卵の消費量世界第2位の日本.江戸時代に一気に広がった卵料理の歴史を考えれば,意外でも何でも無いのかもしれません.室町時代までほとんど食べられていなかった卵は,江戸時代初期になると一気に広がり,「卵百珍」が刊行されるまでに.明治初期にはたまご焼きも一般的に.日本人に好まれる卵料理.1位たまご焼き,2位目玉焼き,3位親子丼.たまごかけごはんは4位または5位.特に男性が好み,女性にはそれほど好まれていません.「日本人はたまごかけごはんが,なぜ好きなのか?」「サルモネラ食中毒の危険性は?」

先週日曜日の東京新聞「世界と日本 大図解シリーズ」は,題して「世界に広がる生卵の食文化」.

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東京新聞電子版

 

昨日は,この記事に掲載されていた「主要国ひとり当たりの鶏卵消費量」をネットからも確認し.

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http://keimei.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2019/10/7a5d1ebe425a3fb8e16cb9d75a797eb4.pdf

1位にランクされたメキシコ卵料理を少しだけ調べてみました.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/12/10/235000

 

一方,過去15年間のうち,1回(2013年)を除いて2位の座を守っているのが,日本.

 

日本人がこれほど卵を食べる!

世界第2位と知った当初は,やや意外な感がありましたが---

江戸時代に一気に広がった日本の卵料理の歴史を考えれば,意外でも何でも無いのかもしれません.

 

すなわち,

室町時代までほとんど食べられていなかった卵は,江戸時代初期になると一気に広がり,中期になると,卵料理のレシピを集めた「卵百珍」が,料理本万宝料理秘密箱(まんぽうりょうりひみつばこ,天明5年,1785年)に掲載・刊行されるまでになっていました.石毛直道 日本の食文化 岩波書店

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/02/24/014743

 

この頃,生卵が食べられていたかどうかは確かめられませんでしたが---

炒り卵,卵とじ,茶碗蒸しにあたる料理が江戸時代の料理本に掲載されています.(松本仲子 日本家政学会誌) CiNii 論文 -  江戸時代の料理本にみるたまご料理について

 

そして,江戸後期には卵焼き器と卵焼きが登場し,明治初期には卵焼きは一般的なものに.

屋のこだわり 王子の狐の玉子焼き。扇屋の厚焼き玉子

卵料理のバリエーションは,おそらく世界でもトップクラス.

日本人は,卵が大好きなんですね.

 

では,現代の日本人は,どのような卵料理が好きなのでしょうか?

ネット上で,2つのランキングをみることができますが,どちらも第1位〜第3位は同じです.

1位たまご焼き,2位目玉焼き,3位親子丼.

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卵料理の人気ランキング 1位 たまご焼き、2位 目玉焼き、3位 親子丼|ニフティニュース あなたが大好きなたまご料理は?|毎週アンケート|ハピ研 青山ハッピー研究所|アサヒグループホールディングス

 

そして,東京新聞大図解が取り上げていた

たまごかけごはん

Niftyの調査では第4位,アサヒHDでは,5位.

かなり上位ですね.

 

ただし,たまごかけごはんは,どうも,男性が好み,女性にはそれほど人気が無いようです.

男女別のランキングも掲載しているNiftyの調査によれば,

たまごかけごはんは男性のみの場合,堂々の第3位.それに対して,女性の場合はトップセブンにはランクされていません.

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料理の人気ランキング 1位 たまご焼き、2位 目玉焼き、3位 親子丼|ニフティニュース 

ちなみに,男性では7位以内にない茶碗蒸しが,女性だけの場合には第2位.

その他をみても,卵料理の好みにはかなり男女差があって,

目玉焼き,たまごかけごはん,ゆで卵は男性に,

茶碗蒸し,オムレツ,オムライスは女性に

好まれるようで,特に性差がはっきりしているのが,男性のたまごかけごはん,女性の茶碗蒸しと言えそうです.

 

東京新聞大図解シリーズ「世界に広がる生卵の食文化」を取り上げようと思って書き始めたこのブログでしたが,記事の中身には触れずに今日も時間切れ.

 「日本人はたまごかけごはんが,なぜ好きなのか?」について,要点をざっと整理して終わりたいと思います.

 

1. 日本人には,もともと,ヌルヌル,ネバネバを好む国民性がある.そして,江戸中期には納豆ごはんが一般的に食べられるようになっていた.

2. 江戸時代,「料理をしない料理」刺身が江戸の地で一気に開花し,同じように卵を生で食べる食文化が生まれた.

3. 1.と重なるが,ごはんという粒食にヌラヌラとした粘りのある副食を添えると滑りが良くなり,歯ごたえやのどごしも快適になる.

4. 醤油を介在させることで.外国人にさえも美味として認識されるものとなった.

(生卵,ごはん,醤油は「黄金のトライアングル」を形成している)

東京新聞

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最後にもう一つ.

この大図解でも強調されていますが,生卵を食べる場合,問題とされるのはやはり安全性.

特に,卵を介したサルモネラによる食中毒は,平成12年以降,大幅に減ってきたとはいえ,まだまだ注意が必要.

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https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000488491.pdf


平成30年の統計でも,全食中毒患者の3.7%はサルモネラ菌によるものです.

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https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000488491.pdf

 

卵によるサルモネラ中毒は,

「食中毒の原因となるサルモネラ菌(SE)で汚染されたタマゴ」が

▽「調理の段階から人の口に入るまでの間で不適切に取り扱われ」

▽「生きた菌が調理済みの食品の中で増えてしまう場合に大規模な食中毒が発生します」

日本養鶏協会

 

汚染されたタマゴが流通する割合は,ニワトリ自体と鶏卵の除染対策が進んだため,

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/60/7/60_375/_pdf

現在は

「毎日1個ずつタマゴを食べ続けて10年間に1回出会う確率」になっているそうです.

そして,

「汚染卵1個に含まれるSE(食中毒の原因となるサルモネラ菌)の菌数は数個ですから,例え,生(なま)食をしたとしても食中毒になることはないと言ってよい」

 日本養鶏協会

言い換えれば,

卵かけごはんは,卵を割ってすぐ食べるため,サルモネラ食中毒の危険性はないと言ってよい.

ただし,

汚染源が不明な中毒例があり,

危険性ゼロとまでは言い切れないところがやっかいです.

 

なお,他の卵料理では,「生きた菌が調理済みの食品の中で増えてしまう」ことが無いよう,加熱,保存に注意を払うことが必要となります.

「毎日1個ずつタマゴを食べ続けて10年間に1回」はサルモネラに出会ってしまうので.