相模原事件で娘当時26歳殺害 母が本紙に手紙
東京新聞2017年(平成29年)7月24日(月)朝刊より
(七月)二十六日で発生から一年となる相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件で,娘=当時(二六)=を殺害された神奈川県内の母親が本紙に手紙を寄せ,誕生日の思い出や現在の心境を明かした.「さびしい思いでいっぱい」と無念さをにじませつつ,植松聖被告(二七)に対しては「絶対に許せない」と痛切な思いをぶつけた.
手紙全文
今から5年前,娘の喜ぶ姿を思いうかべて
お誕生日の日にメッセージカードをそえて
いろんな音の出るアンパンマンのピアノを送りました.
やまゆり園のスタッフさんが渡して下さり
早く中身が見たくて電池をさいそくし
いろんな音を出していたと聞いています
お便りにはステキなプレゼントをありがとう.
私は元気です ままも元気でね!! と書いて下さり
楽しんでもらえて,よかった!
でももう家に置いておくより,保育園で使ってもらった方が
きっと娘も喜ぶと思い,使ってもらうことにしました.
みんなにささえられて育ってきました.
いつの間にか,お姉さんになったね
もう送る事もなくなってしまい,さびしい思いでいっぱいです.
棺(ひつぎ)の中の表情は,幼少期と変わらず,色白で穏やかだった.しかし首元には,刃物で刺された痛々しい傷があった.約一年前の葬儀.母親が「これからも,娘と仲良くしてくれたことを忘れずにいてほしい」と気丈にあいさつすると,参列者からすすり泣きが漏れた.
五年前の娘の誕生日が,今も強く記憶に残っている.
〈中略〉
だが,突然の事件でピアノは遺品になった.そのまま家に置いておくより,楽しい思い出の場所で使ってもらおうと,娘がかつて通った神奈川県内の保育園に昨年秋に譲った.
保育園は,障害の有無にかかわらず希望者はだれでも受け入れる教育方針だった.娘は,宮崎駿さんのアニメ「となりのトトロ」などの音楽が大好き.他の園児と一緒に砂遊びや水遊びを楽しみ,絵のコンクールにも入賞した.卒園後も保育園の行事に参加するなど,交流を続けた.
「ピアノは大切に使っていきたい」.こう話す園長(七〇)は,来月行われる卒園生の同窓会でピアノとともに母親と娘のことを紹介し,語り継いでいくという.
〈中略〉
そして,植松被告に対しては園長を介してこう言った.
「いらない命はない.障害者が嫌いでも,決して傷つけたり殺したりしてはならない.許せない.絶対に」