日本の味,かつお節. おいしさの秘密が海辺の森にありました.かつお節を燻す(いぶす)にはうってつけの薪が取れるのです. 繰り返し人が利用する明るい森.たくさんの生き物たちの楽園です. 切り株を残せば,再び森はよみがえります. 里山.それは人と生き物がともに暮らす自然.命響き合う美しい世界へとご案内しましょう. 「かつお節づくりが育てる照葉樹林」三重県志摩市 NHKBSプレミアムニッポンの里山

里山をかつお節が育てる?そして,かつお節を里山が支える?

初めて聞いたとき不思議な気がしましたが--

もう何年も前,「鹿児島県山川地区で生産されるかつお節製造にどのように里山が関わっているか」を調査研究するお手伝いをしたことがあります.

NHKBSプレミアム “ニッポンの里山 ふるさとの絶景に出会う旅「かつお節作りが育てる照葉樹林 三重県」”を,とても懐かしい思いとともに視聴しました.

 

www4.nhk.or.jp

ニッポンの里山は、日本各地の美しい田園風景を訪ね、その風景に秘められた、人と生きものの共生の物語を描いていきます。その土地ならではの絶景や、時間をかけて撮影した命の輝き、そして四季折々の人々の暮らし…4Kカメラも駆使した美しい映像も堪能してください。

かつお節作りが育てる照葉樹林 (三重県 志摩市)|NHK ニッポンの里山 ふるさとの絶景に出会う旅

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1. 日本の味,かつお節.

おいしさの秘密が海辺の森にありました.かつお節を燻す(いぶす)にはうってつけの薪が取れるのです.

繰り返し人が利用する明るい森.たくさんの生き物たちの楽園です.

切り株を残せば,再び森はよみがえります.

里山.それは人と生き物がともに暮らす自然.命響き合う美しい世界へとご案内しましょう.

 

「かつお節づくりが育てる照葉樹林三重県志摩市

海と森とが美しい風景を織りなす,三重県志摩市風光明美な浜の浜のたたずまいは古くから画家たちを魅了し,絵描きが集まる街として知られています.森と海と人が寄り添う風景が,息づいているのです.

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大王埼灯台(大王崎灯台)|伊勢志摩の観光スポットを探す|伊勢志摩観光ナビ ロケ地巡りの旅(ブラタモリ志摩編)|伊勢志摩をめぐるモデルコース|伊勢志摩観光ナビ

 

そんな町の一角,大王町波切(なきり)地区.

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三重県志摩市大王町波切の地図(34.27949519,136.89215589):マピオン

 

海辺で煙がただよう小屋を見つけました.

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かつお節のまるてん | 伊勢志摩波切から鰹節をお届けします。

 

その煙をたどってみると,小屋の奥に並んでいるのは,いくつものかまど.たくさんの黒い塊が煙に包まれています.

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かつお節作りが育てる照葉樹林 (三重県 志摩市)|NHK

そう,これはかつお節.

波切は味の良いかつお節の産地として,古くから知られてきました.

江戸時代から変わらない薪を使ったかつお節づくり.

燻すのは1日1時間.この作業をおよそ一ヶ月繰り返し乾燥させるのです.

 

出来栄えの決め手は,薪.近くの森で採れるウバメガシを使います.

火力が強く,日持ちが良いのが特徴.森の恵みと,海の恵み.そして職人の技が,じっくり時間をかけてかつお節を作り出しているのです.

 

森と海のつながりは,志摩の漁業にも生きています.この地方の漁師は,森がもたらすミネラルなどが,海を豊かにし,魚を増やすと考えてきました.人々は海辺の森を大切に守ってきたのです.

 

その奥は一年中葉が落ちない照葉樹林.かつお節を燻すウバメガシはそんな森で育っています.潮風や乾燥に強いウバメガシ.やせた土地でも成長する丈夫な木です.

そのため昔から燃料として重宝されてきました.備長炭の材料もこの木です.

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かつお節作りが育てる照葉樹林 (三重県 志摩市)|NHK

山路治さん.志摩を中心に,林業を営んでいます.向かった先はウバメガシが生い茂る森です.

