7月26日金曜
NHK総合1 午後6時10分~ 午後6時52分
今日7月26日は,19人の命日です.
(1)
yachikusakusaki.hatenablog.com
(2)
一方,現場となった施設は,事件を受けて建て替えがすすめられていて,123人の入所者は,横浜市内にある一時的な移転先などで暮らしています.
神奈川県は,一人一人が今後どのような暮らしを望んでいるか,入所者の様子から意向を読み取るほか,家族などへの聞き取りをして,施設での生活か,施設を出て地域で暮らすか,一人一人の意思を確認したいとしています.
その本人の意思に沿った暮らしを探る動きは,少しずつ全国でも広がっています.
事件の後,障害のある子どもの地域での暮らしを模索し始めた人がいます.
「おはようございます」「おはようございます」
京都市に住む黒井久代さん.76歳です.
30年ほど前に,夫を亡くして以来,長女の美志(みゆき)さん(52歳)と,二人で暮らしています.52歳の美志さんには重い知的障害やてんかんの発作があります.
久代さんが一人で介護をしてきましたが,70歳を越えてから,体調を崩すこともふえ,いずれは娘を施設に入れようと考えていました.
「『もうそろそろ限界と違いますか』と周りの人から言われて,どっか(施設に)入れた方がいいんじゃないですかと」
そのさなかに起きたのが,障害者殺傷事件でした.
娘が望む暮らしとは何か.改めて考え始めた久代さん.
事件に関する情報を集める中で,障害がある人の地域での暮らしを紹介する記事を見つけました.
“知的障害があろうと,重複障害があろうと,地域で自立生活を送ることができる”
一人暮らしという選択肢があることに,初めて気づかされたといいます.
「娘に関しては,そういう生活ができるとは,全然,考えてなかったです.大規模施設に入るのではない選択肢があるんだと」
記事を書いたのは,NPO日本自立生活センターの渡邉琢さんです.京都市内で,障害のある,およそ40人の一人暮らしを支援しています.
5年前から,重い知的障害の人にも対象が広がった“重度訪問看護”.この制度を使って,24時間態勢で介助者が付き添い,本人の意思に沿った生活を実践してきました.
「難しいとされてた医療的ケアが必要とされる方や知的障害の方,特に重度の知的障害の方とかの,一人暮らしっていうのは,結構増えてますね.
ささいなことでいいんですよ.例えば,毎日,買い物に行き,スーパーなりなんなりで自分で自分の食べたいものを選ぶ.ごく当たり前の人々とのふれあいが,地域の中にあるというのが大きいことじゃないかな,とは思います」
事件後,渡邉さんのもとには,地域で暮らしたいという相談が複数寄せられています.
1年前から,通い始めていた美志さん.将来を見据えて,毎月2泊3日の一人暮らし体験をしているのです.てんかんの発作がある美志さんには,三人のヘルパーが交代で24時間つきそいます.
渡邉さん「夕飯の買い物をして,体験室に戻って--」
ヘルパー「きょうは何にしようか?」
自立した暮らしを目指し,まずは近所のスーパーで買い物.これまで,食事のメニューは,母親が考えていましたが,ヘルパーと相談しながら,自分で決めていきます.
取材者「メニューは?」
美志さん「まだ(決まっていない)」
ヘルパー「美志さんにはちゃんと美志さんの中の理由はある」取材者「なるほど」
自分が食べたいものを,自分の意志で選ぶ.その当たり前が,美志さんにとっては,大切な時間です.
夜は,練習用の体験室に帰宅.
(ナスを切り,サツマイモをフライパンで焼く美志さん)
自宅ではあまりしてこなかった料理にもサポートを受けながら,積極的に挑戦します.
ヘルパー「いただきます」
一人暮らしの練習をはじめて1年.
母の久代さんは,美志さんが前より自信をもって,意思表示をするようになったと感じています.
久代さん「精神的な自立度というのはすごく変わってきているんじゃないかな,と思いますね.生意気になりました.ウフフフフフフ」
久代さん「本人のぜいたくというのですかね.ささやかなぜいたく.きちんとその願いを伝えて,叶えさせてもらいながら,生きていってください」
田所キャスター「みゆきさんの頑張り,そして努力という過程を積み重ねていってる先に,自立っていうものが.きっとあるんでしょうね.それはやっぱり本人も,そしてお母様も,今,確かに手応えとして感じているだな,ということがよくわかりました」
中山キャスター「生意気っていう言葉を,あんなにうれしそうに言っておられましたよね」
「自立生活を支援するNPOの渡邉琢さんは,
『重い障害のある人が,当たり前に暮らす場を選び,地域と関わりながら生きていくことが,本人にとっても社会にとっても大切なことだ』
と話しています」
では,再び中継です.
現場には横浜局の岡記者です.
「岡さん,事件から3年がたって,前に進み出そうとしている人の姿も出て来ているようですね」
「はい,事件で被害にあった人の中にも,施設を出て,地域で生きることを目指し始めた人もいます.3年がたって一歩を踏み出し,前に進もうとしている人も出てきているんです.
しかし,NHKの調査では,若い世代を中心に事件の記憶が薄れている現状が浮き彫りになりました.障害のあるなしにかかわらず,それぞれが自分の意志で生き方を選び,互いに支え合いながら暮らす社会を,いかに実現するのか?
3年がたつ今,事件を記憶にとどめ,これからも考え続けなければいけないと感じました」