新日本風土記「ビール」2  ビールを積んであの町へ 盛岡の小さな醸造所.大事にしているのは,風味の強いドイツ伝統の味.決め手は麦芽の量.ひとたび仕込みを始めると,10数時間かかります.「ずいぶん大変な思いをしました.自分たちの思ったようには,ビールが売れない」.心がけたのは,お客さんの顔が見える場所に出ていくこと.ビールを楽しむイベントを,県内の33全ての市町村で開いています.8年前の3月11日.イベント会場山田町を目指していました.

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新日本風土記「ビール」2

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https://www4.nhk.or.jp/fudoki/5/

http://www.nhk.or.jp/fudoki/backnumber/

 

ビールを積んであの町へ

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【ベアレン醸造所】予約・アクセス・割引クーポン - じゃらんnet  盛岡「ベアレン醸造所」工場見学&ベアレンクラシックを飲んできた。 - 毎日ビール.jp ベアレン醸造所 – 岩手県盛岡市にある、100年以上前の仕込釜で造るヨーロッパスタイルのクラシックなビールブルワリー

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https://co-trip.jp/article/78564/ ベアレン醸造所 – 岩手県盛岡市にある、100年以上前の仕込釜で造るヨーロッパスタイルのクラシックなビールブルワリー https://www.facebook.com/baerenbier/

 

社長(木村剛さん)の出勤は毎朝5時.誰もいない工場で,仕込み釜と静かに向き合い,1日が始まります.

 

盛岡の小さな醸造所.16年前からクラフトビールをつくっています.

大事にしているのは,風味の強いドイツ伝統の味です.

(仕込み釜は1906年ドイツ製 砕いた麦芽を煮詰めて,デンプンを糖に変える)

 

その決め手は麦芽の量.

数字は企業秘密で言えませんが,一般のビールよりもかなり多い麦芽を使い,飲み応えのあるビールを目指します.

取材者「すごい量ですね」「そうですね.約500kgあります」「500kg!」

 

ひとたび仕込みを始めると,10数時間,かかります.社長の木村さんが,一人,早朝出勤するのは,社員に残業をさせないため.

 

「楽しく今日も1日頑張るぞ!」「おー」

 

社員の出勤時刻は,朝9時.社長からバトンタッチして,醸造技師が仕込み作業に当たります.

 

苦みと香りの決め手となるホップを投入.

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https://discoverjapan-web.com/article/11756 https://jp.depositphotos.com/47717221/stock-photo-hops-pellets-used-for-brewing.html

 

「今日使う酵母はこれです」

酵母が糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生む.

 

発酵,熟成に約1か月.

 

小さな醸造所ならではの個性的なビール.

 

でも,受け入れてもらうまでには---

 

社長ずいぶん大変な思いをしました.自分たちの思ったようには,ビールが売れない.と」

「確かに新しいビールが出たってことで,一度は皆さん飲んで頂くんですけど,いっぺん飲んでもらうのと,それをリピートして飲んでもらうの間には,かなりのギャップがありましたね」

 

「おまたせしました.ありがとうございます」

木村さんたちが心がけたのは,お客さんの顔が見える場所に出ていくこと.

「たとえば,盛岡(盛岡市材木町)に,よ市って,地元の商店街の方が昔から続けている,週末の土曜日にできる市があるんですけど.

そこで出店させてもらうことになって,最初知り合いが来て飲んでくれるんですよ.そうすると,また,知り合いの知り合いが通りかかって,いつのまにか,2〜3人だったのが,5〜6人になって,それが10人20人って,だんだん人の輪が増えてですね.

みなさんすごく楽しそうにですね,ビールを飲んでくれるんですよ」

 

材木町よ市

「ほぼ毎週来てます」「ほぼ,皆勤賞ですよね」「家でもベアレンです.もちろん」

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ベアレン醸造所にみる地域とビールの繋がり方vol.1 【材木町よ市ジョッキ倶楽部】 | 日本ビアジャーナリスト協会 盛岡の観光スポット43ヶ所をまとめてチェック! - TRIIPGO

 

専務「ほんとにね,すごい方々,支えられてるなと思いますね」

取材者「もう,顔見知りで?じゃあ」

「そうですね.もう,そうですね.毎週のように.こうやって飲んでると,知り合いが次々と来ますし」

 

木村さんたちは,ビールを楽しむイベントを,県内の33全ての市町村で開いています.

 

8年前の3月11日.

ビールを満載した車は,この日,イベント会場山田町を目指していました.その途中で起こった大震災.町に到着することは出来ませんでした.

やがて,会社では,支援物資として,ビールを山田町に届けるプランが持ち上がります.

しかし,実行に移すには,ためらいがありました.

 

専務「かなり,いろんな所への配慮とか躊躇がありましたね.震災直後っていうのは,やっぱり生活必需品とか,生活物資が,やっぱりメインでありましたから.

生きるか死ぬかという場面において,ほんとにビールというのは無力なものだなあというのを実感して」

 

「でも,ビールには,人を励ます力もあるはずだ」.

会社のみんなで意を決して,山田町にビールを届けたのは,5月8日でした.

 

「ああ,頂きました.何もないときだったですから,元気出ましたよ.力出ますよね」

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山田町夢プロジェクト - 東日本大震災被災地支援~岩手県山田町から~ NPO法人大雪りばぁねっと 特別編・ベアレンの311 | 岩手の地ビール・ベアレンのインナーチャイルド・マーケティング

 

小高い丘に集まって,久しぶりに味わったビール. 

「ここです」町の人たちにとっても忘れられないひとときになりました.

山田町昆尚人さん「ほんと楽しい1日だったっていう記憶は残っていますね.みんなで,わいわい,いろんな人が来て,みんなで励まし合って,助かった命なんで,これから頑張っていくぞっていうのに,一番最初になったときかもしれないですよね.うん.ビールに救われた部分というか,気持ち的にね,ありましたからね.本当感謝でしたね」

 

盛岡のよ市に来たのは,山田町でスーパーを経営する間瀬さん.

「かんぱ〜い」

あの日のビールから始まった縁.商売の上だけではありません.

「何かやりますか.10周年」「10周年ね.来年?」「再来年」「やりましょうよ.10回目記念」「これ(ビール)のおかげですよ」

 

社長「同じ場所で同じビールを飲むことで話がはずんだりとか,新しい知り合いが出来たりとか,そんなことが,もしかすると,ビールのほんとの役割かなっていう.

ビールの持っている力だなっていうふうに,今,思ってますね」