本音のコラム
東京新聞 2018年(平成30年)5月23日(水曜日)
反則の構造 斎藤美奈子
①監督が全体的な方針や方向性を示し,
②コーチが「相手のクオーターバックを一プレー目でつぶせ」などの具体的な指示を出し,
③他の選択肢がないところまで追い詰められた選手が,悩みながらも「つぶしにいくから(試合で)使ってください」と申し出る.
悪質なタックルに及んだ日大アメフット選手の会見は,旧日本軍の上官と兵士の関係を連想させるものだった.
いや,日本の組織にはいまもこのような命令系統,役割分担で動いているところが多々あるのではないか.
財務省での決裁文書の改ざんも,防衛省での日報の隠蔽(いんぺい)も,森友問題や加計問題にも同様の三段構えの構造を感じる.
森友学園への国有地売却問題で,文書の改ざんに関与した近畿財務局の職員は,自殺に追い込まれた.彼の立場は③の選手に重なる.
しかし,虚偽公文書作成の疑いで刑事告発された,②のコーチに当たる佐川前国税庁長官は不起訴になり,さらに①の監督に相当する財務大臣や総理大臣は権力の座に座り続ける.
不祥事が発覚したとみるや,責任を現場に押しつけ,自分は命令していないと主張する最高責任者.上を慮(おもんばか)って下を守ろうとしない中間管理職.
省庁も大学も同じなのだろうか.
日大選手の会見は,追い詰められた兵士の立場と心情を図らずもあぶり出した.
真実を語った彼の勇気を見習いたい.
(文芸評論家)