アヤメ(2)
アヤメはわたしが大好きな花の1つです.
しかし,どうも紛らわしいことが大好きな花のようで---
紛らわしさ1. アヤメ / カキツバタ / ハナショウブ---アヤメ科の花々
紛らわしさ2. アヤメとカキツバタ
紛らわしさ3. アヤメと菖蒲(しょうぶ)
菖蒲と書いて「あやめ」とも「しょうぶ」とも読むなんて.
姿形に似た花が多いだけではなく,そもそも名前の表記自体,紛らわしい花ですね.アヤメは.
▽もともと現在のショウブが,「アヤメ」と呼ばれていた.その後ショウブからあやめの名前を奪った?のが現在のアヤメ科アヤメ.
▽菖蒲の漢字自体にもややこしい歴史が:中国において「菖蒲」と表記される植物は日本で「セキショウ(石菖)」と呼ばれる植物.
とのこと.
これについては,
重井薬用植物園 | 園内花アルバム ショウブ(ショウブ科)Acorus calamus
に詳しい解説があります.画像共々,文章もそのままお借りして掲載させて頂きます.
ショウブ(ショウブ科)Acorus calamus
「ショウブ」とは、漢字では「菖蒲」と書きますが、これは「あやめ」とも読みます。
大変ややこしい話なのですが、
実は本来「あやめ(あやめぐさ)」と呼ばれていたのは本種の方で、
アヤメやカキツバタ、ハナショウブ類などアヤメ科アヤメ属の植物を「あやめ」と呼ぶようになったのは、18世紀以降とされます。
過渡期にはショウブ類と区別するため、現在のアヤメ属の植物は「はなあやめ」と呼ばれていたようですが、
いつの間にか「あやめ」と言えば花の美しい方ということになり、本種の方は混同を避けるためか、漢字の音読みである「しょうぶ」と呼ばれるようになったようです。
しかし植物名以外では、「あやめ」の読みは現在でも様々に残っており、端午の節句は別名「菖蒲(あやめ)の節句」とも言いますし、「菖蒲酒」も「しょうぶざけ」ではなく「あやめざけ」と読むのが正確です。
その後、アヤメ属の植物の中でアヤメそのものやカキツバタと区別するため、ハナショウブ類を「ショウブに葉が似ていて美しい花が咲く植物」という意味で「はなしょうぶ」と呼ぶようになったようです。
さらにややこしい話があり、実は中国において「菖蒲」と表記される植物は「セキショウ(石菖)」の方で、「菖蒲」について記述された書物が日本に伝わった際、誤って本種が「菖蒲」とされたようです。中国では本種は「白菖」と表記されます。
現在では、本種が身近な植物では無くなったためもあるのか、良く栽培されているハナショウブ類の方を端午の節句の「ショウブ」であると勘違いされている人が大半となっているようです。当園に来られる見学者の方に聞いてみると、だいたい半数をやや超えるぐらいの方が勘違いをされているようです。
ハナショウブには本種のような芳香はありませんので、お湯に浮かべても本来の「菖蒲湯」のようなリラックス効果などは期待できません。そのうち、また本種がアヤメ科のハナショウブに「ショウブ」の名を譲ることになり、本種のことを「本しょうぶ」とか「真しょうぶ」と呼ばなければならない時代が来るかもしれません。花の美しさでは到底勝てそうにはないですが、名前をアヤメ科に取られるばかりの本種が少しかわいそうな気がしてきます。
ショウブ 重井薬用植物園 | 園内花アルバム
セキショウ - Wikipedia 水草通販 > テラリウム用水草 > アコルス(セキショウ) POT CuoreFarm - クオレファーム
(セキショウは,「アコルス」の名で水生植物として人気のようです)
▽菖蒲を「あやめ」と読んで現在のショウブを意味している言葉
「菖蒲(あやめ)の節句」「菖蒲(あやめ)酒」以外に,端午の節句に関わる多くの事例が残っています.
例えば,,菖蒲の兜(あやめのかぶと),菖蒲の輿(あやめのこし),菖蒲の枕(あやめのまくら),菖蒲(あやめ)葺(ふ)く等々 日本国語大辞典.
