わが家の前の道路では,電柱は,歩行者にとって心強い味方.歩行者を忘れたとしか思えない「無電柱化」の動きには,憤りすら感じます.歩行中に車にはねられて死亡した高齢者の割合が突出している日本.過去の日本人が想定していなかったような車社会の中で,「歩行者優先の生活道路」をどのように整備すべきかをまず考えるべきではないでしょうか?

わが家の前の道路.

 子供の頃は道で遊ぶこともでき,散歩もゆっくりできる生活道路でした,

今や,時間によっては渡ることに危険も感じる道に.子どもの飛び出しは怖いし,高齢者の場合,歩行自体にも不安を感じます.車が多くなりました.

道幅はといえば,車二台がやっとすれ違うことができる道路で,車がすれ違うときに歩行者の居場所はありません.

 

ただし,助かる場所があります.

それは電柱の横.

 ここにいれば車は近寄ってきません.また,すれ違うために,どちらかの車は電柱の手前で停止して,対向車をやり過ごします.結果として一旦停止の標識にもなっているし,短い歩道?避難所?を提供してくれています.

 歩道の設置が困難な昔ながらの生活道路では,電柱は,歩行者の頼もしい見方です.わが家の前の道路を何とか独力で車椅子で通る方がおられますが,電柱は,おそらくこの方も守ってくれています.

 

交通死の26%、高齢歩行者 

欧米の3~9倍

交通事故の死者に占める「歩行中に車にはねられて死亡した高齢者の割合」が,世界的に突出して高いという新聞報道がありました(東京新聞2018.4.14夕刊).

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018041402000242.html

「一九六〇年代以降の自動車化の流れで,歩行者しか想定していなかった狭い生活道路に車が入り込んだ.

歩行者と車の空間が入り交じったことが、高齢歩行者の事故が増えた一因ではないか」

との専門家の方の意見も併せて載せられていました.

 

無電柱化の動き

その一方,「無電柱化新時代」の旗を掲げ,「今後より狭い道路を無電柱化するためには他の手法を積極的に検討しなければならない」とする動きも.例えば,

日経地方創生フォーラムシンポジウム【基調講演】松原 隆一郎 氏 無電柱化新時代を迎えて

http://bizgate.nikkei.co.jp/innovation/symposium/symposium11/014605.html

 

「今後より狭い道路を無電柱化するためには他の手法を積極的に検討しなければならない」と,この短い要約記事にも書かれていました.

狭い道路も無電柱化する?

冗談ではないようです.狭い道路も車優先道路としたいようです.

 

 冒頭に記したわが家の前の道路状況を考えたとき,歩行者を忘れたとしか思えないこのような「無電柱化」の動きには,憤りすら感じます.

わが家の前の道路で,現状のまま電柱だけなくなれば,歩行者を守ってくれる盾がなくなるばかりか,車の走行速度もずっと速くなり,高齢者・障害者が数段歩行しづらくなることは目に見えています.

 

「景観」「防災」(この二つが無電柱化の目的になっているようです)のためにすべきことは他にもあるでは?

現在の日本では,都市部の電柱は,街に結構なじんでいるような気がします.少なくとも,景観対策の第1番目に置かれるような案件ではありません.

地震で電柱が倒れるというのであれば,倒れないようにすればすむこと.埋め込むよりずっと費用は安いし,迅速な対応も可能では?

もし,単に欧米に倣えというのであれば,欧米と日本の道路事情を無視した乱暴な提言.

オリンピック対策というのならとんでもない.

経済対策(新規公共事業)というのなら,税や電気料の無駄づかいはやめて頂きたい

 

「無電柱化」の前にすべきこと.

過去の日本人が想定していなかったような車社会の中で,「歩行者優先の生活道路」をどのように整備すべきかを,まず考えるべきではないでしょうか.

高齢者の死亡事故の抜本策も,その中から見えてくるような気がします.電柱をどうするかはその後の話.

東京新聞の記事にも,残念ながらこのような視点からの提言はありませんでした.

 

 

以下に,引用した記事を転載させて頂きます.

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東京新聞2018年4月14日 夕刊

www.tokyo-np.co.jp

【社会】

交通死の26%,高齢歩行者 欧米の3~9倍

 交通事故の死者のうち,歩行中に車にはねられて死亡した六十五歳以上の高齢者の割合が26・9%に上ることが,警察庁のまとめで分かった.米英仏独の各国と比べて約三~九倍高く,同庁が対策に乗り出している. (奥村圭吾)

 

 警察庁は発生から二十四時間以内の死者数を集計しているが,国際比較のため,死亡事故の期間を長くとらえる欧米で一般的な三十日以内の死者数も調べている.

