ガガイモ(かがみ)3 「ガガイモの実でできた船(アメノカガミ船)に乗ってきた小人神はスクナビコナ」と知っていたクエビコ.挿話の最後で正体が明かされます.「足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しの神である“山田のソホド”」 であると.ソホドは「案山子」の意(古語).そして僧都の古形ともなっています.カカシには,多くの民俗学的な研究がありますが,“神である山田のソホド”とどのようなつながりがあるのかは,調べきれませんでした. “植物をたどって古事記を読む” 

オホクニヌシ(オホナムヂ)の国づくりを助けたスクナビコナ

長さ10センチのガガイモの実でできた船(アメノカガミ船)に乗り,

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 ガガイモ - Wikipedia

 

“ヒムシの皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来た”「小さい大地の神」.小人神でした.

この挿話では,スクナビコナ以外のも異形の神が登場します.タニグクとクエビコ.

 

この神の名前を誰も知りませんでしたが---

「クエビコがかならずや知っておりましょう」と進言したのが,タニグク.

タニグクは,ヒキガエルのこと.地の果てを支配する神と考えられています.

 

 

ガガイモ(かがみ)3  “植物をたどって古事記を読む”  

 

召し出されたクエビコが答えます.

「この方はカムムスヒの御子スクナビコナ様にちがいありません」

 

カムムスヒは,高天の原に最初に成り出た三柱の神の1人.「いつのまにやら身を隠してしまわれた神」ですが---

 

カムムスヒが “手の指の間から落としてしまった” わが子と証言します.

 

クエビコの答えは間違っていませんでした.

 

そして,この挿話の最後に,クエビコの正体が明かされます.

「足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しの神である“山田のソホド”」

であると.

 

三浦祐介氏の脚注によれば,

山田のソホド “田に立つカカシ.ソホドのソホは,濡れそぼつなどのソボと同じ.”

 

日本国語大辞典広辞苑でもソホド/ソオドは案山子.

 

ソオド/ソホド

▽精選版 日本国語大辞典の解説

山田の案山子(読み)やまだのそおど

やまだ【山田】 の=案山子(そおど・そおず)[=僧都(そうず)]

山田にあるかかし.

古事記(712)上「謂はゆる久延毘古(くえびこ)は,今者(いま)に山田之曾富騰(やまだのソホド)といふぞ.此の神は,足は行かねども,尽に天の下の事を知れる神なり」

広辞苑 第七版

そおど 【案山子】 ソホド

(ソホヅの古形)かかし.古事記(上)「くえびこは今に山田の―といふぞ」

 

カカシだったんですね.

カカシは,民俗学的見地から,多くの研究が行われています.

 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/10/29/171413

2017-10-30

かかしは,民俗学の重要な研究対象!かかしという言葉の由来である「かがし(嗅がし)」は,いまでも方言として残っている.そして,“ 始めて鳥獣の縅し(おどし)のこの人形を立てた人の心持は,これが自分達の姿のように見えて,相手を誤解させようというのではなかった. 形はどうあろうともこれが霊であって,むしろ人間以上の力で夜昼の守護をするものと信じられていた”(柳田国男

 

この “かがし(嗅がし)であり守護霊である民間の案山子” と,古事記の “神である山田のソホド”.

どのようなつながりがあるのでしょう?

きっと,どなたかが解明しておられると思いますが

---残念ながら,調べきれませんでした.

 

 

なお,古事記に登場するソホドは,案山子を意味していますが,

日本国語大辞典広辞苑によれば,“ソホドはソホヅ僧都の古形”とあります.

僧都といっても,僧の階級を示している僧都ではありません.

案山子を僧都と呼んでいた時期があった!

まとめれば,

「案山子は僧都と呼ばれていた.そして,僧都の古形がソホド」

 

日本国語大辞典には,13世紀の使用例が示されています.

僧都②=そおず(案山子) 発心集(1216頃か)—「山田もる僧都(ソウズ)の身こそ哀れなれ秋はてぬれば,問ふ人もなし」

 

 

古事記 神代編 其の四

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 オホクニヌシが,出雲の美保の岬にいました時じゃが,波の穂の上を,アメノカガミ船に乗っての,ヒムシの皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来る神があったのじゃ.オホクニヌシがその名を問うたのじゃが何も答えず,また,お伴の神たちに尋ねてみても,みな,「知りません」と申し上げるばかりじゃった.

 それで困っておると,タニググが進み出て,

「この方のことは,クエビコがかならずや知っておりましょう」と,そう言うたので,すぐさまクエビコを召し出しての,お尋ねになると,クエビコは

「この方は,カムムスヒの御子,スクナビコナ様に違いありません」と答えたのじゃ.

 そこで,母神であるカムムスヒに申し上げると,お答えになることには,

「この子は,まことにわが子です.子供たちの中で,私が手の指の間から落としてしまった子なのです.どうかアシハラノヨコヲと兄弟となって,あなたの治める国を作り固めなさい」ということじゃった.

 そこでの,それからは,オホナムジとスクナビコナと二柱の神はともに並んで力をあわせ,この国を作り固めなさったのじゃが,あるとき,スクナビコナは,ふっと常世の国に渡ってしまわれたのじゃ.

 それで,そのスクナビコナの名と筋とを明らめ申した,あのクエビコは,今でも山田のソホドというのじゃ.この神は足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しなのじゃ.