イエローストン国立公園のオオカミ 再導入からおよそ40年の現状:「NHKワイルドライフ選▽アメリカ イエローストン 女王オオカミ 波乱万丈の生涯に密着」を手がかりに少し調べてみました.

6月12日のNHKBSワイルドライフは,

ワイルドライフ選▽アメリカ イエローストン 女王オオカミ 波乱万丈の生涯に密着

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ワイルドライフ - NHK

メスオオカミ ,女王“グレイ”の一生.心を揺さぶられる物語と映像でした.

ほぼ同様のストーリーはNHK総合ダーウィンが来た(451回)」でも「劇的!伝説の女王オオカミ」としてとりあげられ

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http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/broadcasting/detail.cgi?sp=p415

こちらは視聴しました.ご覧になった方も多いのでは?

グレイの波瀾万丈の物語はいずれ掲載できたらと思いますが,今回は,この番組のナレーションも拝借しながら,イエローストンのオオカミ復活計画についてすこし記載しようと思います.

 

 

イエローストン国立公園(NHKBSワイルドライフより)

アメリカ,北西部ロッキー山脈の中程にあるイエローストン国立公園.

1872年に指定された,世界初の国立公園です.

面積は東京都の2.5倍ほどもあります.

ここは世界最大級の火山地帯.今の火山活動は続き,あちこちから,温泉が湧き出します.

ロッキーに降る雨や雪が流れ込み,美しい峡谷を作り出しています.1978年には世界自然遺産に登録されました.

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世界自然遺産第1号! イエローストーン国立公園(TravelBook) イエローストーン国立公園 - Wikipedia ロッキー山脈っYahoo!知恵袋

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https://www.travelbook.co.jp/topic/11241 イエローストーン国立公園 - Wikipedia Yellowstone National Park - Wikipedia

イエローストンの手つかずの自然環境は,多くの生き物たちを育んでいます.

体重一トンにもなるアメリカバイソン

千頭ほどが生きてくための十分な草があります.

A large bull bison stands on a hill covered in some snow backed by blue sky

Mammals - Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

シカの仲間ワピチ

およそ三万頭がくらし,イエローストンで最も多い,大きな角を持った草食動物.

A bull elk with large antlers bugles in front of yellow leaves

Mammals - Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

体長1メートルほどのコヨーテ

頭がよく,ジリスやノネズミなどの小型の生き物を巧みに捕らえます.

A canine with large pointy ears looks at the camera

Mammals - Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

 

豊かな大自然の恵みによって,生き生きと暮らす生き物たち.そうした中で陸の支配者として頂点に立つハンターがいます.

ハイイロオオカミです.

大きいものでは体長1.5メートル.体重は70キロ.毛の色は兄弟であっても黒や灰色など,様々です.

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Mammals - Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

 

現在この国立公園では,100匹ほどが暮らしています.

 

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Wolves - Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

 

オオカミ再導入・復活計画

今でこそ多数が生息していますが,およそ40年前,オオカミはイエローストンから全て姿を消しました.その理由は家畜を殺す害獣とみなされたためです.

次々と捕らえられ駆除されました.

そして1970年代,イエローストンのオオカミは絶滅したのです.

すると異変が起こりました.天敵のオオカミがいなくなったため,獲物となっていたワピチが急増したのです.草が食べ尽くされ,大打撃を受けた草原.更にコヨーテも急増し,生態系が崩れました.

そのバランスを取り戻そうと,カナダからオオカミが運ばれました.1995年と96年,合計31匹が放たれました.

復活したオオカミたちは次々とワピチを獲物にし,生態系が元に戻りはじめました.

 

その後の推移(〜2012年)

オオカミ再導入で生態系は? 米イエローストン国立公園の試み 100頭近くで推移

朝日新聞 2012年12月5日付夕刊7ページ NIE教育に新聞を:朝日新聞社インフォメーション

 

米イエローストン国立公園へのオオカミ再導入は,野生動物をめぐる「20世紀最大の実験」と呼ばれた.この地域でオオカミはいったん絶滅したが,1990年代にカナダから連れてきた結果,保護の必要がないまでに増え,2012年9月末には絶滅危惧種の指定を解除された.こうした試みは生態系にどんな影響を与えたのか.

 

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 イエローストン国立公園は四国の半分くらいの広さだ.国立公園局オオカミプロジェクト担当の生物学者ダン・ステイラーさん(38)によれば,現在,公園内には約90頭のオオカミがいる.

 1995年と96年に「再導入」された計31頭は5年間で100頭を超えた.

「獲物となるワピチ*がオオカミのいない環境に慣れ,無警戒だったことが大きい」と指摘する.

*(ウェブ上の原文ではエルク(ヘラジカ)と書かれていましたが,北米では,ワピチをエルクと呼んでいますので,書き換えました yachikusakusaki)

 

 だが,2005年にはウイルス感染症の犬ジステンパーが流行して前年から3割も減った.なわばり争いなどもあり08年に再び減少.

ここ3年は100頭を下回っているが,ほぼ同じ水準が続く.ステイラーさんは「現在の状態が環境に応じた適正な数」とみる.

  ロッキー山系北部にいるオオカミは現在,公園内の約90頭を含め約1700頭が確認されている.

  今年9月末で公園の大部分が含まれるワイオミング州絶滅危惧種の指定を外れた.そのため,公園を一歩外に出ればオオカミは駆除や狩猟の対象だ.ワイオミング州では10月以降,50頭余りを目標に狩猟が実施されている.11月には調査のための首輪をつけた複数のオオカミが,公園のすぐ外で射殺される出来事も起きている.

 

 ▽ワピチは減少,植生は回復

  オオカミの再導入で公園には様々な変化が起きた.