 

 国内の昨年一年間の三十日以内死者数は四千四百三十一人(前年比5・7%減)で,統計のある一九九三年以降最少.内訳は六十五歳以上が二千五百六人(56・6%)を占め,その中でも歩行中の死亡事故は26・9%の千百九十二人に達する.一方,欧米各国は最新の一六年調査では一桁台で,日本が突出して高い.

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 総人口に占める六十五歳以上の割合(高齢化率,一五年)は日本の26・6%に対し,米英仏独は14・9~21・0%.自動車専用道路が多く整備されている欧米は,自動車と歩行者の分離が進んでいるなどの面もある.それでも,日本の高齢者の交通事故死者が目立っている.

 

 各都道府県警では,高齢歩行者の事故を減らそうと,右左折車が青信号の横断歩道に侵入しない「歩車分離式信号」や,青時間の残り時間を表示する歩行者用の信号,最高時速三十キロの区域規制を行う「ゾーン30」を導入するなどの対策を進めている.各署レベルでは,体験型交通安全教室の開催や,歩行者の横断を妨害する車の取り締まり,反射材の着用促進などを積極的に行う.

 

 公益財団法人「交通事故総合分析センター(ITARDA)」(東京)の佐藤弘道・業務部次長は「一九六〇年代以降の自動車化の流れで,歩行者しか想定していなかった狭い生活道路に車が入り込んだ.歩行者と車の空間が入り交じったことが,高齢歩行者の事故が増えた一因ではないか」と分析.「日本は海外に比べて歩行者優先の意識が乏しい」と指摘し,「高齢歩行者に道を譲ることができる運転手の教育と,衝突被害軽減ブレーキや自動運転車などの開発に取り組む自動車メーカーの技術革新が,対策の両輪」と話す.

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日経地方創生フォーラムシンポジウム

bizgate.nikkei.co.jp

【基調講演】松原 隆一郎 氏 無電柱化新時代を迎えて

2017年9月28日

東京大学大学院 教授

松原 隆一郎 氏

 

 電線の地中化は欧米の主要都市で19世紀から始まり,ロンドンやパリは無電柱化率100%を保っている.近年ではソウルが46%,台北も駅周辺に限れば95%と,発展めざましいアジアの諸都市でも急速に進み,日本は最も進んだ東京23区で32%,区外を含めれば10%に届かず,取り残された状態にある.これまでの無電柱化の手法は電線共同溝が中心で,コストが高い,事業者と自治体の調整が難しい,技術開発が進まない,住民の理解が得られないなどからはかばかしく進捗しなかった.けれども電線共同溝が採用されるのは歩道幅が片側2.5㍍と道路幅の広い国道や都道に限られ,今後より狭い道路を無電柱化するためには他の手法を積極的に検討しなければならない.

 そうした課題を受け成立した無電柱化の推進に関する法律には2つの特徴がある.第1条の目的には「災害の防止,安全・円滑な交通の確保,良好な景観の形成」とあり,これは電柱・電線が歩行者や住民にとって「外部不経済」であることを指摘している.阪神淡路大震災では電柱の9割が倒れ消防や復興の妨げとなった.首都直下型,南海トラフなどの大震災の到来が想定されてこなかったことが電柱林立の一因であり,東日本大震災を経て,根本的に発想を変えねばならない.

 また法律の第5条には,「事業者は主体的に電柱または電線の道路上における設置の抑制および撤去を行い,技術開発を行う」とある.電線共同溝による無電柱化は国がリードしてきたが,外部不経済であればその解消は事業者がリードしなければならない.それには技術開発が必須だ.事業者が技術を開発するのみならず,他社からの技術導入も進めることになろう.より優れた技術を持つ会社が競い合って無電柱化に参入するならば,無電柱化は成長産業ともなる.国は認証制度を設け安全性を確認しつつ,民間企業に競争を促すべきである.

 今後はどの道路で無電柱化を進めるのかについて,各自治体が条例で占用禁止の条件を指定していくことになる.電柱の新設禁止を打ち出した東京都の条例は,自治体間における条例制定競争の口火を切るものと期待されている.