神様の木に会う 〜日本巨樹の旅〜
NHKBSプレミアム(1月4日金曜)【語り】工藤夕貴,美輪明宏
14の巨樹に,美しい映像で出会える番組
yachikusakusaki.hatenablog.com
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「寂心さんのクス」
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92383/2383433/index.html
熊本市の北部,畑の真ん中に,日本一美しいと言われるクスノキがある.
舞うように伸びた無数の枝.四方八方に広がった枝の周囲(枝張り)は,50mを優に超える.
樹齢800年.
寂心さんのクスと呼ばれている.
戦国時代の武将,鹿子木寂心(かのこぎじゃくしん)が,この木の下に葬られたことから,「寂心さんのクス」と名付けられた.
幹周17.1m.
風に揺れる枝の音「まるでささやいているみたいだなあ.木が踊っている」
人と比べるとその巨大さが分かる.
https://www.nippon.com/ja/views/b05301/
高さ30m.10階建てのマンションほどの大きさだ.
どでかい傘のような形をしている.
「もう,何ですかね.驚きしかないですよね.このエネルギーは」
「お仕事は?」
「彫刻やってて,いつもクスノキを使ってるんですよ」
「彫刻家から見て,この形はどうですか?」
「もう,いやもう,何だろう.想像を超えてますよね.自分の作品の何か-----.ぜんぜん,想像を超えちゃってるから,自然のものにはかないません.ちょとね---.こんなものが,この世に生きてるんだっていうのが」
まるで動き出しそうな,得体の知れない物体.
地面を這うように伸びている,その正体は根っこだ.巨大なタコの足のようにも見える.
たった一本の木が,まるで一つの森のようだ.
この大きな傘の下に,多くの人が集まるという.農家や,工事現場で働く人.トラックやタクシーの運転手.子供たちや親子連れ.みんな,この木の下で涼んだり雨宿りをしたり.憩いの場になっている.
寂心さんのクスの下で,一人のおばあちゃんと出会った.
(クスに向かって手を合わせて)「よろしくお願いします」
(杖を置くと,クスノキのもとへ)
「はいはいはいはい.パワーを下さい.お願いします」
(根の間をかき分けるようにして進み,幹のすぐ下まで来て)
「はあ〜,ちょっとすごいでしょ」 取材者「ねえ〜」
「ねえ.(幹に抱きついて)あはは.もう,大好き.もう,とにかく.普通の木やったら,あれでしょ.このくらいの根が1個でしょ.それを,見て.ちょっともう,なんて言ったらいいのか.この根っこも.これに感動します.ねえ.他にもありますか?こんな木」
「もう何年来てるんですか?」
「もう,何十年ですかね.最初---最初来たのは30歳ぐらいの時だろうから.ですね.もう---もうそうね.50年とは言わんけど,60年ぐらい来るとこかな」
「お年はいくつですか?」
「わたし?あと1ヶ月で95歳」「95歳!」
「はい.大正12年」「はあ〜」
「ねえ.ひ孫が25人か26人かおります.みんな元気かけんですね.もう,それが自慢です.私の.(根をたたき,傍らの雑草を抜いて)すごい.(クスノキから離れて)クスノキさ〜ん.また来ま〜す.パワーありがとうございました.また来ますね」
94歳の杉本フクノさんに,ゆっくり話を聞くために,取材をお願いした.
「乗っていきますか?」「はい,お願いします」
「おかげで,50〜60年になるばってん,まだ,事故らしい事故は,起こしたことないです」「ゆっくり行って下さいね」
「はい.----狭いよ〜あなたたち来たって座れるかな〜?アハハハハ」「ハハハ」
自宅は車で1時間ほど離れた場所にある.杉本さんは市営住宅で一人暮らし.近くに息子夫婦が住んでいる.
「どうぞ」「お疲れさまでした」
「広いでしょうが.アハハハハ」「広い.いやあ,十分じゃないですか」
「今日から,これ(図書館から借りてきた“伊豆の踊子”)を読もうと思うけどね」
家では本を読みながら過ごすことが多い杉本さん.クスノキには,ほぼ毎月,会いに行く.ふと,寂しくなったとき,無性に会いたくなるのだという.
