“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
取り上げるのは,ガマ(蒲).
昨日も話題としました.蒲1http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/09/02/001254
蒲2
古事記でガマ(蒲)が出て来る場面は,神代篇其の三.
皮を剥がれた赤裸のウサギをオホクニヌシが助ける場面.
ヒメガマ - Wikipedia コガマ,小蒲,蒲黄(ほおう),Typha orientalis,ガマ科ガマ属 ガマ - Wikipedia
神代篇其の三では,冒頭,
▽スサノヲによって斬り殺されたオホゲツヒメから5穀が誕生しする物語;http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/08/22/000500
そして,
▽スサノヲによるヤマタノオロチ退治; http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/07/09/234902
が語られています.
因幡(訳文では稲羽)の白ウサギの物語は,その次に語られる物語.
オロチ退治のあと,スサノヲからはじまる系図を説明する文章が間に挟まれ,オホクニヌシがスサノヲの6代後の孫であることが説明されています(⇒*1).
ウサギを助ける場面は,王になるための資格試験で,
オホクニヌシ(オホナムヂ:この物語中では,オホクニヌシは,別名の一つであるオホナムジという名前の主人公によって語られます⇒*2)が兄弟の八十(やそ)の神がみ(⇒*3)に国を譲られることを予言する大事な挿話として位置づけられています.
助けられたウサギは,ただのウサギではなく,ウサギ神,“神”だったのです.
おなじみの物語です.
以下,簡単にまとめます.オホクニヌシ(オホナムヂ)の言葉以下は,三浦祐介氏の訳文のままで.
また,*をつけた注は,ほぼ三浦祐介氏の脚注を再掲します.
兄弟である八十(やそ)の神がみとオホナムヂ(オホクニヌシ)は,稲羽(いなば)のヤガミヒメを妻に娶りたいと思い,稲羽の国へ出かけます.
オホナムヂはお伴(とも)役を与えられ,袋を担いだいでたち.
はじめに赤裸のウサギに出会った八十の神がみは,ウサギをからかって海の水を浴びて乾かすようにと教えると,ウサギはその教えに従います.
ウサギが痛み苦しみ泣き臥せっているところに,遅れてやって来たオホナムヂ.
「どうしてお前は泣き臥せっているの」
ウサギは答えて身の上話を語ります.
ワニ(⇒*4)をだましてオキの島から渡ってきたこと(⇒*5).
上陸する直前,だましていたことを明かしたばっかりに皮を剥ぎ取られたこと.
八十の神がみにからかわれ,教えられたとおりにすると更に傷がひどくなったこと.
オホナムヂはウサギに教え告げます.
「今すぐに,この河の川尻に行き,真水でお前の体をよく洗い,すぐさま,その水辺に生えている蒲の穂(⇒*6)を取り,その穂を敷き散らして,その上にお前の身を転がし横たわっていれば,お前の体は元の膚のごとくに治るだろう」とこう言うたのじゃ.
そこで教えのとおりにしたところがの,ウサギの体は元のとおりに白い毛でおおわれたのじゃった.
これが,あの稲羽(いなば)のシロウサギじゃ.今に至るも,ウサギ神(⇒7)と言うておろうが.
⇒*1
⇒*2
オホクニヌシ 原文は大国主神.偉大なる国の主の意.多くの別名を持つが,それだけ様々力を持っていることを表している.
ただし,別名で呼ばれている神は元は別の神であり,それをオホクニヌシという名で統合をはかったと考えられる.
オホナムヂ 原文は大穴牟遅.偉大なる(オホ)大地(ナ)の男神(ムヂ)の意.
⇒*3
前の文では,「八十あまりの神々がおって」とあり,その原文は「兄弟,八十神座しき」.
物語の中では,オホナムヂの対立者として一人の神(兄)のように語られる.その兄と弟オホナムヂの兄弟対立譚として語られてゆく.
⇒*4
原文は「和邇/和迩」.フカ・サメ類をいう語.中国地方の山間部には,今も方言として残る.
⇒*5
「ウサギとワニ」の話は,インドネシアからマレー半島あたりで,バンビとワニの話として語られていることが指摘されている.
⇒*6
蒲の穂 オホナムヂはメディカル・シャーマン(巫医)であることによって,王となる資格を持つのである.この神話では,八十の神がみとオホナムヂとが,ウサギによって,王としての資格を試されているというふうに読むことができる.
⇒*7
ウサギ神 このウサギは,ただのウサギではなく,神だったのだと種明かしされる.
ここに,八十の神がみとオホナムヂとが.ウサギ神によって,王になるための,女(稲羽のヤガミヒメ)を得るための資格試験を受けていたのだということが明らかになる.ただし,資格を得たオホナムヂがヤガミヒメと結婚し,地上の王となるのは,自らの力で八十の神がみを倒した後のことである.