かに座2 「古代ギリシャ人は,かに座は,メソポタミアで描かれたとおりカニのまま,ヘーラクレースに殺されたカニを当てはめた.これに合わせ,ヘビとされていた星座を,もともとヘーラクレースが退治すべき相手ヒュドラーとした」?私の邪推 +ヘーラクレース第二の功業レルネーのヒュドラー(水蛇)by 偽アポロドーロス  

黄道12星の一つ,かに座.

その起源は古代メソポタミアに遡ることができ,かに座を指している古代メソポタミアアッカド語Alluttu,同シュメール語AL.LULは,共にカニ the Crabの意味とのこと.

yachikusakusaki.hatenablog.com

ギリシャ神話では,ヘーラクレースが,第二の功業でレルネーのヒュドラー(⇒うみへび座)と闘ったとき,ヒュドラーに加勢して踏みつぶされたカニとされています.

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星座図鑑・かに座

そして,ヘーラクレースが闘う本来の相手ヒュドラーも,共に天に挙げられうみへび座となったとされているのですが----.

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星座図鑑・うみへび座

このうみへび座

ヒュドラーとは姿が違います.

うみへび座の頭は一つなのに対し,九つの頭を持つのがヒュドラー.この星座をうみへび座Hydraとするには無理があるように思われますが---

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LERNAEAN HYDRA - Nine-Headed Serpent of Greek Mythology

 

Hydra

ギリシア神話ヒュドラ,ヒドラ:Lerma に住む9頭の大蛇で,頭を1つ切れば,代わりが2つ生じたという;Hercules はその頭を切ったあと,首を焼くことによって退治した.(ランダムハウス英語辞典)

 

実は,このうみへび座も,かに座と同じく古代メソポタミアに起源を持つ星座なのですが,シュメール語星座名MUSHは,英語ではthe Snake.

Star Myths | Theoi Greek Mythology

もともとは蛇なんですね.

 

 

なぜ,ギリシャ・ローマでは,ヒュドラーになったのでしょうか?

ここからは,素人の邪推に過ぎないのですが---.

“かに座は,メソポタミアで描かれたとおりカニのまま,ヘーラクレースに殺されたカニを当てはめ,これに合わせ,ヘビとされていた星座を,もともとヘーラクレースが退治すべき相手ヒュドラーとした”

まんざらあり得ない話でもないと考えているのは私だけ?

夜空に蟹と蛇が近くにあると聞き知って,古代ギリシャ人が蟹とヒュドラーの話を連想したとしてもおかしくはないでしょう.

 

なお,かに座の中心(γ、η、θ、δ の各星で作られる四辺形の中心)にあるプレセペ(Praesepe )星団(M44)は,飼い葉桶の意で,γ(アセルス・ボレアリス )とδ(アセルス・アウストラリス)は飼い葉桶の餌を食べる2頭のロバに見立てられてきました.

プレセペ星団 - Wikipedia

ギリシャ神話では,この二頭のロバは,ASSES OF DIONYSUS(ディオニューソスのロバ)と呼ばれ,ヘーラーによって負わされた狂気の呪いを探し求めてドードーナへ向かうディオニューソスを助けたことから,天にあげられました.

Star Myths | Theoi Greek Mythology

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星座図鑑・かに座

 

 

アポロドーロス ギリシャ神話(高津春繁訳) 岩波文庫

第二巻Ⅳ-12

ミニュアース人に対する戦さの後にヘーラーの嫉妬のために気が狂い,メガラーによって得た自分(ヘーラクレース自身)の子供とイーピクレースの二人の子供とを火中に投じた出来事があった.

それゆえに彼(ヘーラクレース)は自分自身に追放の判決を下して,テスピオスによって(罪を)潔(きよ)められて後,デルポイに赴き,どこに居住すべきかを神に問うた.

ピュートーの巫女はその時初めてヘーラクレースと彼を呼んだ.

というのはそれまでアルケイデースと呼ばれていたからである.

彼はティーリュンスに住み,エウリュステウスに十二年間奉仕して,命ぜられる十の仕事*を行い,かくして,と巫女は言った,功業が完成した後に,彼は不死となるであろう,と.

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第二巻Ⅴ-2

第二の仕事としてレルネーの水蛇(ヒュドラー)を殺すことを(エウリュステウスは)彼に命じた.

これはレルネーの沼沢地に育ち,平原に出て来ては家畜や土地を荒らしていた.水蛇(ヒュドラー)は巨(おお)きな身体で,九頭を有し,八つは殺すことができるが,真中のは不死であった.

そこで彼は戦車に乗り,イオラーオスが御者となってレルネーに来(きた)り馬をとめ,とある丘上の,その栖家(すみか)のあるアミューモネーの巣の傍らに水蛇(ヒュドラー)を見出し,火箭(ひや)を放って外に出ることを余儀なくせしめ,出て来るところを抑えてしっかと捕らえた.

しかし,蛇は彼の片方の足に巻き付いた.棍棒を以て頭を打ったが,なんの効果もあげ得なかった.というのは一頭が打たれると二つの頭が生え出て来たからであった.

大蟹が彼の足を噛んで援助した.

それで,これを殺し,彼もまたイオラーオスに援(たす)けを求めて呼び,イオラーオスは近くの森の一部に火をつけて,その燃え木で以て頭のつけねを焼き,生え出て来るのを止めた.

かくして生え出て来る頭を征服し,不死の頭は切り離し,レルネーを経て,エライウースに通ずる道の傍らに埋め,重い石をその上に置いた.水蛇(ヒュドラー)の身体を引き裂いてその胆汁に自分の矢を浸した.しかし,エウリュステウスはこれを十の仕事のうちに数えるべきではないと言った.というのは,独力でなくイオラーオスと協力して水蛇(ヒュドラー)にうち克ったからである.