  ワピチは公園北部に一時1万2千頭いたが,現在4千頭に減った.ただ,オオカミの増減とは必ずしも一致しない.「気候の影響や公園外での狩猟,クマなど他の動物による捕食など様々な要因が関係している」という.

  ポプラ,ヤナギなどの植生は回復した.その理由として,木の芽や樹皮を食べるワピチが減ったことが考えられるが,ステイラーさんは「議論の余地がある」と慎重だ.

 オオカミよりひと回り体の小さいコヨーテへの影響は面白い.オオカミとコヨーテは同じ肉食で競争関係にある.オオカミはコヨーテを食べないが,襲うことはある.そのため,コヨーテの数はいったん減少したが,また増えているという.「賢いコヨーテが適応してきたようだ.オオカミからうまく逃れるようになり,彼らが食べ残した死骸にありつくこともある」

 

▽園外の群れが頭数維持の鍵

  オオカミは今後,近親交配が進んだり,数が減ったりする心配はないのか.

 国立公園局が10年間,公園内のオオカミの遺伝子を分析した結果から,「健全な状態を保てるだけの遺伝子交雑がある」との結論が出たという.オオカミは10頭前後の群れをつくって生活しており,独立した子ども同士が新たな群れをつくる.公園の境界を越え自由に移動もできる.数百キロ単位で移動することも珍しくないという.

  ただ,公園の外にいるオオカミが極端に減ればどうなるかわからない.

 米魚類野生生物局によれば,11年に狩猟や駆除で死んだオオカミは500頭近くに上る.一方,同年のオオカミによる家畜の損失は牛193頭,羊162頭など.被害補償のため私的な基金や州当局から約30万ドル(約2400万円)が支払われた.

 再び「絶滅危惧」状態に陥らないため,モンタナ,アイダホ,ワイオミングの各州政府は公園外で100~150頭を維持する管理計画を立てている.ただ,ステイラーさんは「仮に公園外で400頭まで減った場合,遺伝的な健全性や個体数が保たれるか不安がないわけではない」と話している.

 米魚類野生生物局によれば,ロッキー山系北部全体では05年に1千頭を超え,11年末には1774頭.保護の必要がなくなったとして,今年9月に最後に残っていたワイオミング州絶滅危惧種の指定を解除した.国立公園外では各州政府の管理のもとで駆除や狩猟が行われている.一方,地元の野生動物保護団体などは指定解除の無効を求めて連邦裁判所に裁判を起こしている.

 

◇運命握るのは人間 ステイラー氏

  米国でもオオカミの再導入には慎重論がありました.ただ,「自然はそのままであるべきだ」とか「人間にとって都合がよくないかもしれない」という理由で,再導入すべきではないという意見には賛同できません.米国でも日本でも,オオカミを絶滅に追いやったのは自然ではなく,人間だからです.結局のところ,私たち人間がオオカミの運命を握っています.

  米国では,オオカミは復活させるが,負の影響は最小限にするという道を選びました.そのためにはオオカミを管理する必要があり,重大な責任を伴うのです.

(イエローストン国立公園〈米ワイオミング州〉=行方史郎)

 

 

イエローストンのオオカミ2017

Wolves - Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

数 number

An estimated 528 wolves resided in the Greater Yellowstone Ecosystem as of 2015.

2015年時点でより広範囲のイエローストン生態系に528匹が生息していると見積もられる

As of December 2016, there were at least 108 wolves in the park. Eleven packs were noted.

2016年12月時点で,少なくとも108匹のオオカミが公園内に生息しており,11の群れが確認できた.

In general, wolf numbers have fluctuated between 83 and 108 wolves from 2009 to 2016.

一般的にいえば,2009年から2016年の間,オオカミの頭数は83匹から108匹の間で変動していた

大きさと生態 Size and Behavior

26–36 inches tall at the shoulder, 4–6 feet long from nose to tail tip.

肩までの高さ66〜91cm,鼻から尾の先端まで122〜183cm

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オオカミとコヨーテ・アカギツネの比較

Wolves - Yellowstone National Park (U.S. National Park Service)

Males weigh 100–130 pounds, females weigh 80–110 pounds.

オス 46〜60kg, メス 36kg〜50kg

Home range within the park is 185–310 square miles (300– 500 km2); varies with pack size, food availability, and season.

縄張りは300– 500 km2(群れの大きさ,食糧.季節で変化)

Average lifespan in the park is 4–5 years. Average lifespan outside is 2–3 years. The oldest known wolf to live here was 12.5 years.

平均寿命 4–5 年(公園内), 2–3 年(公園外).知られている最高寿命 12.5 歳

Two main color variations exist in Yellowstone in approximately equal proportions: black and gray.

毛色:イエローストンでは黒と灰色がメイン

Prey primarily on hoofed animals. In Yellowstone, 90% of winter diet is elk; summer prey consist of more deer and smaller mammals.

餌:主に偶蹄類動物.冬場は90%がワピチ.夏は鹿や,より小さな動物が増える.

Mate in February.

交尾は2月

Give birth to average of five pups in April after a gestation period of 63 days.

4月に平均5匹の子どもを産む.懐妊期間は63日.

Young emerge from den at 10–14 days; pack remains at the den for 3–10 weeks unless disturbed.

子どもは,10〜14日で巣穴から出てくる.妨害するものがなければ,群れは3〜10週間は巣穴にとどまる.

Leading cause of death for wolves within the park is death by other wolves.

公園内での1番目の死因は他のオオカミによるもの

Leading cause of death for wolves outside the park is human-caused.

公園外での1番目の死因は人間が引き起こしたもの.