公判で検察側が論告求刑を行う.

 

匿名に悩んだ弟,名前出さなくても姉を「認めている」

 

 姉=当時(60)=を殺害された男性(61)は意見陳述で今回の事件での被害者の氏名を巡る問題にも触れ「報道の仕方を考えてもらえれば」と課題を投げ掛けた.

 

 男性はこれまでの本紙の取材に,事件後に報道機関から「生きた証しを出して」と実名や写真の公表を求められ,「匿名では姉は生きたことにならないのか,匿名を望む自分は姉を認めていないのか」と悩んだ時期もあったと明かした.

 

 しかし「公の場で話すことが姉の生きた証し.名前は出さなくても姉を大切に認めている」と気持ちを整理し,意見陳述に臨んだ.

 

 法廷では,傍聴席から姿が見える状態で証言台の前に立った.冒頭で「植松聖さんに死刑を求めます」とはっきりとした口調で話した. (杉戸祐子)

 

<傍聴記>一人一人の差別問う

 「世の中には,心の奥底で植松(被告)のように考えている人は,少なからずいるのではないかと思います」

 

 被害者の遺族や家族らが今の気持ちを語った十二日の公判.肉親を失った悲しみや植松聖被告への怒りとともに,真の共生社会の実現を願う言葉があふれた.

 

 冒頭の心情は,事件で犠牲になった男性=当時(43)=の姉の言葉だ.代理人弁護士が読み上げた.「意思疎通できない重度障害者はいらない」「不幸をつくる」という被告の言葉を聞き「まるで世の中の障害者全体が殺された気持ちになりました」と明かした.

 

 この男性の母親は「障害者の現実の姿をもっと世間の人に知ってもらいたい.これからもっと(障害者が)生きやすい社会になるようにしてほしい」と願いを込めた.

 

 今回の事件は,社会に潜む問題を浮き彫りにした.命の価値に軽重をつける旧優生保護法が見直されたのは,わずか二十年余り前.植松被告の裁判は,障害者ら四十五人を殺傷した凶行を裁くだけでなく,われわれ一人一人の心の内の差別に向き合う面もある.

 

 「どんなに重い障害があろうと,意思疎通のとれない人は一人もいません」「障害があっても大切な命です」.植松被告の主張を否定する遺族らの直接の訴えが,重く心に焼きついた. (曽田晋太郎)

 

 

相模原殺傷公判 「大麻精神病が影響」弁護側の医師,鑑定否定

2020年2月11日 朝刊

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202002/CK2020021102000137.html

 

 相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら四十五人が殺傷された事件で,殺人罪などに問われた元施設職員植松聖(さとし)被告(30)の裁判員裁判の第十三回公判が十日,横浜地裁(青沼潔裁判長)で開かれた.被告の精神状態を調べた工藤行夫医師が弁護側証人として出廷し「被告は大麻乱用による大麻精神病で,判断力が著しく低下していた」と述べ,大麻の影響はないとした精神鑑定結果を否定する考えを示した.

 

 工藤医師は,関係者の供述調書や植松被告との面接などを踏まえ,事件一年前の二〇一五年ごろ,被告が大麻を乱用するようになり,信号無視や速度違反,けんかなどの問題行動が増えた点に注目.

 

 「障害者は不幸をつくる」との思考から「殺す」という考えに至った点には大麻乱用による「飛躍や病的な高揚感」があったと指摘.短時間に四十三人の入所者を殺傷した犯行そのものが「並外れたエネルギーと驚異的な行動力がなくてはできない.全ての行程に異常な精神状態が認められる」と話した.

 

 前回七日の公判での尋問で「大麻による行動への影響はなかったか,あっても小さかった」とした大沢達哉医師の鑑定結果について,工藤医師は「大麻による影響を著しく低く評価している」と否定した.

 

 公判の争点は刑事責任能力の有無や程度.検察側は「大麻の使用は犯行の決意が強まったり時期が早まったりしたにすぎず,完全な責任能力がある」と主張.弁護側は無罪を主張している. (土屋晴康)

 

 

人格障害,犯行に影響なし 精神鑑定医,相模原殺傷

2020年2月7日 11時56分

東京新聞:人格障害、犯行に影響なし 精神鑑定医、相模原殺傷:社会(TOKYO Web)

 

 相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月,入所者ら45人が殺傷された事件で,殺人罪などに問われた元職員植松聖被告(30)の裁判員裁判第12回公判が7日,横浜地裁(青沼潔裁判長)で開かれた.被告を鑑定した大沢達哉医師は,大麻使用障害や大麻中毒,人格障害である「パーソナリティー障害」を認定した一方で「犯行に影響がなかったか,影響を与えないほど小さかった」と述べた.

 

 鑑定は起訴後の18年に実施.大沢医師は「被告は事件当時,個人の強い考えに基づいて行動していた」との考察を示した.

 

 

鑑定医が弁護側主張を否定 相模原殺傷事件,横浜地裁

2020年2月7日 17時51分

https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020020701002282.html

 

 相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月,入所者ら45人が殺傷された事件の裁判員裁判第12回公判は7日午後も横浜地裁で続き,殺人罪などに問われた元職員植松聖被告(30)を精神鑑定した大沢達哉医師の尋問が行われた.弁護側はこれまでの公判で「大麻精神病によって被告は本来の人格とは違う別人になった」と主張していたが,大沢医師は「大麻が脳に影響を与え,障害者を殺すという発想が生じたとは言えない」と否定した.

 

 尋問で大沢医師は「入れ墨など,大学時代から反社会的な行動は強まっていた.人格の連続性がある」と述べた.

(共同)