パンダ 山へ帰る~密着記録 野生化プロジェクト~ - NHK(1)
深い山並みが連なる中国四川省.
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ここで,世界で初めての試みが行われています.人々が運ぶかごの中にいるのは,ジャイアントパンダの親子.人間の元で生まれたパンダの子どもを,自然の山に返す,「パンダ野生化プロジェクト」です.
成功の鍵を握るのは,お母さんパンダの深い愛情です.14年前に始まった野生化プロジェクトは,苦難の連続でした.立ちはだかる野生パンダの厳しい掟.襲いかかる様々な危険.人の手を離れ,大自然の中で生き抜く力を,どうやって身につけさせるのか.このパンダ野生化プロジェクト.去年大きな進展がありました.新たな方針の下で育てられ,おととし大自然に放たれたメスのファージャオ(華姣)が一年間を生き抜いたのです.
生まれてからふるさとの山に帰るまで.ファージャオはどのように成長し,そして,今,どこでどう生きているのでしょうか.
「ファージャオが野生のパンダと出会って,子孫を残すことが私たちの最大の願いだ」
自然に帰されるジャイアントパンダと,それを見守り支える人々.野生化プロジェクトに密着した4年間の記録です.
地球上のジャイアントパンダのおよそ8割が生息する中国四川省.パンダ野生化プロジェクトが行われている臥龍(がりゅう)自然保護区です.
その数1,864頭 ジャイアントパンダの最新の推定個体数|パンダの保護活動|WWFジャパン
中国パンダ保護研究センター.
1980年パンダを守るために,世界で初めて設立されました.
パンダ 山へ帰る~密着記録 野生化プロジェクト~ - NHK
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ここではセンターの中で生まれたパンダを野生で近い環境で訓練し,最終的に自然の山に返すことを目指しています.ここが野生化訓練ゾーン.野生パンダが住む環境と同じ深い森に覆われた,ヤマの急斜面に設けられています.一つの区画の広さは1ヘクタールほど.
その一つを覗いてみると,いましたジャイアントパンダです.
抱いているのは生後一ヶ月の赤ちゃんです.人工交配をしたあと,出産が近づいたメスを,この訓練ゾーンに放ちます.メスは自力で赤ちゃんを産み,子育てをします.監視カメラが30台以上あり,スタッフが24時間帯生でパンダの親子を見守ります.もし異変が見つかったら,すぐに駆けつけます.この日出産間近のメスがいました.モニターで出産が近いと判断し,現場に向かいます.万が一に備えてそばで見守るのです.出産直後にお母さんの体重がかかったり,地面に置かれて体温が下がったりして,赤ちゃんが命を落とすことがあるからです.
自然の出産を捉えた貴重な映像です.息み声を上げました.生まれました.
飼育員の牟士傑(むしけつ)さんです.「パンダは50%の確率で双子が生まれ,目が離せない」と言います.「パンダは一頭しか育てられません.もし双子だったら,もう一頭は私たちが引き取って世話しなくてはなりません.一頭育てるだけでも母パンダにとってはたいへんなことなのです」
山に返されⅠ年以上生き抜いているファージャオが生まれたのは2013年(7月).生後一ヶ月目の映像です.この日初めてハイハイを始めました.野生のパンダの赤ちゃんの1歳半までの生存率は,わずか30%ほど.そのため,以前はセンターの飼育員が付きっきりでで赤ちゃんの世話をしていました.しかし,初めて,子育ての全てを母パンダに任せることにしたのです.それは大きな賭でした.
飼育員李徳生さん「初めて大雨が降ったとき,私たちはすごく心配しました.母親がしっかり守れなかったら?赤ん坊が風邪をひいたらどうする?結果的に分かったことは,母パンダはどんな困難に直面しても必ず彼女なりの解決策を見つけます.今まで我々が知らなかったパンダの生態を次々に見せてくれるんです.」
新たな野生化プロジェクトによって,謎に包まれていたパンダの成長の過程が少しずつ分かってきました.