ここはウバメガシが密集し,薄暗く,他の植物はほとんど見られません.木の成長も悪く,荒れた森です.山路さんはそんな森を選んで切っていきます.

こうして木を切って使うことが,森を育てる手入れだと,山路さんは言います.

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雑木林の萌芽更新|東京都福生市公式ホームページ

 

「もう30年,40年経ってきて,今ウバメガシ等の木が朽ち果てていく前に,もう一度山をを整理して使えるものは使うと.僕ら先祖代々,百何十年というかたちで,木に触らせてもらっているのもんなんで,伐れる(きれる)ところは伐って本当にせいりをせえへんと」

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あらわになった山肌,乱暴に伐られたようにも見えますが,斜面をよく見ると---.点点と緑が繁っています.切り株から新芽が出ているのです.ウバメガシは株を残せば再生します.伐採しても繰り返し利用できるのです.

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備長炭・木酢液のご注文は紀州備長炭窯元直送の店- http://had0.big.ous.ac.jp/thema/vegetationoka/coastal/yorisima/yorisima.htm

時間が経つと日当たりの良い斜面には,下草も生い茂ってきます.明るい草原のような環境が生まれるのです.すると,そこに集まってきた小さな虫たち.暗い森より命の多様性が豊かになるのです.

草原を見渡す森の縁に,野鳥たちの群れがやって来ました.

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鳥のお目当ては食べ物になる植物の実や虫などです.初夏には夏鳥も渡ってきます.手入れによって森はいっそう賑やかになるのです.

人々が繰り返し使ってきた森と極上のかつお節.海と森と人の暮らしつながり合い美しい里山が受け継がれています.

 

2. かつお節の生産量ランキングとかつお節の製造法/かつお節の種類

関連した項目を以下に記します.

はじめにかつお節の生産量ランキング(2015年).鹿児島県静岡県の二県で100%に近い生産量ですね.NHKで取りあげた三重県は高知に次いで第4位.割合としては0.3%ほどですが,知る人ぞ知る良質のかつお節を生産しているようです.

統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103

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かつお節の製造法については

「にんべん」のホームページから.かつお節に関する様々な情報満載のサイトです.

鰹節が出来るまで|かつお節塾|株式会社にんべん

|カツオと鰹節|かつお節塾|株式会社にんべん

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かつお節の種類

最高級品が本枯節.花がつおとして削った形態売られているのは荒節だそうです.

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鰹節辞典 −鰹節の製造法

 

最後に,私がお手伝いした調査研究の要旨です

ci.nii.ac.jp

本の森林・林業は重い課題を背負っている。市場に出した木材は原価割れを起こし,管理放棄された人工林も目立ってきた。都市近郊の里山は,農業者などと森林との関係が希薄になり,「里山の自然]の維持を求める市民らによる保全運動が広がりつつある。

このような中で,かつお節の生産地である枕崎市と山川町が位置する鹿児島県南薩地区の広葉樹林では,今なお採取林業である薪の生産が続いている。かつお節は,その製造工程のなかの「焙乾」において,燃料として広葉樹林から切り出された薪が使われる。景気に左右されることの少ない,安定したかつお節の生産には,この薪の安定供給が欠かせない。

南薩地区の人々はかつお節加工を通して,海洋生物資源のカツオと森林資源である薪を結びつけて持続的に利用してきた。日本の多くの里山が存亡の危機にさらされているなかで,ここではなぜ,その持続が可能であったのだろうか。本稿では,それを明らかにするためにかつお節生産における焙乾の意義を簡潔に整理し,鹿児島県南薩地区における焙乾用薪村の伐採と供給の実態を,薪を切る人々の姿を通して考えてみた。

結果として,かつお節製造と里山林利用(薪の伐採)が一体となって営まれている実態を明らかにしえた。

また「海」(漁業)と「森」に視点をおくことで,これまで「里」(農業)と「森」との直接のつながりに焦点をおいてきた里山研究では見えにくかった,特産物加工業の介在という利用形態が,燃料革命後も里山の維持に重要な役割を果たしてきたことが明らかになった。