レートー1 アポローンとアルテミスは,レートーがゼウスとの間にもうけた子供たち.妊娠,出産にまつわる話を,ギリシャ神話の数多くの古典が記述しています. しかし,この妊娠・出産以前のレートーに関しては,それほど多くのことが記されていないようです.神統記では レートーはコイオスとポイベーの子.そして神統記に記されたゼウスが娶った女神たちの中では,最後から二番目.ちなみに最後がへーラーになります.

レートー(Leto,レト,ローマ神話ではラートーナ)

その名前を知らない方でも,アポローンとアルテミスはご存じかと思います.(つい最近まで,私はそのような知識しかありませんでした).

このアポローンとアルテミスは,レートーがゼウスとの間にもうけた子供たちにして,ギリシャ神話でもっとも魅力的と言ってもよい男神と女神.

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Leto - Wikipedia

 

ギリシャ神話の数多くの古典が,このレートーの妊娠,出産にまつわる話を記述しています.

しかし,それ以前のレートーに関しては,それほど多くのことが記されていないとのこ.

Classical Greek myths record little about Leto other than her pregnancy and her search for a place where she could give birth to Apollo and Artemishttps://en.wikipedia.org/wiki/Leto

 

今日の稿では,出産の前のレートーについて:

彼女の出生,並びに,ゼウスが娶った女神の何番目に位置するのかが分かる部分を,ヘーシオドスの神統記から引用させていただきます.

神統記では レートーはティターンのコイオスとポイベーの子.

そして神統記に記されたゼウスが娶った(めとった)女神たちの中では,最後から二番目がレートー.ちなみに最後がへーラーになります.

この神統記(廣川洋一訳)から,「妻」メーティス,「娶った」テミス,「花嫁」へーラーは,正式の婚姻関係にあることがわかります.しかし,他の女神たち,エウリュノメー,デーメーテールムネーモシュネー,そしてレートーは,産んだ子供の記述のみで,妻として認められていたかどうかは,本文からは読み取れません.

しかし,なんといっても表題が「ゼウスの結婚」.

ヘーシオドスが,これらの女神たち全員を,ゼウスの妻として認めていたことは間違いないところでしょう.

 

なお,アポローンとアルテミスの妊娠・出産にへーラーが強烈に嫉妬する物語が後の古代ギリシャ作家たちによって描かれますが---

ヘーシオドスに従うと,その時へーラーはまだ妻ではない,ということになりますね.

 

出生

ヘシオドス 神統記(廣川洋一訳) 岩波文庫 より

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ポイベ(ポイベー)とコイオスの子

さて ポイベ(ポイベー)はまたコイオスの情愛の臥床(ふしど)へと入ったが まもなく

女神は男神の愛をうけて身重となり

黒衣をまとうレトを生まれた.この方はいつも穏やかで

人間どもにも不死の神々にも優しい.

彼女(レト)は もとからおとなしく オリュンポスのすべての神々の中でも いちばん柔和である.

また(ポイベは)麗わしい名をもつアステリア(アステリアー)を生まれた このおかたを ある日 ペルセス(ペルセース)が

自分の大きな館に伴って 彼の愛しい妻と呼ばれるようにした.

 

 

ゼウスが娶った女神たち

ヘーシオドス,神統記(廣川洋一訳) 岩波文庫 より

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ゼウスと女神たちの結婚

さて 神々の王ゼウスは 神々と死すべき身の人間どものうちでも

並びなく賢いメティス(メーティス)を 最初の妻となさった.

だが まことに彼女が 輝く眼の女神アテナ(アテーナー)を出産されようとしていたその折に

彼は 策を用いて 言葉も巧みに 彼女の心を欺き 彼女を 己れの腹中に呑みこんでしまわれた

大地と星散乱(ちりば)える天の勧めるままに.

すなわち 両神は こう勧められたのだ たれか他の者が 

ゼウスに代わって 常磐(とこわ)にいます神々の王たる特権を得るようなことがあってはならぬと.

というのも 彼女(メティス)から 並外れて賢い子供らが生まれる定めになっていたからだ.

すなわち はじめに 輝く眼もつトリトゲネイア(アテナ,アテーナー) つまり

父親に劣らぬ気性と賢い思慮を備えた娘御を

そのつぎには 傲慢な心をもつ息子を

神々と人間どもの王として 生むことになっていた.

ところが その前に ゼウスは 彼女を己れの腹に納めてしまわれたのだ

この女神が 彼に 善きこと 悪しきことを助言してくれるように と.

二番目に ゼウスは 輝かしいテミスを娶(め)られた.彼女は 季節女神(ホーラ.ホーライ)たち すなわ 

秩序(エウノミア) 正義(デイケ) 咲き匂う平和(エイレネ)を生まれたが

この方がたは 死すべき身の人間どもの仕事に 心を配られる.

また 運命(モイラ)たちを生まれたが この方がたに 賢いゼウスは抜群の特権を与えたもうたのだ.

(この方がたとは)クロト ラケシス アトロポロス だが 彼女たちは

死すべき身の人間どもに 善運と悪運を授けるのだ.

さて 大洋(オケアノス)の娘 容貌(みめ)美(うるわ)しいエウリュノメ(エウリュノメー)は

彼(ゼウス)に 頬(ほほ)美しい優雅女神(カリス)たち すなわち

アグライア エウプロシュネ 愛らしいタリアを生まれた.

彼女たちが眼差(まなざし)を向けると その眼からは 四肢の力を萎えさせるエロスが 溢れでた

彼女たちは その眉の下で 美しい眴(めくばせ)なさるのだ.

また ゼウスは 数多(あまた)を育むデメテルデーメーテール)の臥床(ふしど)に入られ

彼女は 腕(かいな)白いペルセポネ(ペルセポネー)を生まれたが アイドネウス(ハデス ハーデース)が彼女を

母親のもとから 攫(さら)っていかれた 賢いゼウスが授けられたのだ.

さてまた ゼウスが髪美しいムンエモシュネ(ムネーモシュネー)に情けをかけると

彼女からは 黄金の冠つけた 詩歌女神(ムウサ ムーサ)たちが生まれた 九人の方々で

彼女たちは 宴と詩歌の楽しみを愛でたもう.

レト(レートー)は アポロンアポローン) 弓矢を悦ぶアルテミス

天の裔の神々(ウラニオネス)のなかでも とりわけ愛らしい子供たちを生まれた

神楯(アイギス)もつゼウスと 情愛の契りして.

いちばん最後に ゼウスは ヘラ(へーラー)を 咲き匂う花嫁となさった.

彼女は ヘペ アレス エイレイテュイアを生んだ

神々と人間どもの王者と 情愛の契りをなさって.

 

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