天の裔の神々(ウラニオネス)のなかでも とりわけ愛らしい子供たち(アポローン,アルテミス)を生まれた.〈ヘーシオドス,神統記〉レートー.
The Theoi Projectのレートーの項では,http://www.theoi.com/Titan/TitanisLeto.html
「アポローンとアルテミスの母.父はゼウス,ゼウスとはへーラーの前に結婚した」
「後の作家たちは,(ヘーシオドスやホメーロスの物語の)要素を変化させ,装飾していき,レートーをゼウスの正式な妻としては描かず,身ごもっている間中,へーラーによって苦しめられた,単なる内縁の妻として描いた」
としています.
yachikusakusaki.hatenablog.com
ttp://www.theoi.com/Titan/TitanisLeto.html
ヘーシオドスより後の作,アボローンへの賛歌でも,アポローンの出産がとても困難であったことを描き,その原因はつくったのはへーラー!
〈アポローンへの賛歌〉
身ごもったレートーは,産気づいたまま,クレタ,アテーナイにはじまり,31もの土地を訪れまわります.
「どこか,自分の息子のための館を設けることを望みはしないだろうかと期待して」
「しかしどの土地も,恐れを抱き震え上がり」受け入れません.
なぜ恐れを抱いたのか.
アポローンへの賛歌では,受け入れることになるデーロスにこのように語らせています.
「話によればアポローンは,とりわけ自分の力をたのむ方」「この私を岩がちの土地であるゆえ軽蔑し,足で私をひっくり返し,大地の中に押し沈めるのではなかろうか.これこそ私が心底恐れるところです」
レートーは誓いを立ててデーロスを説得します.
「ボイポス(アポローン)の祭壇と聖域とは,いつまでもこの地から消えることなかろう.そしてお前に誰よりも秀でた誉れを与えることとなるだろう」
しかし,「恐れを抱き」について訳者(逸身 喜一郎・ 片山 英男)注では,つぎのように解説しています.
この文脈だけに従うと,諸土地は生まれくるアポローンの力が強大で恐ろしいことにおびえていると読める.しかし明示されてはいないが,「へーラーに追われたレートーは,アポローン出生の地を求めて各地を転々とした」という伝承をここの箇所に読み込めば,おそれの対象は,レートーを助けた者に向けられるへーラーの怒りと報復であろう.
あとで見られるように,ゼウスの正妻へーラーはレートーがゼウスの子供を産むことに立腹し,出産を阻止しようとした.
カッリマコス作〈デーロス島への賛歌〉の描くところでは,へーラーはアレースとイーリスをつかわし,諸土地がレートーをうけいれろことのないように妨害させた.ただ,その当時「浮き島」だったデーロスだけが場所を提供した.
さらに後世の神話集成者ヒューギヌスになると,アポローンの出産を邪魔せんとレートーを追い回したのは,蛇のピュートーンである.
女神の誓いをうけ,デーロスは遠矢射る神の誕生をおおいに祝福します.
出産が近づき,貴い女神たちが皆その場に集まります.へーラーを除いて.
アポローンへの賛歌 本文
しかし,それからもレートーは九日九夜,いっこうにうまれてこない陣痛の,刺すような苦しみを忍びつづけなければならなかった.(分娩の女神エイレイテュイアが手伝わなかったからである.)
----
エイレイテュイアは,何も知らず,白い腕のへーラーのたくらみにかかり,金色の雲に包まれたオリュンポスの頂きにいた.へーラーは髪美しいレートーが,気高く地から勝った子供を産もうとしているのにひどく嫉妬をし,エイレイテュイアをひきとめていたのだ.
女神たちは(交換条件として)黄金の糸を通した,腕九つ分の長さもある首飾りを約束することでエイレイテュイアを連れてくるよう,ひと住むによい島からイーリスを使いに出した.
女神たちはイーリスに,へーラーに気づかれぬよう,離れたところから声をかけるように命じていた.エイレイテュイアが出かけようとする時になって,へーラーが口を出して邪魔はしないかと,心配したのである.
風のように足の速いイーリスは,それを聞くと走り去り,全行程を一瞬のうちに跳びこえた.
そして,神々の座たる険しいオリュンポスに到着するや,エイレイテュイアを館の中から扉のところまで呼び出し,翼もつ言葉をかけ,オリュンポスに館をもつ女神たちが命じたとおりを,すっかり伝えた.
エイレイテュイアの胸の内なる心は説き伏せられたので,二人は震える鳩のように歩みを進めた.
出産の女神エイレイテュイアがデーロスに歩みを向け始めるやすぐに,分娩は始まった.レートーは子を産もうと懸命になった.
両腕をシュロ(ナツメヤシ yashikusakusaki)の木にまきつけ,膝をやわらかく牧草に押しつけた.大地は下からほほえんだ.
子供が光の中へ跳びでてくるや,女神たちはいっせいにどっと声を挙げた.