これらの成句の菖蒲は「あやめ」と読みますが,全てショウブを意味しています.
あやめ葺(ふ)く,あやめ葺き http://www.kamoltd.co.jp/katalog/b-syoubu.htm
▽日本で植物にあてられた漢字が中国のものと異なる例
実はカキツバタも!
「杜若」は、本来はヤブミョウガという別種の漢名(「とじゃく」と読む)!カキツバタ - Wikipedia
植物にあてられた漢字が中国のものと異なる例は,このブログでもかって取りあげました.
「花の名を教えてくれた人 長田 弘」 とともに.長田弘「花の名を教えてくれた人」 - yachikusakusaki's blog
花の名を教えてくれた人
ショウブは菖蒲ではない.アジサイは紫陽花でない.
それから,ハギも萩ではない.
樹もそうなのだ.ケヤキは欅でない.
シラカバは白樺でない.ボダイジュも菩提樹でない.
日本の草や花や樹に当てられた漢字は,古いむかしの中国でまったく別の花や樹をいう名だった.
江戸の本草学者たちが誤ったのだというのだが,
たとえそうだとしても,ショウブは菖蒲,アジサイは紫陽花,ハギは萩だ.ケヤキは欅,シラカバは白樺,ボダイジュは菩提樹だ.
草や花や樹の漢名は,人がその名で,何を胸底に畳んできたか,
記憶の名,それも,微かな(かすかな)記憶の名,
誰とも頒つ(わかつ)ことのできない思い出の名,
そうして,ときにはすべて忘れてしまった忘却のしるしを,ありありと感覚させるのだ.
秋,花屋の店先で,深い紫紺の花束を見た.
リンドウは竜胆と書くのだと,遠い少年の日に教えてくれた人がいた.
竜胆が咲き出す季節の前にその人は逝った.
草や花や樹の漢名は,どこかに死の記憶を宿している.
その人について覚えてるのは,竜胆という心を染める花の名だけだ.
花の名には秘密がある.
花の名は花の名を教えてくれた人をけっして忘れさせないのだ.
長田弘「花の名を教えてくれた人」 - yachikusakusaki's blogに載せた植物名を,再度記載します.
萩 はぎ(中国ではキク科ヨモギのような植物)
中国ではハギは胡枝花(胡枝子)
椿 つばき(中国ではセンダン科のチン)
中国ではツバキは「山茶」
紫陽花 あじさい(中国では白楽天が名前が分からない花に名付けた造語)
桂 かつら(中国ではキンモクセイの仲間)
楓 かえで(中国ではフウ)
石楠花 しゃくなげ(中国ではバラ科の一種)
杜若 かきつばた(中国ではショウガ科の一種)
芝 しば(中国ではキノコなど)
欅 けやき(中国ではクルミ科落葉植物)
そして魚も:鮎 あゆ(中国ではナマズ) 鮭 さけ(中国ではフグ)
あやめぐさ(菖蒲しょうぶ)/ 万葉集
ほととぎす,いとふときなし,あやめぐさ,かづらにせむひ,こゆなきわたれ
霍公鳥(ほととぎす)、いとふ時なし、あやめぐさ、かづらにせむ日、こゆ鳴き渡れ 田辺福麻呂(たなべのふくまろ) (第十八巻 4035)
▽楽しい万葉集
霍公鳥(ほととぎす)よ,嫌な時など無いから,あやめぐさをかづらにする日には,ここに来て鳴き渡ってください.
▽山田卓三「万葉植物つれづれ(大悠社)」
ほととぎすよ,おまえを厭だと思ったことはない,あやめ草を頭に巻いて髪飾りにする五月五日には,ここを鳴いて通って欲しい.
このあやめ草はアヤメ科のアヤメではなく,ショウブだとわかります.ショウブは強い香気があり,邪気を祓うものとして五月五日の端午の節句には,頭に巻いたり,屋根の軒先にさしたり,浴湯に入れるなどする風習があります.