ジャイアントパンダの子どもは,良く木に登ります.お母さんが竹を食べるためにそばを離れても木の上なら他の動物に襲われません.それに木の上はお母さんの姿も見えるため安心なのです.でもこんな高い木への登り方をどうやって覚えるのか詳しいことはわかっていませんでした.
これはファージャオがまさに木登りを覚える瞬間を捉えた写真です.お母さんが木登りを教えていたのです.
パンダ 山へ帰る~密着記録 野生化プロジェクト~ - NHK
副主任張和民さん「母パンダが木登りを教えるのを初めて見ました.私も木登りを教えたことがありますが,足を噛まれて3ヶ月も入院しました.人間がいくら教えてもダメです.母パンダが教えたらすぐ上れるようになりました.」
更にお母さんパンダは早い時期から木登りを教え始めることも分かりました.こちらの親子,子どもは生後3ヶ月.まだ歩くこともできません.
子どもを壁にそっと押しつけ下から支えています.歩けるようになる前から,こうやって木登りを教えていたんですね.毎日何度も何度も繰り返し教えていました.実際に木に登れるようになるのは生後5ヶ月.一気に20メートルの高さを登ります.すごい.これはファージャオが一日をどこで過ごしているのかを付き年齢毎にまとめたグラフです.
パンダ 山へ帰る~密着記録 野生化プロジェクト~ - NHK
(テレビ画面を見て似た図を勝手に作りました)
生後一ヶ月では,一日中お母さんの体の上にいましたが,5ヶ月で木登りを覚えると,一日の90%以上の時間を木の上で過ごすことが分かりました.野生化プロジェクトによって初めて明らかになったパンダの生態です.
こんな風に母と子だけで生活させる方法を取り入れたのは,十年前の大きな失敗がきっかけでした.
中国パンダ研究センターが設立されたのは1980年.推し進められた開発により,ジャイアントパンダの住みかが失われ,絶滅が危惧されるようになりました.
保護研究センターはまず人工繁殖でパンダの頭数を増やすことを目指します.
栄養価の高いミルクを与え,人による子育ての技術も確立し,赤ちゃんの生存率は飛躍的にアップ.パンダ幼稚園と呼ばれる施設で大勢の飼育員が生まれたパンダを大切に育ててきました.2000年には,人工繁殖のパンダの数は累計123頭に達しました.
このパンダたちを本来の住みかである山に帰したい.その思いが野生化プロジェクトをスタートさせる原動力となりました.
2003年野生化の第一号に選ばれたのは,オスの祥祥(シャンシャン)です.2歳までパンダ幼稚園で飼育員に育てられました.それから3年間,屋外に自生する竹を食べるなどの訓練を重ねました.2006年春,5歳になったシャンシャンは山に放たれました.
世界初の野生復帰パンダが死ぬ、1年と持たず―四川省臥龍自然... - Record China
半年後最初の冬を迎えた12月.首につけた発信機からの信号で異変が見つかります.ある日突然普段の数倍もの距離を移動したのです.一体何が?
捜索の末見つかったのは変わり果てた姿でした.背中には大きなかみ傷.野生パンダの縄張りに入りやられたのです.耳や後ろ足も噛まれ,化膿していました.
シャンシャンは人の姿を見ると懐かしそうなそぶりを見せたと言います.
快復したシャンシャンは再び山に放たれました.しかし,その一ヶ月後シャンシャンは死体となって発見されました.再び縄張り争いに巻き込まれ,高いところから転落したと見られています.自然の中で生き抜く力はどうしたら身につくのか.野生化プロジェクトは難しい課題を突きつけられました.
副主任張和民さん「シャンシャンの犠牲は私たちにとって大きな警告だった.人間が押しつけたやり方では厳しい自然の中で通用しない.生き残れるようにするためには方法を変えなければならない.野生のパンダはそれぞれが縄張りを持ち単独で生きる動物.しかし,人間やほかのパンダと一緒に過ごすうちにサバイバルと警戒心の本能が失われていたのです.生き残る術を誰がどうやって教えればいいのか?どう考えても人間には無理だ.じゃあ,誰に頼む?パンダの母親しかいないじゃないか」
シャンシャンの死から四年後.プロジェクトは大きく見直されました.人間ではなく母パンダが子どもを育てる.それが新たな訓練の方針となりました.野生化プロジェクトは三つのステップに分けられました.
