アナザストーリー 運命の分岐点
「オードリーとローマの休日～秘めた野心 貫いた思い～」
（１）〜（３）まとめ +（４）
（１）http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/11/21/015528
（２）http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/11/27/011230
（３）http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/12/03/012445
「オードリーとローマの休日～秘めた野心 貫いた思い～」（１）〜（３）
スクリーンの妖精．
ご存じオードリー・ヘップバーン．
その代表作と言えば，これまたご存じ「ローマの休日」
だがあなたは知っているだろうか．彼女の本当の素顔を．日本初公開のプライベート映像と，新たな証言から，あのオードリーの知られざる野心に迫る．
60年たっても愛される「ローマの休日」．こんな映画，他にはない．
運命の分岐点は，1952年6月23日．ローマの休日の撮影が始まった日です．今から65年も前ですが，この時，オードリーを間近で見ていた人物に，貴重な話を聞くことができました．
視点１ メイクの息子ジャンネット・デ・ロッシ 「眼力（めぢから）」で勝負すると決めたオードリー
ジャンネット・デ・ロッシ （75歳）．イタリアのみならずハリウッドの大作を多数手掛けるメイクの第一人者だ．
4代続く，映画一家のデ・ロッシ家．「ローマの休日」には父がメイク，母がヘアスタイリストとして参加した．当時10歳のジャンネットは，撮影現場でオードリーの並々ならぬ覚悟を目の当たりにした．
ヒロインのプリンセス役をさがすために欧米各地でオーディションが行われ, 回しっぱなしのカメラに誰もが戸惑う中，自然に演技をして大役を勝ち取ったオードリー．
ロンドンの舞台に出ていたところを，財閥の御曹司に見初められ、婚約．撮影後に結婚する予定で，ローマのブティックにウェディングドレスを注文してあったが破棄した．全ては，映画のために．
並々ならぬ覚悟で撮影に臨んだオードリー．実はその現場，とてつもなく過酷な状況だった．
その年のローマは，平均気温36℃の記録的猛暑だった．屋内のシーンでも，熱中症が続出．俳優陣も大汗をかいてはメイクのやり直し．だが，オードリーだけは違った．
ジャンネット・デ・ロッシ「親父が『汗をかくから，水を飲み過ぎないように』って言ったら，彼女，一滴も飲まないんだ．『すっげえな〜！これがプロってやつだな』と思ったよ．
さらに， “90テイクマン”と呼ばれるワイラー監督．
２分程度のシーンに，ワイラーはなんと６日間もかけたという．
Birch Trees: The Spanish Steps in Rome + The Roman Holiday ローマの休日 - Wikipedia
この異常な完璧主義の前に，ロケは延びに延び，カメラマンも交代するという異例の事態．
しかし，オードリーは，一切弱音を吐かなかった．そして，ワイラーが仕掛けたいたずら，台本にない「真実の口」の場面．
ここでは，最高のリアクションを見せて，監督の一発OKを引き出した．
Birch Trees: The Spanish Steps in Rome + The Roman Holiday File:Audrey Hepburn and Gregory Peck at the Mouth of Truth Roman Holiday trailer.jpg - Wikimedia Commons http://www.lsw315.com/article_1382 Audrey Hepburn images Audrey Hepburn & Gregory Peck in "Roman Holiday" wallpaper and background photos (16043170)
また，「映画のために髪を切ったプロ根性」と絶賛した人もいたが，
Audrey Hepburn images Roman Holiday wallpaper and background photos (824667)
ジャンネット・デ・ロッシ「あれはカツラだよ．だって，何テイクも撮る監督だぜ？『もう一回切って』って言ったらどうする？うちのおふくろが幾つもカツラを準備してたんだ」
オードリーの本当の覚悟を示すのは髪型ではないという．
