井川さんが中国の食材を使って味噌汁づくりに挑戦.試行錯誤してどうにかして出来上がったのですが---.日本の味噌汁のような味にはなりませんでした.感謝を込めて日本からもってきた味噌と出汁でアサリの味噌汁を作りました.「さっきの中国味噌汁と違っていい香り」 / 日本独自の発展を遂げた味噌は日本コメコウジがもつ独自の風味を生かしたもの(原田信男)

お味噌汁(4)

独自の発展を遂げ,和食の味覚体系を支える日本の味噌

1.「NHKBSプレミアム井川遥 驚きのみそ汁 一杯の幸せな旅」

hh.pid.nhk.or.jp

番組の初め,宮崎の味噌蔵と亀戸佐野みそ本店を井川遥さんが訪ねました.

 お味噌汁(1)  NHKBS井川遥 驚きのみそ汁 一杯の幸せな旅 - yachikusakusaki's blog

また,番組では日本の味噌のルーツをそのまま残していると考えられる大徳寺納豆の製造元も取材.

お味噌汁(3) 味噌汁の始まりは?  yachikusakusaki's blog

 

そして今回.

味噌のルーツを更にたどろうと,井川さんは本場中国へ渡りました.

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『井川遥 驚きのみそ汁 一杯の幸せな旅』BY 阿部櫻子NHK BSオンライン

 

井川さん「香港にやってまいりました.見上げると超高層ビルがあったりして,新しいものと古いものがほんとに面白い感じで混在していて,すごく生き生きした街ですよね」

井川さん.初めての香港.まず最初に向かったのは香港で有名なスープの専門店です.店内を見渡してみると,ほとんどのお客さんが同じスープを飲んでいました.一体どんなスープなんでしょうか?

具を見せて下さいとお願いしたところ,

出てきたのは蛇!さすがは香港.初っぱなから驚かせてくれます.美肌やレドックス効果が絶大というのを理由に井川さんにも一杯注文しました.

井川さん「ちょっと私脅されてきたんですよ.ふふふふ.」

井川さん「いや,全然飲みにくくないですね.私が思っていたイメージよりも大丈夫でホッとしました.ホントに煮込んだスープのうま味がギュッと詰まってて--」

「暖まるでしょ?結構ね.飲んだ後暖かく---」

井川さん「汗が,うん,かいてる」

 

その後井川さんが訪ねたのは老舗の味噌屋.一番人気があるものを出してもらいました.

「豆鼓(トウチ)」:豆鼓のほうが粒は小さいけれど,大徳寺納豆とそっくりで,大豆を発酵させて塩と水を加えて干したもの.味も大徳寺納豆と似ている.

「磨鼓(ミンチー)」:豆鼓を甘くした人気の味噌.日本の味噌に最も近い味と言われている.

井川さん「日本のお味噌にすごく近くなってる.このまま味噌汁にいけるのかな?」

 

磨鼓が作られている製造所へ.世界各国へ輸出している大手の味噌製造所です.京都の大徳寺納豆と同じように笠をかぶった瓶がずらっと並びます.瓶に入れているのは豆麹.大徳寺納豆と同じです.途中水に浸すのは古くからの作り方.数ヶ月で豆鼓より少し味が薄くなると言います.

しかし,中国では味噌をスープには使いません.

市場の買い物客1「味噌が違います.料理法も違ってきますよ」

買い物客2「中国で味噌汁なんて聞いたことがないわ」

 

その後,井川さんは香港の料理研究家を訪ねました.

呉煋姿(ジジ)さん.銀ダラをメインに使った中国料理を作ってくれました.磨鼓は元々辛いのですが,料理工程で甘みを加えるので特別な味わいになるとか.

材料は銀ダラ・アサリ・菜心(青菜).

味噌に欠かせないのが油!熱した油に直接お味噌を加えます.

ジジさん「全ての食材に味噌が絡まっておいしくなるんです」油で炒めて具材のうま味を味噌の中に閉じ込めるのが中国のやり方.

銀ダラとアサリのうま味が味噌と絡み合い,青菜のシャキシャキ感が調和した一品「ギンダラとアサリと青菜の味噌炒め」

 

続いて井川さんが中国の食材を使って味噌汁づくりに挑戦.

材料:磨鼓,干しエビ,干し貝柱,菜心,ネギ,生エビ,

作り始めて味見をする井川さん「お味噌の味が酸っぱいというか,日本のお味噌より独特の香りがある」

味を何度も確かめます.さらに豆鼓も加えて---「このニオイが---」

香りをよくするためにごま油も.最後にネギとショウガを加えて風味をよくします.『エビの井川流味噌汁』完成です.