第1期の訓練は,野生に近い環境で母と子2頭だけで生活させます.目標は警戒心を身につけさせること.
第2期は野生動物も住む広い山に場所を移します.様々な危険を避けながら竹を探す能力を養います.
2つの訓練が終わると母親から離され,大自然の山に放たれます.野生のパンダと出会い,子どもを産む.それが究極の目標です.
新たな訓練が始まってから,パンダの子育ての秘密が詳しくわかってきました.
お母さんが子どもの首を噛んで歩き出しました.走る練習です.自然の山ではオオカミなどいろんな生き物が子パンダを狙ってきます.逃げるために急斜面でも駆け回れるようお母さんが特訓です.
野生化のためにはパンダが人になついてしまうことは絶対に避けなければなりません.
飼育員が訓練ゾーンに入るときには,この通称パンダ服を着ます.人間の匂いを消すため,パンダの糞尿を塗りつけてあります.子パンダが人に慣れることを防ぎ,ほかの生き物への警戒心を失わせないための工夫です.月に一度の身体検査です.子パンダは大暴れ.普段お母さん以外の生き物に接していないからです.パンダと見せかけても,この通り(手にひっかき傷)
パンダ 山へ帰る~密着記録 野生化プロジェクト~ - NHK
今日は野生化訓練の成果を調べるあるテストが行われます.持ってきたのは小型のスピーカー.スピーカーから動物のうなり声.流れたのは野生動物のうなり声.
子パンダは一目散に木に登りました.危険を感じたら急いで木の上に登るよう,しっかりとお母さんに教わっていたようです.訓練の成果は上々です.
監視カメラでは見えない夜間や林の中での様子を調べるため録音による観察も行っています.パンダにつける首輪に小型の録音機をセット.この首輪を母親と子どもの双方につけ,定期的に声を録音します.一体どんな音がおさめられているのでしょう.
「これは親の声です.これです.羊の鳴き声のような声.母親が注意を促すときや子どもを呼ぶとき,この声を出します」
「今度は子どもの声です.母親の呼び声に答えています.小鳥みたいな声.録音データを分析することで,親子のコミュニケーションや子パンダの発育の過程がわかります.その分析をもとに訓練したパンダが野生に帰せる段階かどうか判断できます」
こうした録音データを元に,ファージャオが次の訓練に進むことができるか見極めます.
一歳二ヶ月になったファージャオ.相変わらず一日のほとんどを木の上で過ごしています.木から下りてお母さんのもとに行くのは夜暗くなってから.そのあと何をしていたかというと---.
(母乳を飲む音)(ササの音)
ササを食べているお母さんのそばでおっぱいを飲んでいる音です.一歳二ヶ月頃までは母乳が主食です.
その半年後,1歳8ヶ月のファージャオの音声です.
(ファージャオがタケノコを食べる音)
大人のパンダと同じようにタケノコをしっかりかみ砕いて食べている音です.
警戒心が身につき竹も食べられるようになりました.第一段階の訓練は無事完了.次のステップへと踏み出します.
第2期訓練は第1期よりも険しく広大な山で行います.餌の竹を自分で捜せるようになることが目標です.
ここが第二訓練基地.10種類以上の竹が生い茂るこの山で親子で生活します.
ここにはユキヒョウやオオカミなど,子パンダを狙う様々な野生動物も生息しています.観察のため棚で囲まれていますが、ほぼ野生と同じ環境です.訓練基地にはセンターのスタッフが常駐し,毎日追跡調査をします.
(以下続く)
ファージャオ親子の間に異変が起きました----. /NHK パンダ山へ帰る(2) - yachikusakusaki's blog
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