(一族で集まった写真を背景に)
孫は11人.ひ孫は25人いる.探鉱で働いていた夫は,30年以上前に亡くなり,以来,ずっと一人でいる.
(二人で写した写真をみせつつ)
「なんもしゃべらんね.一日にね,幾口かしゃべればいい人.
戦時中は,ほら,石炭,掘れ掘れで,もう,坑内から上がってきたっちゃね,真っ黒.もう真っ黒になって働いて,真面目で働く一方の人.酒も飲まんし,まんじゅう,甘いもん大好きで.ハハハハ,ねっ.
ほんで,子供たちも,みんなね,みんな真面目ですよ」
「思い出しますか?お父さんのこと思い出す?」
「うん.すまな〜いと思います.すまないと思います」
「なんで?なんで,すまないって思うの?」
「それは言われない------.
あのね----.青春の時の,それこそ思い出だけど,私がね.つきあってる人があるのをね.引き裂かれて,姉さんの婿さんの弟と一緒に.無理やりに.
その無理やりになれたのが,今のご主人.それでね---.ハハハ.あんまり好きじゃなかったけ.ほいで,今は,ごめんなさい.きょうだい,きょうだい.いろいろね.若いときはね.仕方ないもんね.-----(うなずいて)--しかたない」
朝日がクスノキの巨樹を照らしだす.
去年(2018年)8月,九州でも記録的な猛暑が続いた.樹木医が,毎日.寂心さんのクスに水まきをしていた.
樹木医今村さん「人間でいうなら,首筋とか脇の下を冷やすでしょ?それと一緒で,熱中症にかからないんですよ.熱中症予防です」
「この暑さで?」
「そうです.木がやられちゃうんです.人間と一緒ですよ」
「ことしのような,猛暑はつらいんですかね?木も」
「いや,つらいと思いますよ.泣いてますよだから,水かけに来ると喜ぶんですよ.きゃっきゃっきゃっと.木だけじゃなくて,蛇やら,ああいうバッタから,いろんな動物も喜びますからね」
一本の巨樹がつくる森の中で,沢山の虫や鳥の命が育まれている.そして,巨樹もまた生きている.
お盆に,再び杉本フクノさんを訪ねた.
「暑いけど大丈夫ですか?お元気ですか?」
「大丈夫です.---ひ孫ね.」「こんにちは」「こんにちは」
「孫,ひ孫.---えーと.あの人の子供は,えーと,この二人か?」
この日はお墓参りに.
「ここが私とこの墓」
「ここはどなたが眠られてるのですか?」
フクノさん「私の主人.それから娘.息子.5人の---下から二人,死んだんです」
子供&孫&ひ孫たち「ねえどいて」「そっちもその花換えて.はずして.その花」
フクノさん「お参りします.座って座って.---はい.ご先祖様.みんなで参りましたよ.どうぞ,杉本家を守って下さい.お願いします」
杉本さんは,別のお墓も守っている.
「ここがですね.私の主人の兄,それと,私の姉.きょうだい,きょうだい,夫婦やったけん.ここが姉たちの墓で」
「タミ姉さんが一番上?」
「女ではね.男二人,女二人,男,女,女,女.8人きょうだい.もう,私一人」
お墓参りのあと,杉本さんは,いつも寂心さんのクスに会いに行く.
「ねえ.すごい.すごいすごい.もう,いつもこの木のパワーをもらいに.
とにかく,すごいでしょ?この根っこね.こんな木はないもん.はあ〜.ありがたい.ここに来られるだけでもありがたい.ここに,来られるだけでもありがたい」
http://www.tree-doctor.co.jp/treeblog/
60年,通い続けるクスノキの巨樹.ここに来ると元気がよみがえってくる.
その,太く,ゴツゴツとした幹も根も,フクノさんの体と心にしみ込んでくる.
「もう,とにかく口でなね----口でな表さられん.『ああ』と思う.もう口では,何て言うてよかかは」
「おばあちゃんの人生にとって,この木は,どういう木なの?」
「へ〜----競争相手!アハハハハハ.負けてなるかって.負けてなるかって.パワーをもらって---.とにかく,ほら.---ほら.ほら」
95歳の杉本フクノさん.樹齢800年の巨樹と共に生きている.