ジャンネット・デ・ロッシ「まゆ毛を見てごらんよ．オーディションの時と映画の時では，ずいぶん違うでしょ？これが全ての鍵なんだよ」
プライベートのオードリー・ヘプバーン 写真 - Audrey Hepburn Gallery - Audrey Hepburn images Roman Holiday wallpaper and background photos (824667)
オードリーがメイク全て任せたアルベルト・デ・ロッシの手によって生まれた新しい眉．GULL WING（カモメの翼）と名付けられた．
このカモメの翼がもたらしたものとは---
ジャンネット・デ・ロッシ「眉尻が細くなることで，眼の外側（眉尻側の眼と眉の間）に余白ができる．その余白にだけアイシャドーを施す．これが効くんだ．メイクは眼の外側だけでいい．あの大きな眼を際立たせてやれば，あとはみんなイチコロさ」
『眼よ．眼は心を表すから，眼のメイクが一番大事なの』
彼女は「眼力（めぢから）」で勝負すると決めた．
そして，オードリーがこの映画で得た最大の武器こそ，『眼』だった．
３ヶ月に渡る撮影の末，映画は無事完成．
完成試写会の後，監督のワイラーはこう言った．
「彼女を見ていたら，自然と涙が出てきた．面の皮が厚くなったこの私がだ．
私には分かっていた．あっという間に世界中が彼女に恋してしまうって．この映画に関わったわれわれ全てがそうだったように」
後の結果はご存じの通り．
オードリーは初主演にしてオスカーを獲得．彼女は一言「出来過ぎです」と述べた．演技をどれだけ絶賛されても，謙遜し続けたオードリー．
だが記者に「あなたは世界一美しい眼の持ち主だ」と称賛されたときには，こう答えた．
「いいえ，世界一美しい眼のメイクです．それもみんなアルベルトのおかげよ」
視点２ 監督の娘ジュディ・ワイラー “90テイクマン”ウィリアム・ワイラーの願い
ジュディ・ワイラー．当時十歳，子役として撮影に参加していました．
Hell On Frisco Bay: An Interview With Judy Wyler Sheldon
今では映画祭のプロデューサーとして，忙しく働くジュディ．数多くのスターと会ってきたが，10歳で出会ったオードリーは別格の存在だ．
ジュディ・ワイラー 「だって，彼女，こんな子どもの私も気遣ってくれたのよ．みんな仕事の事ばっかりに夢中なのに．彼女だけは私の目を見てキチンとお話ししてくれたの」
彼女は父の背中を見つめる中で，この作品に父が込めた強いメッセージを感じ取っていました．
ローマの休日は単なる甘いラブストーリーではなかったのです．
当時，全米で吹き荒れていた共産主義者排斥運動（McCarthyism）．
ジュディ・ワイラー「父はあのころハリウッドにかなり嫌気がさしていました．『赤狩り』のせいでお上の認める映画ばかりになっていましたから．連中の目が届かない外国に出たい！っていつも言ってましたよ」
ジュディ・ワイラー「映画会社の出資が決まるとすぐに父は『赤狩り』で疑いをかけられた人を何人も雇ってローマに連れて行ったのよ」
例えば，アカデミー賞助演男優賞にもノミネートされたカメラマン役のエディ・アルバートは，妻の共産主義者疑惑で騒がれた人物．
Audrey Hepburn images Roman Holiday wallpaper and background photos (824692)
ジュディ・ワイラー「最初，父は『新人』って事にこだわっていただけなの．誰も見たことのない人．とにかく映画会社の連中が口出ししてこない，新人がいいって．でもそこに，あのオードリー・ヘップバーンが来たのよ．私だけじゃなく，みんなが見とれちゃった．現場に新鮮な風が吹いて，太陽みたいにみんなを照らしたの．まさにパーフェクトなマッチングだったわ」
ジュディ・ワイラー「空襲から逃れた人々が祈りをささげた壁．これを見て父の心は動きました．『赤狩り』から逃げることよりもっと大切なことがあるって気づいたの．だから，このシーンを入れた．伝えたかったのは，それぞれの立場で戦争の記憶を持つ私たちだけど，手を携えて未来へ進もうという事．『せっかく戦争が終わったのだから』ってね」
Roman Holiday - Joyless Creatures
ワイラーの願いが最も色濃く表れているのは，終盤のこの場面だという．
記者「国と国との友好の見通しについてどうお考えでしょうか？」
オードリー・ヘップバーン「必ずなし得ると信じます．人と人との友情を信じるように」
https://www.youtube.com/watch?v=73Ujqvd4OZg