煋姿さん「磨鼓の味は確かに特別です.全体的に甘い感じはシーフードの甘みでしょう」

試行錯誤してどうにかして出来上がったのですが---.

魚介の甘みと味噌がうまく絡み合わず,結局日本の味噌汁のような味にはなりませんでした.

 

最後に井川さん.感謝を込めて日本からもってきた味噌と出汁でアサリの味噌汁を作りました.

煋姿さん「さっきの中国味噌汁と違っていい香りがします.味噌がとってもいい香り」

味噌と出汁と具の見事なコンビネーション.味噌汁ってやっぱり日本の味なんですね.

 

2. 和食と和食調味料

:「原田信男著 和食とは何か(角川ソフィア文庫)」を要約・再編

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(1) 和食のイメージと特色 

和食とは日本人の食事の総称であり,一般的なイメージとしては,米のご飯に汁に漬け物がセットになっている.これに主菜と2つ程度の副菜が付いて,いわゆる一汁三菜が基本になる.こうした一汁三菜のスタイルは日本の歴史の中でつくりあげられた独自の食文化とみなすことができる.

そして,汁や菜の調味に出汁を用い,独自の発展を遂げた味噌や醬油で香りや風味を引き立てながら,自然の素材を活かした料理をつくりあげたところに和食の最大の特徴がある.しかも素材を大切にするところから生食が発達し,料理そのものに必要以上手を加えないという工夫がなされている.これらは,濃厚な乳製品を用いる西洋料理や,徹底的な加熱を中心とする中国料理とは,大きく異なるものと言えよう.

(2)和食調味料の特色:日本コメコウジがもつ独自の風味を生かした「穀醬」

アジアの米文化の中で最も重要な調味料は魚醤(小魚・甲殻類を樽に詰めて塩をまぶし発酵させたもの,タイのナンプラー,秋田のショッツル等)であるが,中国でダイズと出会うことで,穀醬が生まれたと考えられる.この穀醬が,今日の味噌・醬油の原型で,中国大陸南部,朝鮮半島,さらに日本では盛んに用いられるようになった.ただ,中国大陸・朝鮮半島では穀醬と魚醤が併存する形で調味体系がつくりあげられているのに対し,日本では穀醬が卓越しているという特徴がある.

出汁は和食最大の特色であり,日本的なうま味の源であるが,単に出汁によるうま味だけではなく,発酵という技術を利用して様々な調味料を考案し,これを巧みに用いて豊かな味覚を創造してきた.発酵とは微生物の介在によって引き起こされる現象で,酵母・カビ・細菌が関与するが,中でも和食の味覚にもっとも大きく関わるのは,日本独自のもので国菌ともされる日本コウジカビである.現在もいわゆるコメコウジとして販売されており,味噌や醬油あるいは酒・みりん・酢などの主要な調味料の製造に不可欠で,かつお節のカビづけにも利用される微生物である.日本コウジカビを用いた発酵技術の進展は日本がアジアモンスーンの温帯に位置することと深く関係する.

そして,発酵の基礎となる日本コウジカビを用いたコメコウジが広く普及しなければ今日のような和食の味覚はありえなかったと考えられる.麹は古代は「醬院(ひしおいん)」などで管理され,一方精進料理を作り続けてきた寺院でも生産されていた.ところが「本膳料理」が広まる室町期から戦国期にかけて,地方の村々でも生産されるようになった.戦国期の文献には,村に麹室があり,その管理を農民に任せたという記録もある.麹室は重要な財産であったようで,その売買の記録も残っている.村民はこのコメコウジを購入し,自家製の味噌や酒などを造っていた可能性が高い.

また,室町期は,醬や未醬にかわって「味噌」が史料に登場した時代でもあり,味噌を利用した加工食品が一般に出回るようになったのもこの時代である.醬油も室町期に記録があり,用いられていたことが想像される.しかし,煎り酒とともに高級な液体調味料であって,一般に登場するのは,醸造業が発展した近世になってからである.それまでは液体調味料として味噌を樽で造るときに浮き上がる液体を使用していた.

古代の醬院の段階では,輸入した穀醬をそのまま利用したものであったろう.しかし,上記のように日本の食文化の展開にともない味噌と醬油を独自なものとして発展させた.中国・朝鮮でも味噌・醤油の発展があったが,それらは日本のものとは微妙に異なる.日本の味噌・醤油は日本コメコウジがもつ独自の風味を生かしたものといえよう.そして,このような調味料の文化が,出汁に加えて更なるうま味を引き出し,和食の味覚体系をつくりあげたのである.