グレゴリー・ペック「おそれながら，自社を代表して申し上げます．妃殿下のご期待は決して裏切られることはないと」
Oscar Vault Monday – Roman Holiday, 1953 (dir. William Wyler) | the diary of a film history fanatic
ジュディ・ワイラー「このシーンは，父の一番大事な願いを伝えています．国のレベルの結びつきだって，結局は全て人と人との友情によるものだと．どんな状況でも友情だけは失ってはいけないと．
でも，なかなかいないわよ．その願いをこんなふうに表現できる女優は．本当に美しくて完璧な瞬間だと思います」
オードリーにはその後も名監督から出演依頼が殺到．彼女は瞬く間に世界一のスターとなる．
1968年，まさにキャリア絶頂の時，彼女は突如映画界から身を退いた．
果たしてそこにはどんな決意があったのか？
視点３ 息子ルカ・ドッティ “引退”のない生き方
彼女は，実に８年もの間，映画出演を断った．だがそれを「引退」と書いたマスコミに，厳しくこう返した．「私は引退などしない．私には引退もカムバックもない」それは一体どんな意味なのか？
答はローマの日々にある．
「いろんな場所で，母のことを話すんですけど，皆さん一番驚くのは，母が料理をしていたって所なんですよね．『やせてるから，食べないと思ってました』なんて．そんなわけないでしょ？実際は母は，よく食べる人だったんですよ．パスタなんて，３皿くらい食べていたんですから」
39歳でローマの医師アンドレア・ドッティと再婚．前の夫との間の子供も引き取った．彼女は結婚後の抱負を問われてシンプルにこう答えた．「私はローマの主婦になる」
かつて自分をスターにしたローマの街に家を構え，映画出演を全て断り続けたオードリー．
結婚の翌年にルカが誕生．ますます映画界からは遠ざかった．
映画にこそ出なかったオードリーだが，身を隠したわけではない．
今回ルカが見せてくれたホームビデオには，ルカを連れて堂々とローマの街を歩く姿が映っている．
Rare Audrey Hepburn — Audrey Hepburn with her son Luca Dotti in Rome,...
パパラッチ達の格好の被写体になったが，逃げも隠れもしなかった．
ルカ・ドッティ「小さい頃は，僕はパパラッチとケンカばかりしていました．でも，母は『逃げるより，撮らせちゃった方が早く済むわよ』なんて，実に慣れたものでした．今となってはパパラッチのおかげで母との写真がたくさんあって，有り難いと思ってますよ」
かつて，映画のためにウエディングドレスをキャンセルしたあのブティックにも，しばしばやって来た．
店主「時々ふらっとお店に入ってきて，アクセサリーを幾つか買って行かれました．スカーフとか手袋とか．もちろん，自分のお財布で．普通のお客さんと同じですよ．有名人だとか昔なじみだとか，そういう特別扱いは望んでいませんでした」
このまま，ずっと主婦を続けるのか？
そう世間が感じ始めた1976年．突如彼女は映画界に復帰する．
Robin and Marian | My journey with Audrey Hepburn
ジャンネット・ロッシ「『何で今になって復帰するんだ』って言う人もいたけど，実はベストのタイミングを計っていたんだと思うよ」
自分にしか出来ない使命のために，王宮に戻ったアン王女のように，今の自分にしか出来ない役柄を演じるべく，再び映画に出演した彼女．復帰後立て続けに４本の映画に出演する．
だがそこで立ち止まる彼女ではなかった．
「オードリーとローマの休日～秘めた野心 貫いた思い～」（４）
ルカ・ドッティ「驚きましたよ．まさかあんな事し始めるなんて」
59歳の時，映画の現場を離れ向かったのは世界の紛争地帯．
1988年，ユニセフの特別大使となったオードリー．スターが大使を務めることはそれまでもあったが，現場に乗り込んだのは彼女が初めてだった．
http://viola.bz/audrey-hepburn-goodwill-ambassador-of-unicef/
ルカ・ドッティ「母が大使を務めることで，アフリカの発展途上国への援助額は，２倍にも増えたんですよ．２倍です」
ルカ・ドッティ「母はとても明快に言っていました．『私の手に負えないことはある．例えば麻薬とか核戦争の危機とか．そういう事に私が一人でできる事はほとんどない．でもアフリカの問題は違う．私が動けばお金が集まるし，それで解決できる部分も多いからやりがいがあるのよ』」
自分の居場所は自分で決める．
「ローマの休日」で世界のスターになって以来，ずっとそう生きてきたオードリー．亡くなる４ヶ月前も，銃撃戦が続くソマリアの紛争地帯に向かった．
ルカ・ドッティ「さすがに引き留めようとしたんだ．『母さん．そんな所に行ったらボロボロになっちゃうよ』って．でも，そうしたらこう答えた．『なに言ってるの．あなたが小さい頃は大分あなたのせいでボロボロにされたわ．そのお返しだと思って．今は私の好きにさせて』って」
1993年１月20日．オードリー・ヘップバーン．この世を去る．
63歳での死．誰もがあまりに早すぎると嘆いた．
だが，息子のルカはそうではないと言う．
「人生って単なる年月の積み重ねではないと思うんです．息子の僕にとっても，世界中のファンの皆さんにとっても，彼女の生涯は決して物足りないものではなかったと思います．
だってハリウッドであれだけの名作に出て，子育ても立派にして，そして，世界の国々も巡った．その間，一度も立ち止まることはなかった．
僕は十分母から与えられるだけのものを与えてもらったと思うし，ファンの皆さんにも全てを与えていったと思います．母ほど充実した人生を送った人は，きっといないんじゃないでしょうか」
確かに濃密．確かに彼女でしかありえない63年の生涯．
その中で最も長い日々を過ごしたのが，息子と暮らしたローマだった．
ルカ・ドッティ「一番好きなのはラストシーンですね．だって，『どこの街が好き？』って聞かれて，『ローマが最高』って言うから」
https://www.youtube.com/watch?v=73Ujqvd4OZg
「ローマ．何と言ってもローマです．私はここでの思い出を生涯忘れることはないでしょう」
沢尻エリカ「自分の人生のかじを最後までしっかりととり続けたオードリー・ヘップバーン．女優として，一人の女性として，強く憬れます．
『ローマの休日』が公開されたのは60年以上前．何年たっても色あせない，不思議な魅力．とりわけ，オードリー・ヘップバーンの輝きが，『ローマの休日』を永遠の名作にしています．
この名作の魔法は今も幾つものアナザーストーリーを生み出しています」
ローマの休日を観て，ローマに行ってみようという人はご注意を．映画に出てきた名所はどこもかしこも人---人----人だらけだ．
真実の口の前に並ぶ観光客「『ローマの休日』を観て来たの」「カミさんが俺にウソをついてないか確かめに来たんだ」
あのオードリーと同じことが出来る．ほんの一時でも憧れをかなえてくれる街，ローマ．
そんな中でもとびきりの憧れをかなえた人がいる．
ローマ郊外に住むアマービレ・ソルダ．オードリーより三つ年下の今年85歳．
オードリーと彼女とは深く深く結びついている．
「オードリーが着るはずだったウェディングドレスを私が着たのよ」
ご記憶だろうか．ローマの休日撮影時には婚約していたオードリー．ウェディングドレスまであつらえたが婚約破棄．ドレスはキャンセルした．お題は全部済ませて．
「彼女はお店に『誰かドレスが必要な花嫁さんに差し上げて下さい．恩を売りたくないから名前は伏せてね』って伝えていったの．で．お店の人がお金がなくてドレスなしで式を挙げようとしていた私にくれたのよ」
こうして念願のウェディングドレスを着て結婚式の望んだアマービレ．
このドレスがオードリーのものだと分かったのは，47年後の2002年．イタリアのとあるテレビ番組の調査から．
その後，ドレスはチャリティーオークションに出し，今はアメリカにあるというが，オードリーとの不思議な縁に深い感謝の念を抱いている．
「もしオードリーに会えたら何て言いますか？」
「抱きしめて『本当にありがとう』って言うわ．貧乏な町娘だった私が，あんなすてきなドレスを着たなんて．お客さんも一杯着てくれて，本当にすてきな式になったのよ」
関わった人を皆今も笑顔にするオードリー．
「ローマの休日」が生んだ世界のヒロインはこれからも愛され続ける．
Audrey Hepburn images Roman Holiday wallpaper and background photos (824667)
http://roseviola.exblog.jp/iv/detail/?s=14154638&i=201010/05/29/b0186129_23495197.jpg
Audrey Hepburn images Roman Holiday wallpaper and background photos (824667)
